〜4年生の妥協点〜
大川学園のハロウィン大会は、1〜3年生こと中等部生は仮装して寮内の先輩隊の部屋を巡ってお菓子を
もらい、4年生以上の高等部生は後輩を―主に自室で―仮装+部屋の装飾などで驚かし、お菓子をあげる
ことになっている。
そんなわけで、去年まではそれなりのレベルの仮装で先輩達の元に押し掛ければ良かったが、今年からは
自分達が後輩を迎え撃たねばならなくなった4年生達は、頭を抱えていた。
「不本意ながら、先輩方には敵う気がしない。しかし、かといって無難に済ませるのは、性に合わない」
「そうだな。僕もそこには同感だ」
「じゃあ、何やるの?」
珍しく意見の一致した滝夜叉丸と三木ヱ門と、編入してきたので大会自体が初めてのタカ丸が、額を突き
合わせるようにして相談していると、残る喜八郎が
「タカ丸さんと三木の部屋にコレ置いといて、僕らの部屋にトラップ仕掛けとけばよくない?」
と、少し投げやりに提案した。
「それは何だ、喜八郎」
「膨らんだ、缶詰?」
「あ。オレそれ見たことある。確か、シュールストレミングだよね」
「正解です、タカ丸さん」
喜八郎が手にしている物体に、嫌な予感しかしない滝夜叉丸と三木ヱ門は怪訝そうな目を向けたが、タカ丸
だけはいつも通りのんきに笑っていた。
「何だソレ」
「……私は、名称だけは聞いたことがある。北欧の、世界一臭い缶詰の筈だ。そうだな、喜八郎?」
「うん。こないだ輸入食品の店で見つけて夜食用に買ったけど、滝にバレたら五月蝿そうだから、とりあえず
しまっておいたんだ」
「それを、僕らの部屋で開けようっていうのか!?」
「ダメだったら、駅前の八百屋でドリアン買ってくる?」
「どっちも却下だ!」
「そう? オレは別に構わないけど」
何故か酷い臭い攻撃に固執する喜八郎と、自室なのにそれを容認しようとするタカ丸に、
「臭いが消えるまで部屋を代わる」
との条件で渋々三木ヱ門が折れ、滝夜叉丸も良い代替案が浮かばなかった為、結局喜八郎の策で行くことに
なったが、結局シュールストレミングもドリアン入りの「腐臭がするまんじゅう」も、後輩のみならず先輩
達にも大不評。という、ある意味悪戯としては成功な結果を収めたが、予想外にすごい臭いは隣室にも及んだ
ため、彼らの部屋にはしばらく誰も近寄らなかった。
〜5年生の底力〜
何としても6年生に勝ちたいが、前年までで粗方策は出し切った感のある5年生は、仮装もお菓子も、
どうしたものか本気で悩んでいた。そんな中、雷蔵が何かひらめき
「本気を出そうか、三郎」
と三郎に声を掛けると、心外そうに「私はいつだって本気だぞ」と返ってきた。
「うーん。そうじゃなくて、えーと、じゃあ、言い方を変えるね。本領を発揮しよう。……僕らの家業は何?」
「ああ。そういうことか」
「どういうことだよ。2人だけで納得されても、俺らには解んねえよ」
少し表現を変えた雷蔵に、三郎は納得するなりニヤリと笑ったが、「それだけで解るか」と八左ヱ門が抗議の
声を上げた。しかし残るい組の2人は
「ああ。鉢屋と雷蔵って、能楽師の家の子だっけ」
「つまり怪談ものや人外の面なんかを借りて来て、それを使おう。ってことか」
と、あっさり納得していた。
「正解。あと、僕は一応囃子方だから、生演奏出来るし」
「とすると、三郎と雷蔵は本職で、兵助もいつも通り生音以外の音響とか照明をやるとして、俺らは何すれば
良いんだ。兵助の手伝いか? あと、面や衣装って、そんな気軽に借りられるもんなのか?」
「姉貴共に頼めば、おそらくどうとでもなるだろ。お前らは、設営や音響照明の手伝い以外は、付け焼刃で
どうにかするのもなんだから、いつも通りで頼む」
策は飲みこめたが、まだ色々疑問の残る八左ヱ門の問いをさらっと流すように答えた三郎には、2人の姉が
居り、大川の卒業生で文化祭のミスコン他の発起人でもある彼女達は、弟以上に食えない性格でお祭り好き
だったりする。
「あれ。でも、勘ちゃん趣味で三味線弾けなかったっけ?」
「ん。簡単なのでいいなら、ちょっとは弾けるよ」
そんな訳で、演者:三郎、囃子:雷蔵&勘右衛門+録音、その他裏方:兵助+八左ヱ門による略式能は、
後輩達を大いにビビらせた上、仮装部門の技術賞とインパクト賞の両方で1位を勝ち取ることには成功
したが、そちらに気合を入れ過ぎた所為で、お菓子の方がほんの少しだけおろそかになってしまった。
それでも割ると中身がどろりと出て来る、凄い形相の顔型もなか(しかも中身は赤に限らず、紫や青、緑、
黒ずんだ赤など色々)を作ったが、やはり総合優勝には手が届かなかった。
〜6年生の実力〜
ハロウィン大会の覇者である6年生達は、「過去の集大成」と称して、仮装は以前やったもの―三郎が
後輩達に語ったもの他―を、更に高度に改良し、お菓子の方は……
「……食満。コレはどう見ても、人体模型にしか見えないんだが」
「ええ。人体模型です」
審査会場である食堂に、「6年一同」の団体名で出品された物は、どこからどう見ても理科室などにある、
筋肉や内臓を模した標本だった。
「しかも、部屋に飾ってあった奴ですよね」
「ああ、そうだぞ」
審査は全校生徒+教職員の投票で決まる為、下級生は寮巡りをした際にもらったものや、飾ってあったものなら
概ね見覚えがあった。
「ガワは、生物室の人体模型を新調する話を聞いた伊作が、入れ替え前に貸してもらう約束を取り付けて来た
本物ですけど、腕はお菓子とすげ替えてあるんで、食べられますよ」
そう言って、指を1本折って差し出された審査委員長である学園長が、恐る恐る齧ってみると、確かにそれは
ほのかにハッカの香りがする砂糖細工だった。そして、脳みそプリンと腸詰ムースは、傷まないよう冷蔵庫に
入れてあったが、肝臓羊羹、肺パン、アメ細工の心臓(「ガラスの心臓」という冗談も込めているらしい)、
胃クッキー、眼球アメ、その他マジパン細工、砂糖細工、練りきり、グミなどを駆使して作った他の内臓は、
複数作って飾ってある状態から仕込んでおいて、部屋を訊ねて来た後輩達に、そのまま抜き取ってやっては
補充していたという。
その結果。お菓子部門は見た目・味ともダントツのトップで、仮装も高成績を収めて居た為、総合優勝で
有終の美を飾ったのだった。
大川学園ハロウィン大会当日 上級生編+結果でした
投票数と、自分で思い付いたネタを合わせた結果、
やはり優勝は6年生になりました(笑)
ちなみに、各賞の順位は
(お菓子)味覚賞:6年 2年 5年
デザイン賞:6年 3年 2年
(仮装)技術賞:5年 6年 1年
インパクト賞:5年 1年 6年
かな、と
2010.10.26
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