地球では年度始めと呼ばれる時期の、とある日。M78星雲光の国の宇宙警備隊およびその関係機関は、
とある噂で持ちきりになっていた。その噂というのは……
「ねぇねぇ、ヒカリ。メロスさんが僕のお父さんで、ゼノンさんはメロスさんの弟だって聞いたんだけど、
ホント?」
「……。誰だ、そんな古い噂話を蒸し返した奴は」
「えっと、僕はガイアさんとマックスさんから聞いたんだけど……」
自分の出自にまつわる話なのに「へぇ〜、そうだったんだぁ。ヒカリなら知ってるかな」程度のノリで
訊きに来たメビウスに、ヒカリは
(昔、散々っぱら俺やゾフィーがからかった時は、全力で否定していたけどな)
と思い返しつつも、セブンもつい最近まで隠し子─ゼロ─の存在をひた隠しにしていた訳で、真相は
不明だからと、
「少なくとも、俺はメロスからそういった話を聞いたことはない」
程度の返答に留めておいた。
一方その頃。もう1人の噂の当人─メロス─は、訳も解らないままいきなり優秀な部下にして可愛い義娘な
アウラにフルぼっこにされかけていた。
「ちょい待ちアウラ! 俺が何したってんでぇ」
「胸に手を当てて、よくよく考えてみて下さい! セブンと同類なんて思わなかった。いえ、下手したら
もっと性質が悪いわ」
激昂しながらもちゃんと答えたアウラの言い分から、
(セブンの悪行で、俺にも当てはまりそうなのってぇと……ゼロのことで、メビウスか)
と思い至りはしたが、なんちゅう今更な噂に振り回されてやがんだ。とか返したら、より一層
キレんだろうな。と判断し、とりあえず「誰から聞いた」とだけ返すと
「ユリアンから『メビウスが隠し子で、ゼノンが弟で、ついでにネクサスも親戚。って噂が
流れてるんだけど?』との連絡がありましたが……否定しないんですね」
メロスの端的な答えを、アウラは肯定の意に捉えたらしいが、単に昔散々っぱらイジられたネタだし、
ゼノンが俺ベースなのは公式で、メビウスとの関係も完全否定出来る根拠は無ぇし、ネクサスの奴も
似てるっちゃ似てるか。てなこと言ったら、「メタ発言はやめて下さい!」とか返されんだろうな。
ということで、とりあえず否定はしなかっただけのことだった。
「……メビウスが弟。っていうのは、あの子可愛げのあるいい子だから悪くないですし、ゼノンさんが
叔父というか兄さんなのも、アリだと思います。でも、それとこれとは別問題で、相手が誰なのかも
隠していたことも気になりますけど、何で父親の名乗りを上げないんですか! セブンですら、バレた
以上は潔く認め、今ではすっかり親バカなのに」
「おめぇやメビウスの奴がもっとガキの頃にも、んな噂が立ったこたぁあるが、俺にゃ身に覚えも心当たりも
ねぇよ。ったく、どこの誰が蒸し返したんだか知らねぇが、んなガセを鵜呑みにすんな」
どんどん機嫌が悪化の一途を辿っているアウラに、メロスは黙っているとヒートアップする一方だと判断し、
若干力業でその話題を強制終了させ、厭な感じのソロバンを弾く幻聴─と「メビウスが身内なら、芋づる式に
ヒカリさんも!」という不穏な呟き─が聞こえた弟のファイタスにも
「おめぇも訳分かんねぇ算段してんな。どっこも信憑性のねぇ風聞だっつっの」
とのツッコミを入れた。
「にしても、マジで誰が蒸し返しやがったってんだ」
「私はユリアン達から聞いて、ユリアンは警備隊中の噂になっているって言っていたけど……」
そんな疑問は、ヒカリからの報告と弟達─特に元末弟─の質問責めにあったゾフィー含む光の国の面々も
勿論抱き、出所を辿ってみたところ、ほとんどが最強最速を無駄活用したマックスと、おしゃべりで顔の
広いガイアが触れ回っていたことが判明した。そして、その2人から更に情報源を辿ってみると、ガイアは
「僕はマックスから聞いて、噂の伝播速度を調べてみたかったので拡散してみました(笑)」
とのことで、マックスは
「俺は、ゼノさん本人から。休憩中の雑談で、『そういえば、言っていませんでしたが』って……」
という、まさかの張本人だった。
