6月某日。とある小さな結婚式場にて。
「コノミちゃん。結婚おめでとう! 可愛いドレスね」
「マリナさん! 来てくださったんですね」
「そりゃもちろん、大事な仲間で親友の結婚式だもの。世界グランプリ級のレースでもなかったら、
何をおいても優先するに決まってるじゃない」
本日の主役である花嫁の控室を訪ねて来たのは、彼女の旧知の女性だった。
「ありがとうございます」
「私だけじゃなくて、ジョージも帰国して来てたし、リュウもテッペイくんもトリぴーやマルさんも
見掛けたわよ。あと、まだ来てないけど、さこっちやミサキさんも、式には間に合うように来るって
言っていたって、リュウから聞いたわ」
「わぁ。本当に、みなさん来て下さったんですね」
中にはダメ元で招待状を出し、「よっぽどのことさえ無ければ出席で」との返事をもらっていた招待客達が、
ほぼ全員揃っていると聞いて喜んだ花嫁─コノミ─に、女性─マリナ─は、満足げに微笑むと、
「それじゃ、お仕度の邪魔をしたら悪いから、また後でね」
と言い残し、控室を後にした。
そして、式場に集まりつつある、旧知の面々の元へ合流してみると、
「お久しぶりです! マリナさん」
「え。ミライ、くん??」
「はい!」
「……変わってないわね」
かつて、コノミやこの場に集まる男達と共に、CREW GUYSに所属していた頃の仲間であり、実は
ウルトラマンメビウスだったヒビノ ミライが、リュウやジョージ、テッペイなどと談笑していた。
──10年前に地球を去った時と、同じ姿で。
「マリナさんも全然変わってないですよ。あ、でも、今は世界チャンピオンなんですよね。今、
リュウさん達から聞きました」
ミライは、相変わらず人懐こくて邪気の欠片も無いが、
「……やっぱ、引くよな」
「特に女性からしてみれば、18歳のまま変わらないなんて、憤懣ものですよね」
「けど、ミライだからな」
アラサーが、20歳前と変わらないわけないでしょ! と叫び掛けたマリナの心境を代弁するように、男共に呟かれ、
「そうね。ミライくんだものね。仕方な……くないわよ! 1人だけあの頃のままとか、冗談じゃないわ。
他のウルトラ兄弟は、ちゃんと相応に年を重ねた姿で現れたじゃないの!」
一旦は諦めかけたが、やっぱり一言抗議しないと気が済まなかった。
「えっと、ごめんなさい。でも、僕、姿を借りたヒロトさんがこの位の年で、ちょっとだけ上の姿
っていうのが、よくわからなかったんです。それで、ティガさんやダイナさんを参考にしようと
したんですけど、あんまり変わらないので……」
まぁ確かに、20代と5〜60代ならあからさまに老けて姿が変わるけど、2〜30代の10歳の差をつけるのは
難しいよなぁ。
でも、レオの時のセブンは……
てかよ、ティガとかダイナって誰だ?
等々、しょげたワンコっぽいミライの弁解は、突っ込み所満載だったが、言わんとすることは
解らなくもなかったが、
「確かに割と若作りな方だけど、ダイゴもアスカも我夢も、当時の姿と見比べれば結構変わってるわよ」
「フジサワ博士?」
「ひっさしぶり〜、みんな。まだユキとかサコちゃんは来てないの?」
ひらひらと手を振りながら、若干メタ発言の混じるコメントを入れたのは、異次元物理学の権威で、
元総監代行のミサキ ユキの親友である、フジサワ アサミだった。
「お久しぶりです! フジサワ博士。えっと、何だかとっても丸くなりましたね!」
「……」
「ちょっ、ミライ!」
ニコニコ笑ったまま、女性に対して一番の禁句を口にしたミライに、場の空気が凍った。しかも、
アサミは太ったわけではなく……
「あのね、私は、今妊娠中だから、こんな大きなお腹をしてるの。ウルトラマンは、そんなことも知らないの?」
「にんしん?」
「お腹の中に、子供が居る。ってことです。知らないということは、ウルトラマンは誕生の仕方が違うんですか??」
キョトンとするミライに、補足ついでに好奇心から尋ねたのは、もちろんテッペイだったが、
「どうなんでしょう? 僕、周りに小さな赤ちゃんのいる人が居ないので、よく考えてみると、知らないです」
という、異星人なこと差っ引いても常識無いのか、コイツ。な返事が返ってきた。尚、アサミは5〜6年前に
