『医務室にて』
初冬のある日のこと。鍛練中に怪我をして医務室を訪れた潮江文次郎の目に、まず入ったのは
「何してんだ、お前」
「ん〜。伏木蔵で、暖をとっている」
一年生の鶴町伏木蔵を抱き込んでいる、保健委員長善法寺伊作の姿だった。
「まだ火鉢は用意しなくてもいいかと思ってたんだけど、急に寒くなったからさぁ」
ひとまず伏木蔵を手放し、己の手当てをしている伊作に、文次郎が先程の行動の理由を尋ねると、そんな
答えが返ってきた。
「……解った。火鉢出すの手伝ってやるから、さっきのは止めろ」
「わーい。ありがとう。上の方の棚に仕舞っちゃったから、出すの大変で」
嬉しそうな伊作に
(もしや、俺は乗せられたのか)
と文次郎は思ったが、真相は定かでない。
『冬眠中』
例年、蛇のじゅんこを始めとした愛しのペット達が冬眠しはじめると、三年い組の伊賀崎孫兵は少しずつ
落ち込んで行き、ついでに首にじゅんこが居ないことも相まって、見た目も少し寒々しい感じになる。
しかし今年は、じゅんこが冬眠に入ってからしばらく経ったある日。孫兵の首元に見覚えのある色のものが
巻き付いているのを、孫兵が所属する生物委員の一年生達は目にした。
「あれ? 伊賀崎先輩。じゅんこは冬眠したんじゃなかったですか?」
そう訊きながら、一年生達が孫兵に近づくと、それは
「じゅんこの代わりにと、藤内が編んでくれた」
という、じゅんこ色のマフラーだった。更に部屋帰れば、大山兄弟型の湯たんぽ入れ(作・作兵衛)や愛しの
虫達模様の刺繍入りのはんてん(作・数馬)などもあるらしい。
「先輩達凄いですねぇ」
「は組の二人は、寒いからと外に出ない分、暇らしい」
そして作兵衛は、用具委員会の一年生用の湯たんぽ入れを作っていた委員長の食満留三郎に習って作って
みた習作をくれたようだ。などと、どうでもよさそうに話しながらも、孫兵がちょっぴり嬉しそうなのが
解った一年生達は
(三年生って、仲良しなんだなぁ)
などと微笑ましく思ったが、この一連の様子を見ていた五年ろ組の竹谷八左ヱ門は、そんな三年生達と、
ついでに用具委員会にも対抗意識を燃やし、後輩達に手袋でも編もうと考えたが、彼の友人達には誰一人と
して、編み物が出来る者が居なかったため、断念せざるを得なかったという。
オマケの五年生
「三郎。何でお前も編み物出来ないんだよ」
「いや。やってみれば速効で出来るようになるとは思うが、何分私は天才だからな。教えてやるのは難しい
気がする」
「つっかえねぇなぁ、お前」
「ついでに、教えを請う立場でそんな態度をとる奴になんざ、わざわざ教えてやりたかない」
「……。お互い様だな。コイツらの場合」
「そうだね。ところで兵助は、本当に編み物出来ないの?」
「多少は編めるけど、教えるのは面倒臭い」
「ああ。確かに、手袋は難しいしなぁ」
「勘右衛門も、本当は編めるの?」
「ううん。俺は出来ないよ。でも、めんどくさそうなのはわかる」
『旅籠猫屋』の柳佳姉様の誕生日祝いに
「なんかいります?」
と訊いたら
「保健か生物で、マフラーとかそういう、冬っぽいの」
みたいな返答でしたので書いてみましたが、バイト(塾)の合間にメモった突貫の上、
保健というか文伊未満と生物<3年。な代物になりました。
でも、試作品(その後修正してないけども)を贈った段階で喜んでいただけたんで、
これで良いってことにしちゃいました。
あ。そういえば、ナチュラルに五年生に勘ちゃん混ぜちゃった。まぁ、もういい加減いいか。
2009.11.22
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