僕―平野綾―の、前世でも今世でも2歳上だけど同級生な斉藤タカ丸さん―こと今は斉藤隆さん―の
「ずっと会いたかった」も「ずっとずっと探し続けていた」も、「自分の持って生まれた前世の記憶が
本物だと証言してくれる人を」であって、同じ内容の記憶を持っていてある程度親しかった知り合いなら
誰でも―僕でなくても―良かったことは解っている。だけど、それが僕だけを指していたら良かったのに。
最近よくそんな風に思うんだけど。そう、記憶持ちで同居している叔父の金吾に相談したら、飲んでいた
お茶を思い切り噴かれた。
「……何その反応」
「え、いや、だって、まさか綾部先輩というか綾から、恋愛相談される日が来るとは思ってもみなかったので……」
別にそんなつもりは無かったけど、そうか。この感情は、限りなく恋愛感情に近いものなのか。だとしたら、
シスコンをこじらせて独身どころか彼女の1人も居ないアラサーの金吾に相談したのは、間違いだったかも
しれない。
でも、じゃあ、誰に相談したら良いんだろう。それとも、モヤモヤの理由は解ったんだから、あとは別に誰かに
相談したり手助けしてもらわなくても、思うままに行動すれば良いのか。
そんな僕の考えは、顔にも口にも出て無かったようだけど金吾にはアリアリと解ったらしく、
「早々に見切りをつけないで貰えますか。たまには、叔父として頼られたいです。少なくとも、姉さんに対する
説明やフォローは、俺の役目でしょうし」
と言われた。そういう、元後輩口調が頼りにならない原因の一端だと思うけど、確かに滝への根回しは必要だし、
だとすると金吾が一番向いているのは事実かな。
何しろタカ丸さんは、前世とほとんど変わっていないけど、それはつまり見た目も中身もチャラめってことで、
ただでさえ取っ付きにくい印象で他人が興味が無い上に、一応異性な僕とは対極っぽく見えるタイプな訳だから、
友達としてでも彼氏としてでも、接点やきっかけを説明するのは難しいというか面倒臭い。だから、それらしく
解釈して納得した体を金吾が取ってくれると、相当楽な気はする。
そう思ったんだけど、実は前に一度告白紛いのことを言ったことがあって、その時に
「その方が一緒に居ても自然に見えるので、付き合ってることにしときましょうか」
と付け加えたら「そんな理由でそんなこと言われても嬉しくない」と振られたことがある。だから、改めて
同じようなことを言ってみても、本気には取ってもらえない可能性が高い。
そうすると、やっぱり金吾や他の誰かに相談してみた方が良いのかな。なんて考えていたある日。
昼休みに教室で、購買にパンを買いに行ったタカ丸さんを待っていたら、名前も覚えてないクラスメイトから、
「平野さんと斉藤サンって付き合ってるの?」
と訊かれた。
「何で?」
「だって、いつも一緒に居るし、斉藤サンって、前はちょっと取っ付き難かったのに最近は変わったって、
先輩達が言ってたから……」
「それで? 僕らが付き合ってるかどうかが、君やその先輩に何か関係あるの?」
確かに、タカ丸さんは大抵僕と一緒に居る。それは、他に前世の記憶を共有している知り合いが居ないから
っていうのと、2度目の高1の筈なのに、教科によっては授業にさっぱり付いていけなくて、逆にランクを
落としたから楽勝な僕に勉強を教わっているからで、年下の僕に臆面も無く教えを請うことが出来る所も、
全然変わって無いと思っていたけど、どうも僕が入学する前のタカ丸さんは、そんなタイプだとは思われて
いなかったらしい。その辺りのことについては、後になって本人から
「色々自暴自棄になって、荒れてた時期もあってねぇ。その頃は、この見た目の所為もあって、よくケンカ
売られたりしてたんだけど、一応忍たまな頃の記憶とかあるから、急所も戦い方もある程度は解るんで、
素人さんには負けなかったんだよねぇ……」
と、言葉を濁しながら教えてもらったけど、要は年上な上にヤンキーだと思われていたようで、遠巻きにされて
いることが多かったという。それが僕とつるみ始めてからは、何だか人懐こくてちょっとお馬鹿な感じなのが
本来の性格だってことが解って来たので、もしも僕が彼女でないなら狙っている女子は各学年にいるようだと、
質問して来たクラスメイトは教えてくれて、どうもその子もそんな女子の1人だったらしい。
「ふぅん。……今の所付き合ってはいないけど、そんな上っ面しか見てない生半可な相手にはあげない。
400年前からアノ人は僕の物で、僕はアノ人の為に今ここに居るし、今世でアノ人が今までずっと
独りだったのは、僕と出会う為だから」
今まで散々「何を考えているのか解らない」と、実の親にすら言われ続けて来たし、一人称は「僕」で口調も
男口調のままだから、今更、電波だろうが不思議ちゃんだろうが前世系だろうが、どう思われたって構わない。
滝とタカ丸さんと、あとついでに金吾とか他の前世の知り合い辺りが解ってさえくれれば、それで良い。そう
思って宣言してみたら、質問して来た子を中心に周りがどよめいたのと同時に、ちょうど教室に戻って来た
タカ丸さんが、ドアの手前で固まっていた。
「あ、綾ちゃん。今の……」
「おかえりなさい、タカ丸さん。前にも言いましたが、やはり僕が滝達とは違う世代に生まれたのも、貴方の
周囲にアノ頃の知り合いが居なかったのも、必然だと思うんです。それで、お互い記憶がある以上は、他の