「……何がしたかったの、ゼノン?」
「いえ、特にこれといった目的があったわけではないのですが、ふと、今日が4/1だと気付いたもので」
マックス1人にしか話していないのに、まさか半日で警備隊全体に拡がるとは、本当に最強最速の無駄遣いですね。
淡々とそう返されてしまったら、
「メビウスやアウラちゃんにはこっちで説明しておくけど、基本的には噂の撤回は自分で頑張ってね」
としか返しようが無かった。
オマケ
ゼノンのちょっとした気紛れから発した噂は、拡散した連中に真相を説明して打ち消させたり、真偽の程を
本人達に尋ねに来た者には直接否定したりしている内に、徐々に収まったが、
「なぁなぁ、こんな噂聞いたんだけど……」
と、ダイナが仲間達に今更その話題を持ち掛けたのは、噂がほぼ収束しかけた頃だった。
「……お帰り馬鹿犬。ガイア達と一緒に出掛けたのに、一人だけ迷子になるなんて流石だね」
「それ、暗に僕らのことも『何で一緒に連れて帰って来なかったの』って責めてるよね、ティガ」
「うん。そこはゴメン。で、この噂は知ってたか?」
「うん。それ、エイプリルフールの嘘っていうかガセネタだよ。いつ何処で聞いたの?」
地球での某イベント後、ものの見事にまっすぐ帰って来れなかったダイナは、そのお約束っぷりと、不在
だったとはいえ今更過ぎる噂の両方に呆れられたが、
「悟んとことか、通りすがりのバルタンとかババルウとかから。悟は、行商に来たカネゴンから聞いたらしいぜ」
「……この星では収まった噂が、独り歩きして近隣の星系中に拡がっている可能性はあるな」
ダイナの証言を受けてのアグルの呟きに、
「あー、うん。確かにそれはあるかも。やっぱり噂の伝播力ってスゴいなぁ」
「特に、マックスからタイニーちゃんに伝わっていたら、全バルタン星人に伝わっていると考えた方が
良いだろうね」
ガイアとティガも「ゼノンはここまで想定してたのかな」としょっぱい顔をした。
結局。何気に前からずーっと密やかに囁かれ続けてる噂だから、身内がホントのところを解ってれば
良いよね。と気にしないで、訊かれたらその都度説明する。ということで落ち着いたが、
「まぁ、私は仮にこの先メビウスやメロスさんとの血縁設定が発覚したとしても、特に気にしませんが」
などとお茶を啜りながら呟いたゼノンに対する
「……ゼノさんの考えてることは、猫耳帽の構造並にわかんねぇよ」
とのマックスのぼやきは、
「マックスにしては、上手いこと言った?」
「どうでしょう。ようするに、彼は謎が多い。ということではないでしょうか」
『ゼノンについては、検索しても、ほとんど情報が出ない』
『そもそも、お前は頭を通さずに喋るグレン並の馬鹿なのだから、我々にも解らないアノ帽子の構造も
他人の考え方も、理解出来る訳がないだろう』
「ま、焼き鳥よか空気は読めるみてぇだけどな」
『失礼な! 私のどこがKYだと!?』
「おめぇの発言全部に決まってんだろうが。おりゃこう見えても色々考えて喋ってんだぞ」
「……失言は多いし調子に乗りすぎるけどな」
「あ。テメ、ゼロ。お前まで敵に回る気か。俺の失言は、お前の振りなこともあんだろうが!」
「だとしても、アドリブも多すぎて拾うの大変なんだよ!」
「……3人共。低レベルな争いは見苦しいですよ」
「んだとぉ。お前も参戦すっかミラーちゃんよぉ」
「落ち着け、グレン。後で言い分は聞いてやるし、ナインも困った顔してんぞ」
「おっ、そりゃ悪かったなツーダッシュ」
『別に』
『何故お前は、ナインにだけ甘いのだ!』
「ガイアとダイナとティガをリスペクトしてんのと同じ理由だ、文句あっか焼き鳥!」
などという、毎度の─若干メタ発言の混じる─UFZのケンカのネタになっただけだった(笑)
発端はたしか、メロスを「兄さん」呼びしてみるゼノさん(真顔)が書きたかった筈。
で、その後最強最速の無駄遣いや愉快犯様が降りて来て、キレる義娘さん等々姉さんのリクも
盛り込んで、ついでにこないだのROCK DAYで滾ったやり取りも加味した結果こんな感じに
戻