後輩学者と結婚したとのことだった。
と、そんなやり取りをしている最中に、元隊長で現在は総監職に専従しているサコミズと、元総監代行で
現在は総監の第一秘書をしているミサキが到着し、程なくして式が始まった。
身内と、双方の友人や個人的にも親しくしている職場の人が少しと、コノミの働く保育園の園児達だけの、
こじんまりとした結婚式は、厳かながらも実に微笑ましい、とても良い式だった。
園児達の中から選ばれた数人のフラワーガールやリングボーイ、ベールガールに囲まれたコノミが入場
してくるのを拍手で出迎えながら、他の参列者達と同じように、子供達の可愛らしさやドレスのデザイン、
幸せそうなコノミの様子などに微笑むミサキに、隣のサコミズが、ポツリと呟いた。
「ユキちゃん達も、式を挙げなかった理由は知ってるけど、写真位は撮れば良かったのに。ユキちゃんなら、
ああいう可愛いのでも、シンプルなのでも、何でも似合ったと思うよ」
「良いんです。私はともかく、あの人は柄じゃないですから。……ところで、確かにこういった場で
役職呼びはどうかと思いますが、『ユキちゃん』はやめて下さいと、再三申し上げていますよね」
「でも、それこそオフだと『ミサキさん』じゃないよね?」
「そうですけど……」
そんな、単なる上司と部下にしては、やけに親しげなやり取りが聞こえた元GUYSメンバー(ミライ除く)が、
「なぁ、あの2人って……」
「いやっ、でも、サコミズ隊長……じゃなくて総監は、見た目はともかく、中身は70近いおじいちゃんですよね」
「少なくとも、『彼』とか『あの人』とか聞こえたから、さこっちが相手では無いみたいだけど、ミサキさん、
結婚してたの??」
「あー、何かンな噂もあったもしんねぇな」
等々、ひそひそ話を交わしていると、そのやり取りが聞こえていた本人達から
「……サコミズさんとは、私が学生の頃からの知り合いで、タケナカ最高総議長のお孫さんのジングウジ博士と、
同じような扱いなだけよ」
「アヤちゃんもユキちゃんも、可愛い姪っ子みたいなものなんだよね」
「ご年齢からすると、孫だと思いますが?」
「まあまあ、良いじゃないか、そこは」
なんて補足が入ったが、
「で、結局ミサキさんは結婚していて、相手は何者なんですか?」
とは訊きそびれてしまった。
そんなこんなで、式は無事終わり、ウェディングドレスから、もう少し動きやすいドレスに着替えた
コノミ達を囲み、立食形式の二次会が始まったところで、ミサキの携帯が鳴った。
「……呼び出し?」
「いえ。私用の方ですので、ご心配無く」
何か緊急事態の連絡でも入ったのかと尋ねたサコミズに、ミサキは軽く頭を下げると電話に出るため場を
離れたため、相手と会話の内容はわからなかった。しかし、途中で携帯を手にしたまま戻って来ると、
「あの、近くまで迎えに来てくれているそうなんですが……」
「そうなんだ。だったら、いっそ呼んじゃえば? 良いよね、コノミちゃん」
「えっと、ミサキさんの旦那さんですか? はい! 会ってみたいです」
恐る恐るお伺いを立てると、あっさりと承諾された。
そんな訳で、相手のことを知っているらしきサコミズやアサミ以外の面々が、興味津々で到着を待っていると、
数分後。4〜5歳位の2人の男の子が、「おかーさん」と言いながら駆け寄ってきた。
「コウキ、ミツヤ。お父さんは?」
「えっとね〜、あっちで、マルさんとおはなししてるよー」
「トリヤマのおじいちゃんが、『ちょっと』っていったの」
「うわぁ可愛いー。2人とも、ミサキさんのお子さんですか?」
「コウキくんとミツヤくんっていうのね。お姉さん達は、お母さんのお友達で、私はマリナで、
こっちはコノミちゃん」
しゃがみこんで子供達に目線を合わせ話し掛ける女性陣と、
「マルさんやとりピーと面識あるってことは、結婚相手はGUYS関係者なのか??」
と推測している男性陣と、彼らを楽しげに眺めているサコミズに、子供達が名乗るのと、トリヤマ達との
話が済んだらしき男性が歩み寄って来たのは、ほぼ同時だった。
「セリザワ コウキです!」
「ぼくはね、セリザワ ミツヤだよ」
「まさかアレ、セリザワさんか!?」