無関係な誰かにむざむざ奪われるのは癪だというのが、僕の本音のようでして」
滝の前ですら、滅多に見せたことの無い極上の笑顔で、再度同じ内容を繰り返すと、タカ丸さんはより一層
面食らった様子で、しばらくどうしたものか考え込んでから、とりあえず「ありがとう」と返してくれた。
「綾ちゃんにそこまで言ってもらえて嬉しいし、悪い気はしない。だから、そうだねぇ。付き合っちゃおうか」
僕の発言の所為で、教室中どころか他のクラスや他学年から話を聞いて来た野次馬達にまで注目されている中。
タカ丸さんは、ひとまず買ってきたパンを頬張りながらしばらく考え、2つ目のパンを食べ終えた所で、そんな
答えに行きついたらしい。その、あまりに軽い口調に、周りで様子を窺っていた誰もが唖然としたようだけど、
僕からすれば、これでこそタカ丸さんだと感じた。
そんな訳で、付き合い始めたその日から、僕らは校内で一番有名な変人カップル扱いになり、経緯を説明して
「そういうことだから」
と、約束通り滝への根回しを頼んだ金吾にも頭を抱えられた。だけど、結果的に滝は、彼氏が出来た報告だけで
「綾ももう子供では無いのだから、好きにすれば良いだろう。ただし、節度を持った付き合いをするように」
そんな風にあっさり認めてくれて、僕のもう一人の父親代わり気取りの三木が、噂を聞きつけて
「タイプが違い過ぎる」
「2歳上なのに同級生って……」
等々騒いで反対して来た時も、
「あの、他人に興味が無いようで、案外人をよく見ている綾が、自ら選んだ相手なのだぞ。そこらの軽薄な輩と
同じな訳が無いだろう」
と、全面的に味方に付いてくれた。
だからこそ、そんな滝を裏切ることが無いように、僕の実の親の二の舞―学生の内に出来婚―だけは、絶対に
する気はありませんから。そう言ったら、
「……最低でも高校卒業まではお預けかぁ」
と返ってきたけど、別にそこまでは言っていません。あと、「お預け」という表現になるということは、
そういうことしたいんですか? だとしたら、それは男としての純粋な欲求なだけですか? それとも……
なんてことは、流石の僕でも、本人には訊けないし、金吾に相談するのも無しだって解っているので、誰か他に
居ないか考えていたら、伊助と左近が女に生まれ変わっていて記憶があるのを思い出したので、試しに相談して
みたら、
「タカ丸さんの真意は解りませんが、僕の見解では、ちゃんと綾部先輩を女の子として見ていて、その上での
発言だと思います」
「僕も同感。けど、僕らの答えじゃまだ納得がいかないようでしたら、浦風先輩達にも訊いてみたらどうですか?
おそらく似たような道を通って来ている筈ですから」
と、藤内の近況―2年位前に伊賀崎孫兵と結婚して、最近産休に入ったばかり―と、家の場所を教えられたので
行ってみた。そこでの詳しいやりとりは省くけど、要約すると、藤内にとって前世の記憶や関係は大切じゃない
訳ではないけれど、それよりも今世をキチンと謳歌したいらしく、きっかけや孫兵側の真意は未だにイマイチ
よく解らないそうだけど、それでもそれなりにちゃんと恋愛をして、少しずつ前に進んでいったつもりだという。
「多分ですけどね、俺らの場合、『他の誰かと付き合うのを見たくないと思った』の時点で、孫兵は俺のことを
女子として見てたと思うんですよ。それで、俺の方も、割り切って女としての人生を歩んできたつもりでした
けど、後になって、孫兵以外の男とその手の事をする気になれるかどうか想像してみたら、『無いな』って
感じたんです。でも、前世では俺も、孫兵も、お互いにこれっぽっちもそんな感情を抱いたことはないので、
前世を踏まえた上での関係ではありますが、今世でこういった形で再会したからこそ生まれた感情や関係だと
思う訳です。それを先輩達にも当て嵌めてみますと、タカ丸さんは綾部先輩を『綾部喜八郎』という男友達
として見ると同時に『平野綾』という女の子として見ていて、その上で手を出したいと感じていて、先輩も
女子として彼氏と関係を持つのは、やぶさかでないとは思っている。つまり、少なくともその件に関しては、
『斉藤タカ丸』と『綾部喜八郎』ではなく、『斉藤隆』と『平野綾』としてお互いを意識している、一般的な
高校生のカップルなんじゃないかな。と思いますが、どうでしょう?」
あくまでも、自分達の関係は一例にすぎないので、当て嵌まらない可能性もある。と付け加えられはしたけれど、
多分あっていると思うというか、あっているって信じたい。そう答えたら、
「つまりは、ちゃんと『綾ちゃん』として『斉藤くん』が好きなのね。なら大丈夫」
と、『藤菜先生』の顔で笑われた。
うん。そうか。前世を踏まえた上で、キチンと今の、別の人生を歩めていて、コレは「平野綾」としての
感情なんだ。そう告白して、
「だから、好きにしていいですよ」
って言ってみたら、どんな顔をするかな。
4周年記念 みなも様リクエスト
「転生のタカ♀綾が読みたいです」というだけで、シリーズ設定かシリーズ外かの指定はなかったので、
シリーズ設定で本編の補完ぽくしたら、タカ丸の出番が少なくなってしまいましたが、こんなんで
よろしいでしょうか?
2012.7.29
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