僕は小さい頃、三郎父上が父親で、雷蔵父さんが母親だと信じていた。
	というか、六歳まではそれぞれを「父さん」「母さん」と呼ぶように言われていたから、近くに住んでいた
	子がそう呼んでいる人達のようなものだと捉えていたような気がする。けれど、頻繁に引っ越し、その度に
	別人に変装しているけれど同じ人だと教えられていたわけだから、一般的な家族の概念を解っていなくても
	仕方ないと思う。
	それでも「父さん」と「母さん」と呼ぶように言われていた頃は、一応雷蔵父さんは女装で母親役をしていた。
	でもアレは、今考えると僕の為というよりは、三郎父上の趣味だった気がしなくもない。

	本当のことを聞かされ、呼び方を自主的に「父上」と「父さん」に変えたきっかけは、僕が
	「弟や妹が欲しい」
	とでも言ったのか、単にきり丸さんが父上達を適任だと考えたのか、きり丸さんの所の生後間もない双児を、
	我が家で引き取ることになったことだった。


	その時にきり丸さんが
	「どっちも産めないわけですし」
	と言ったので、どういうことなのか首を傾げたら、六歳時には難しいような細かい説明を父上がしてくれたような
	覚えがある。けれどその当時理解出来たのは、2人共父親だということと、妹が2人出来ること位だった気がする。

	けれどその時は、良く解らないながら「そんなものか」と納得して、むしろ寝耳に水だったのは、改めてどちらが
	実の父親か聞いた時だったような気がする。何しろその頃には、父上が父さんしか見ていないことには気付いて
	いて、それはそれとして当然だと思うようになっていた……って、考えてみると随分おかしいな。何で僕はそれで
	納得しているんだろう。
	母親だと思っていた人が男だったことを聞かされたり、母親が居なくて父親が2人だという状況がおかしいことを
	教えられたり、妹がいきなり出来ることの方が、一般的な感覚からすれば衝撃的だよな。しかも常に変装をして
	いる所為で実の父親の素顔を見たこと無いし、そもそも父上と父さんの関係を気にせず流しているのは……まぁ
	それは処世術か。
	細かいことを気にしていたら、この家ではやっていけないしな。




五万打記念企画 木綿リク 「子世代で寝耳に水」 最初に思い付いたのは泉で、寝耳に水の宝庫だけど、本編ネタを割りまくるので却下 その次に伊織結婚顛末を書きかけてみたけど、ネタを割ってるし痛い流れになったので強制終了 そして結局風早に落ち着いてみるものの、コレは「寝耳に水」なんだろうか 2010.5.26