日々様々なことに興味津々で、余計なことに首を突っ込みがちな1年は組の今日の話題は、
「6年生で一番強いのって誰だろうね」だった。
委員会の直属の先輩に6年生が居らず、更に何かと日々張り合っている級友達を楽しげに
眺めている転入生の先輩―斉藤タカ丸―を持つ火薬委員の伊助が、タカ丸から聞いた話を
披露している最中にふと口にした疑問に、まず真っ先に「うちの先輩」との声を上げたのは、
普段散々振り回されているからこそ、その化け物染みた体力やら技やら何やらを、骨身に
沁みて嫌というほど痛感している、会計委員の団蔵と体育委員の金吾だった。
すると、
「何言ってるの。参謀的な意味でも、うちの立花先輩でしょ」
「だったら、うちの中在家先輩だって、あの落ち着きと冷静さと懐の広さは大将格だろ」
「食満先輩もぉ、パパさんみたいに頼りになるよ〜」
「そーだよぉ。とーっても面倒見が良くて、ナメさん達連れてても怒んないんだよ」
等々、他の委員会の後輩達も張り合い始めた。
「……乱太郎は良いの?」
「うん。薬に関する知識は誰よりもすごいし、調薬も手当てもお上手で、人望もあるけど、
『不運大魔王』だから……」
6年生の委員長が居ないので話に混じれない、生物委員の虎若、三治郎と、学級委員の庄左ヱ門は
ともかく、保健委員会は委員長居るのに対抗しないの? と訊ねると、乱太郎は少し残念そうに
笑ったが、
「そっか。でも、前に鉢屋先輩が、一番敵に回したくないのは善法寺先輩かもしれない。
って言ってたよ」
「ああ、それ久々知先輩からも聞いたことある。正攻法で戦うんなら、武闘派の先輩達には
隙を突いたり作戦によっては勝てるかもしれないし、模擬戦ならそんなえげつないことは
しないだろうけど、実戦で手段を選らばなくて良くなったら、善法寺先輩が一番怖い。って」
「あと、俺らは伊賀崎先輩から聞いたんだけど、保健委員とはなるべく円満な関係保っといた
方が良いってさ」
「そうそう。保健委員を怒らせると、傷薬や湿布に辛子混ぜられたり、でたらめな製法の
解毒剤渡されたりするって……」
そういえば、保健委員会の顧問で保健医の新野先生も、普段はニコニコ笑っているから、たま
に怒るとめちゃくちゃ怖いし、笑ったままえげつない手を使うのが恐ろしいよなぁ。
と、伊助や生物委員2人の証言を聞いた他の面々も思ったが、でもやっぱり総合的な能力なら……
などと議論を再開しかけた所で、金吾がハタと気が付いた。
「……僕、七松先輩が、本気で青褪めて、土下座しながら善法寺先輩に謝ってるの見たことあるかも」
「そういや俺も、ひとっ言も口利かないで、冷たーい目をした善法寺先輩の前で、気まずそうに顔を
見合わせてる潮江先輩と食満先輩見掛けたことある」
見ちゃいけないものを見た気がしたし、何かすごい怖かったら忘れてたんだよなぁ。と尻馬に乗った
団蔵に、
「あー、解る解る。普段にこやかだったり呑気そうな人が、マジギレすると怖ぇよな。ニコリとも
しない雷蔵先輩の後ろを、真っ青になった鉢屋先輩が謝りながらついて回ってんの良く見るぜ」
「うん。僕は、前に一度タカ丸さんが本気で怒ったら、田村先輩と滝夜叉丸先輩がすぐさまケンカを
止めた。って、綾部先輩から聞いたことあるよ」
「うちの組でも、兵ちゃんがキレるよりも、伊助母ちゃんがプッツンしたり、笑顔の無い三ちゃんの
方が怖い。ってことだよな」
「……『母ちゃん』言うな虎若。あと、怒られたくないなら洗濯物溜め込まないでよ」
という感じで、「温厚な奴がキレると怖い」という話に移って行き、今度は「マジギレしたら一番
怖いのは誰か」という話になり、
「怪士丸が本気でキレたら怖そうじゃね?」きり
「だったら孫次郎だってそうでしょ」三治
「もしくは、小馬鹿にするんじゃなくて、本気で見下しきった一平とかな」虎
「嫌悪感むき出しの時友先輩とか、見たくないかも」金
「尾浜先輩にまで見捨てられたら、鉢屋先輩は結構お終いだと思うんだけどどうだろう」庄
「やっぱり無表情なタカ丸さんは怖いよ」伊助
「たまーに真面目に怒ってる小松田さんは、結構怖いよぉ」しん
「だよねぇ。キレないで静かに見捨てる富松先輩もちょっと怖いけどねぇ」喜
「滅多にないけど、声を荒げる斜堂先生も案外迫力あるよ」兵
「その逆で、淡々と静かに説教してくる潮江先輩も、逆に怖い」団
「静かにキレた伊作先輩は時々見るから、新野先生かなぁ」乱
等々議論を交わした結果。満場一致で
「土井先生に見捨てられんのが一番怖い!」
という結論に達したという。
5周年記念品 青3「冷たい視線」
当初「1は目線の6年生の力関係」の予定だったのが、脱線していき良く解らないことに……
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