一番初めの認識は「同室の奴の友人」

次に、「注意力も運もなくて、いつもへらへら笑っている馬鹿」

しばらくして、能天気そうな笑顔の下に何かを隠し、誤魔化しているのだと気が付き、
その頃から、次第に気になりだした。

己の抱えている感情が何なのか自覚した時期と、アイツの隠し事を知った時期。
どちらが先だったかは最早記憶にない。

打ち明けた瞬間から、「無条件で心身共に預けられる相手」の地位を失ったのだと
後になって聞かされた。



アイツが当時味わっていた地獄を、教えられていなかったのは俺ともう一人だけ。

聞いたのは断片のみ。それも、本人の口からではなく。

何も知らずに責め立てた俺に、アイツ自身は一切の弁明もせず口を噤んだままだった。

アイツを庇う為に、責められる事を覚悟で、当時の事実を洩らした奴の目には、
軽蔑の色が浮かんでいた。


「知られたくなかった。知らないなら、そのまま一生知らなくてよかった」


俺を軽蔑するわけでもなく、強がりとしてでもなく、淡々と、過去のこととして、
けれど割り切れているわけでもなさそうに、眉をひそめ、溜め息混じりにアイツは呟いた。

その時俺は、労わりも慰めも、何も言えなかった。…何も、言う資格など無いと思った。


「お前は何も悪くない」も、「選んだ選択肢は間違っていない」も違う。
どこかで、採るべき道を間違えているのは、おそらく事実だ。

ただ、「そうするしかない」との考えに到った経緯も、そもそもの根本的原因も


「お前の所為ではない」


あれからいくら考えても、それしか言葉が見つからない。しかし、心からそう思えるまでは到った。

それだけは、紛れもない真実だと、信じては貰えないだろうか?