01.喜びに満ちた顔(怪士丸)

	潔癖症で暗い担任の斜堂に似て、基本的に顔色が悪く暗い印象を持たれている
	1年ろ組の生徒にも―勿論斜堂にも―ちゃんと喜怒哀楽はある。
	その感情の変化を、最も正確に読み取れるのは本人同士で、次いで同じ委員会の
	生徒の方が他の委員会の生徒よりは多少読み取ることに長けているが、接点が
	あって慣れれば、それなりに読み取れるようにならないことも無い。

	それでもやっぱり解り難いのは事実で、特に4人の中でも最も顔色が悪い図書委員の
	二ノ坪怪士丸の表情は、ろ組の者と図書委員にしか読み取れないのではないかと
	言われている。
	しかしながら、無口で表情も変わらない委員長の感情ですら読み取れる図書委員の
	面々からすれば、怪士丸の表情はそれなりによく変わる方だという。


	「こないだ俺のバイト手伝ってもらった時、最初は女装に抵抗しめしてましたけど、
	 慣れたら結構可愛く笑えるようになってたっすよね?」
	「そうだね。お客さんにも、結構評判良かったよ」
	「僕も、入れ替えの時なんかに、兄妹かって訊かれたので、
	 多分2人共ちゃんと女だと思われていたみたいです」

	「ていうか、普段から先輩に褒められた時とか、何か良いことが
	 あると、ホント嬉しそうに笑いますよね」
	「……ああ」
	「正直、他のろ組の連中より解り難いとか言われてますけど、
	 それは他の人達が、解ろうとしてないだけですよね」
	「いや。それは、慣れもあると思うよ。でも、解らないのは勿体無いよねぇ」


	そんな風に図書委員達は思っているが、実の所他のろ組っ子が所属する委員会の面々も、
	あまり口には出さないが、「ウチの子が一番可愛い」と思っていたりするようである。




	02.悲しみに染まった顔(斜堂)

	怖いこと、嫌なこと、悲しいこと。それらに出会った時。
	泣くことが出来るのは、まだ幼い君達の特権です。

	年齢的な意味もありますが、それ以上に、この先君達が進む道は、
	泣くことはおろか、本来ならば、笑うことも、怒ることも許されません。

	それが「忍び」というものです。
	普段から全ての感情を無くし、何も感じるなとは言いません。

	けれど、平時とは切り替え、何も感じず、何事にも動じないようにも
	ならないといけないのは、事実です。

	臆病であることは、優しいということにも通ずると考えると、そんな君達に、
	そうなれと言うのは酷なことで、君達の純粋さが喪われることを悲しく思います。

	しかし私は、それを表に出しはしません。
	そのように育てることが、我々忍術学園教員の役目なのですから。







	03.怒りに震える顔(平太)

	僕が所属している用具委員会の、僕以外の委員は、割と感情が
	表に出やすい人が多いと思います。

	特に、同じ1年生のしんべヱと喜三太の、アノ嬉しそうだとか楽しそうなのを
	全面に出せる所は、結構羨ましいし、怒りっぽい感じがする富松先輩の、
	ああやって言いたいことはちゃんと言える所や、少し位キツいことを言っても
	関係にヒビが入らない友達が居る所も、実はちょっぴり憧れていたりします。
	それから、食満先輩の、アメとムチの使い分けとか、「委員長」で「先輩」な顔と
	「対等な友達」の顔の切り替えも、あんな風になれたらな。と思って、実は
	こっそり目標にしているんです。


	それでですね、何が言いたいのかというと、僕だって、感情を表に出して
	主張することはあって、初めて最初から最後まで1人で修理して、
	しんべヱにも喜三太にも自分のことのように一緒に喜んでもらって、
	先輩方にも「よくやった」「今後もその調子で頑張れよ」って目一杯
	誉めてもらった桶を、「うっかり」で壊されたら怒るし、富松先輩や
	しんべヱ達が代わりに怒ってくれなくても、自分で抗議出来るんです。


	そういうわけで、まず、僕にちゃんと謝ってから、しっかり桶を直して下さい。
	僕は、食満先輩や富松先輩みたいに、文句を言いながらも「いつものことだから」って、
	代わりに直したりはしませんからね。





	04.悔しさにゆがむ顔

	僕らは、い組程賢くも無ければ、は組みたいに経験豊富で好奇心旺盛でも
	無く、どちらかと言うと引っ込み思案で、臆病な方です。

	それから、顔色が悪いだとか、日陰が好きなことや、伏木蔵を除けば、
	若干他の生徒―先輩方も含めて―に比べて、個性や存在感が薄いことも、
	一応認めます。

	だけど僕らだって、みんなの力になりたいんです。同じ忍術学園の仲間
	なんですから、もっと頼……れはしないかもしれませんけど、戦力として
	見て下さい。危険なことや大変な時に、「ばっちい」とか言いません。
	だから、指示を下さい。目立ちたがりで、前線に立ちたがる生徒が多いなら、
	僕らは後方支援や雑用として、そういう生徒達を支えます。

	多分、それが一番僕らに向いていると思うんです。

	



	05.反応の返らない顔(孫次郎)

	僕は伊賀崎先輩じゃないから、虫達どころか、じゅんこ達の表情も解らない。
	獣の表情は、尻尾や態度なんかからも何となく解るけど、虫や蛇のは無理だった。

	そもそも最初の頃は、表情が解る以前に、触れるのも近付くのすら嫌だった。
	それでも、少しずつ慣れていく内に、愛着を持てるようになってきて、
	今は世話をしている時に寄って来ても平気だし、逃げたのを探して、素手で
	捕まえることも―毒が無い子なら―出来るようになった。

	それから、伊賀崎先輩のじゅんこやきみこは、僕達の顔を覚えているのか、
	散歩の最中に遭遇した時なんかは、向こうから寄って来ることも、たまにある。
	そんな時は、ちゃんと相手をしてあげながら、伊賀崎先輩の所へ連れて行って
	あげるようにしている。そうやって送り届けると、先輩からお礼と一緒に
	「じゅんこも喜んでいる」
	とか
	「きみこは孫次郎を気に入ったようだ」
	とか言われたりしたけど、僕には全く様子が変わって見えなかったから、本当なのかは
	解らなかったし、嬉しいともあまり思わなかった。

	だけど最近は、伊賀崎先輩の首に居るじゅんこと、散歩中のじゅんこだと、伊賀崎先輩と
	居る時の方が嬉しそうな感じがしなくもないように見えてきたし、山の中なんかで遭遇する
	野生の蛇とじゅんこやきみこは違うと思えるようになったし、何となくきみこ達からも
	好かれているような気が、しなくもない。

	そんな風に組のみんなに話したら、
	「よかったね」
	って言ってもらえた。それもひっくるめて、ちょっと嬉しいと思えるようになったのは、
	進歩かな。