「マジかよ!? って、確かに隊長だな」
「え。えぇー!?」
目を丸くして驚く一同に、幼女を抱いた男性は、ひとまず
「……いい加減、『隊長』呼びはやめろ、リュウ」
とツッコミを入れた。
「アイハラくんの場合、もう条件反射の域に入っていますから、諦めた方が楽だと思いますけど。
……それよりも、本当にアイハラくんにすら話していなかったんですか?」
「期を逃したのと、君の方から話していると思ったんだ」
「私は、貴方かサコミズさんから聞いているものだと思っていました。それに、産休を取った時点で、
本部中に知れ渡っているかと……」
末っ子らしき幼女─「ミキ」というらしい─を受け取り抱き抱え直しながら、ミサキが呆れたように問うと、
対するセリザワの答えも、溜め息まじりだった。
「そうだね。結婚して子供が出来たことまでは噂になっているけど、一部の人以外には、相手までは
特定されていない。って所かなぁ」
そんな補足を入れたのはサコミズで、アサミ曰く
「私と同じ頃っていうか、今日みたいな式の場で、こっそりと『実は籍を入れたの』って聞かされたのよ、私も」
とのことで、事前に相談を受けていたのは、サコミズと、食堂の日ノ出サユリ位のものだったらしい。
そして、以前から関係を知っていたのは、他に整備長のアライソや、GUYSオーシャンの勇魚程度で、
サコミズの証言に依れば、今でも仕事中は旧姓を貫いているため、トリヤマやマルですら結婚の事実しか
知らないようなのだという。
ちなみに、現在のセリザワは、ディノゾールの襲撃の際に一度は命を落としたが、ウルトラマンヒカリと
同化することによって再び命を得、隊長への復帰も打診されたが、
「一度は死んだ身である以上、他の命を落とした隊員や一般市民に申し訳が立たない」
とそれを断り、全く違う第二の人生を歩もうとした。けれど、
「セリザワくんの経験と知識は、後継の隊員達にとって重要なものだし、リュウと同じか、それ以上に
警備隊馬鹿の君に、他の仕事が出来るの?」
とサコミズにからかいまじりに引き留められ、
「総監の仰る通り、貴方はGUYSにとって必要な人材です。それに、隊のことを思うのなら、貴方には
責任を持ってこれからの隊を支えていく義務がある筈です」
とミサキに諭され、だめ押しでリュウに
「俺はまだ、隊長から教わってないこと、たくさんあるんですからね!」
と懇願され、「特別顧問」としてGUYSに在籍している。
「……そういやミサキさん、5年くらい前とつい最近も、しばらく休職してたっけな。そうか、アレ産休か」
「お前な、その時点で結婚してることくらいは気付けよ」
「ていうか、うっとうしい位セリザワ元隊長に懐いてるのに、ミサキさんとのことに気付いて無かったって、
どんだけ鈍いのよアンタ」
「いや、でもよ、今はあんま顔合わせる機会無いし、態度変わって無かったから……」
「それにしたって、一度や二度くらい、『もしかして』とか思わなかったんですか?」
「あとは、お休みの日にご家族で居るのを見掛けたりもしたこと無いんですか?」
ポソリと呟いたリュウに、元仲間達は総ツッコミを入れたが、サコミズからは
「まぁ、2人共見事なまでに公私混同していないし、ユキちゃんは隠し事得意だからねぇ」
という、フォロー(だか何だかよくわからない)が入った。
「そうですよねぇ、サコミズ隊長が総監だということを、あれだけ綺麗に隠し通していた訳ですから、
プライベート伏せる位は容易いかもしれませんね」
「しっかも、リュウとかトリヤマ補佐官相手だろ。そりゃ楽勝だな」
そんな感じで落ちがついたところで、ふと、ミライがあまり驚いていなかったことに気が付いた。
「そういえば、ミライくんは知ってたの?」
「はい! ゾフィー兄さんやヒカリから聞きました」
現在はヒカリとセリザワは同化していないが、ゾフィーはサコミズの元を時折訪ねて来ているそうで、
サコミズ→ゾフィー→ヒカリ経由で「ある意味当事者だし」と伝えられ、ついでにミライことメビウスの
耳にも入っていたらしい。
「あと、晃生くんも光哉くんも未輝ちゃんも、名前の字に『光』って意味が入っている。っていうのも
教えてもらいました」
