ある日の放課後。1年は組の保健委員猪名寺乱太郎は、当番の為に医務室にやって来て、
	戸を開けかけるなりすぐに閉めた。

	「? どうしたの乱太郎?」

	そんな乱太郎に首を傾げたのは、同じく保健委員である、1年ろ組の鶴町伏木蔵だった。

	「何か、今、見ちゃいけないものが見えた気がするんだけど……」
	「え? 何? いかがわしいことしてた人でも居るの??」

	乱太郎が口ごもりながら答えると、伏木蔵は目を輝かせたが、流石にこんな時間からこんな場所でそんな
	ことをする度胸のある生徒は居ないだろうし、保健室の主である校医の新野か、保健委員長の善法寺伊作に
	見とがめられるに決まっている。

	「違うよ! 何考えてるの伏木蔵」
	「じゃあ、伊作先輩が、見るからに危ない毒薬でも作ってた?」
	「それも違うから! ……伊作先輩が、立花先輩に膝枕してあげてるのが見えただけ」

	物騒なことばかり口にする伏木蔵に、乱太郎がついうっかり口を滑らせると、伏木蔵の目がより一層輝いた。

	「うそぉ。僕も見たい!」
	「止めなよ。絶対何か事情があったんだろうし、立花先輩も見られたくないと思うよ。そんな姿」
	「えー。でも、これを逃したら見れそうもないし」

	1年生2人が押し問答をしながら、戸の前で攻防戦を繰り広げてると、中から戸が開き、呆れ顔の伊作が
	立っていた。

	「あのね、君達。聞こえてるから」
	「そりゃまぁ、そうですよね」

	6年生ともなれば、気配を察する位は容易いだろうし、これだけ騒げば下級生ですら気付くに決まっている。

	「あれ? 立花先輩居ませんけど?」
	「ああ。仙蔵なら、ココ」

	すぐに医務室の中に入り、辺りを見回した伏木蔵が首を傾げると、伊作が自分の背後を指さした。
	そこで1年生2人がそちらを見ると、伊作の腰にしがみ付いて居る仙蔵が目に入った。


	「一体、何があったんですか?」
	「学園長のお使いで、しんべヱと喜三太と一緒だったらしいんだ」
	「……ああ、はい。すいません」
	「別に乱太郎には非はないから、謝らなくていいよ。というか、誰も悪くない筈なんだけどねぇ」


	何故だかは解らないが、ここ最近の仙蔵は1年は組のしんべヱ・喜三太が絡むと、伊作並の不運に
	見舞われ、酷い目に遭うらしい。そしてその度、監督不行き届きとして、彼ら2人が所属する用具
	委員会の委員長である食満留三郎に八つ当たりをしたり、同室の潮江文次郎で憂さ晴らしをするが、
	今回はあまりに散々な事があり過ぎて、そんな気力すら無くなってしまったので、伊作に慰めて
	貰いに来たのだそうだ。



	「好きなようにさせといてあげれば、その内立ち直っていつも通りになるから、気にしないでね」


	そう言って伊作は、仙蔵をまとわりつかせたまま―しかも時には撫でてやったりもしながら―、保健委員の
	通常業務をこなしていたが、医務室を訪れてその様を見た全員が
	(いや、無理です。気になりますって)
	と、内心思った。
	しかし口に出そうものなら、どんな目に遭うか解らないので、その後に亘っても沈黙を守り続けたという。




何かふと「厳禁後の仙様が、伊作に癒しを求めてたら可愛いかもなぁ」とか思い、書いてみました。 因みに、この話の元ネタを話したら、柳佳姉様が落ち込み仙様の絵を描いてくれましたv お宝部屋に置いてありますが、すごく可愛いですよー 2009.10.3