それを聞いたヒカリが、あまり顔には出さずに嬉しそうだったのを、ゾフィーが指摘し、からかい過ぎて
逆ギレされた。という情報までは要らなかったが、そうやって繋がり続けていることは、素敵なことだな。
と、一同ほっこりした気分になった。
「ところで、セリザワくん。あれだけ頑なに隠してるのに、何で今日はわざわざ迎えに来たのかな。
リュウやトリヤマさん達も居るのに」
ニコッと笑ってサコミズが尋ねると、セリザワは一瞬目を反らしてから
「……単に、子供達にせがまれたのと、俺1人で子供達を看ることに限界を感じただけです」
と答えた。
「あら、そうよね。ごめんなさい、3人共任せきりにしてしまって。アマガイさんの式だから、連れて来ても
大丈夫かとも思ったんだけど、子供達の話はしていなかったものだから……」
「いや、良い。たまには1日中一緒に過ごしでもしないと忘れられかねないし、君にも羽を伸ばす時間は
必要だろうからな」
「……セリザワくん、上の2人がミキちゃん位の頃に、3ヶ月位出張で留守にしてたら忘れられて人見知り
されたの、まだ引きずってるの?」
「いえ。それよりも多分、私が育児休暇中に、私の代わりに総監の補佐もしていて忙しくて、子供達が起きて
いる時間に帰って来れることが稀だった頃に『お父さん、今度いつ来るの?』と訊かれた方だと思います」
「そんなことあったんすか、セリザワ隊長……」
「何か、明日は我が身。って感じで、笑えないな」
「確かに。特にジョージさんの場合、遠征なんかが続くとあり得そうですね」
「でも、ジョージさんは、マメに連絡を入れたり、各地のお土産を送ったりとかしそうじゃないですか?」
「そうよね。むしろ、ほったらかしにし過ぎて忘れられたりキレられそうなのは、やっぱりリュウでしょ」
父親なんて、案外そんなもんかもしれないと思いつつも、未だに独身or結婚はしたがまだ子供は居ない若手達は、
何だか身につまされるような思いがしたという。
「……。それに、俺は公私の区別はしていますが、特に隠しているつもりはありませんので」
「そうだよねぇ。ユキがケジメがどうとか言って隠してるだけで、セリちゃんの方は、ユキに必要以上に
馴れ馴れしい奴とか色目使おうとしてる奴を、すっごい目で睨んで威嚇したりしてる。って、勇魚とか
から聞いてるよ(笑)」
ニヤニヤ笑いながら、「何だかんだ言っても、ちゃんと愛されてるじゃん」などとからかうアサミに、
ミサキは「もう、何言ってるのよアサミったら」と呆れたような口調で返しながらも、頬は微かに赤く
染まっていて、満更でも無さげだった。
「……確かにこれは、自分のものだと公表して、悪い虫は遠ざけたくなるな。男としては」
「ですよねぇ。こんな美人で可愛い奥さんが居たら、むしろ自慢して回りたいですね」
「同じ女子目線でも、昔より可愛くなってますね。良いなぁ、幸せそうで」
「何言ってるのよコノミちゃん。あなたは、これからでしょ」
「コノミさんもミサキさんも可愛かったです。って、兄さん達に報告しますね!」
「んな報告上げてどうすんだよミライ……」
もしや、公表していないのは、照れ隠し!? と感じられるような、やけに可愛らしい反応を見せるミサキと、
公言して手出しさせないという想いとこんな無防備な表情を余人に見せたくないという想いとがせめぎあって
いるんだな。と察せられるセリザワに、むしろこっちが照れ臭いですお2人共……。と、若手達は思ったが、
サコミズにしてみれば、全員ひっくるめて
「いやぁ、良いねぇ。若い子は」
といった感じだったという。
等々、この日1日の報告を、メビウスは写真付きできちんと報告書にまとめて提出した。と後日ゾフィーから
聞いたサコミズは、
「本当に提出したんですか」
と苦笑したが、実はメビウス本人の判断ではなく、ゾフィーやヒカリを始めとするウルトラ兄弟達の指示
だったりするとかしないとか(笑)
空気の読めないメビたんのネタを書こうとした筈が、ついつい愛が暴走しました(笑)
心残りは、ミサキさんに「カズヤさん」と言わせ損ねたことですかね。
書いている最中にセリザワ×ミサキの小ネタがいくつか浮かんだので、その内書くかもしれません
2013.6.22
戻