きり丸が、忍術学園を卒業し、戦忍の傍ら戦場で拾ってきた子供達を育てるようになって、早5年。
そのきっかけとなった少女―安寿―だけは、他の子供達のように養子や奉公には行かずに残り、喉に残る
刀傷の所為で声は出せないながらも、きり丸の不在時には家事から子供達の世話から近所付き合いまでを、
一手にこなしていた。
そんなある日。三郎と雷蔵が、久々に半月程揃って忍務にあたるからと、息子の風早をきり丸に預けに
訪れると、訪れる度に顔ぶれの違う幼い子供達の中に、首も据わっていないような2人の赤ん坊が居た。
「おや。ついに安寿に子を産ませたのか」
「……違います。13の小娘に手ぇ出すわけ無いでしょうが。そもそも、安寿はそういうんじゃないですし」
拾われた当時8歳だった安寿は、目立つ傷があり声は出ないものの、しっかり者でよく働く上に美しい娘に
育っていると村でも評判で、早くも「ウチの嫁に来ないか」との声も掛かっている、けれど安寿本人が
「ここで、きり丸兄さんの手伝いをしていたい」
と答えていることや、安寿と同世代の拾い子が居ても奉公に出しているのに、安寿はずっと手放さないで
いることなどから、「いずれ嫁に迎える気なのではないか」との声が―きり丸当人は否定しているが―、
そこかしこで囁かれている為、年齢的に無いと解っていながら、赤ん坊達をきり丸と安寿の子かと三郎が
からかうと、案の定きり丸には眉をひそめられた。
「ついでに、俺がどこかの女に産ませた子でも無いっすから。……他の連中と同じように拾ったというか、
押し付けられたようなもんです」
どうも三郎達以外にも散々からかわれたらしく、心底ウンザリと付け加えたきり丸は、それでも「どこかの
女」の前に「鉢屋先輩のように」や「風早みたいな」とは言わなかった。
「押し付けられた?」
「ええ。……ついこないだまで、俺はとある戦場で雇われてて、そこでとある男と知り合ったんスよ」
きり丸が拾ってくるのは、主に戦場やその近辺の襲われた村の、生き残りや逃げのびた子供達で、流石に
生後間もないような乳児は今まで拾った事は無かったが、瀕死で逃げのびた母親に託されただとか、上の
子が抱いて逃げていたのであれば不思議はないが、「押し付けられた」とはどういう意味なのかと雷蔵が
訊ねると、きり丸は少し考えてから、ポツポツと経緯を語り出した。
×
「その男には、郷に残してきた産み月の近い身重の妻が居て、『この戦から戻ったら、自分が名付けるので
待っていてくれ』とかその嫁さんと約束していたらしいんスよ。けど、結局やられちまって、なりゆきで
俺が看取ったんスけど、そん時に自分の死を妻に伝えてくれって……」
「それで、頼まれて伝えに行ったの?」
そこまでする義理があったのかと、同じような状況を経験したことのある2人が首を傾げると、きり丸は
「約束して、本当に行かないと取り殺されそうな勢いだったんすよ」
と苦笑いして先を続けた。
「で、仕方ないんで遺髪とか遺品を届けに行ったら、一晩泊って行けって引き留められて……」
きり丸は、そこまで言うとしばし口籠り、
「夜明け前に、赤ん坊の泣き声で目ぇ覚ましたら、嫁さんは『旦那の所へ行く』みたいな書き置きと、
あの双児を残して、首掻っ捌いてたんスよ」
それで、やむを得ず引きとって来た為、未だ名前すら無いという。
×
「ホント、仕方ないんでひとまず引き取っては来たものの、このままうちで育てんのは流石に大変
過ぎるんで、どこかに養子にやろうかと思ってんですけど、2人まとめてとなると、中々適任が
見つかんなくて……」
きり丸が家に居る時はまだしも、忍務で不在時には、近所の住民の手を借りつつも安寿1人で乳児と他の
子供達の世話を焼くのは難しいため、もし万一他に誰も見つからなかった場合には、土井家で引き受けても
良いとの話は出ているが、早急に引き取り手を探している最中なのだという。
「……ああ、そうだ。いっそのこと、先輩達引き取りません? 風早、前にうちで預かってる時に兄弟
欲しがってましたし、うちのチビ1人位引きとっても良いって、言ってたことあるじゃないすか」
「確かに、僕らのどちらの子でもなければ、いっそ可愛がれるかも?」
「風早の件に関しては、本当にすまなかった、雷蔵。……しかしまぁ、赤ん坊を育てた経験は一応あるし、
私達の元に双児というのは面白い」
正直な所、この2人に託すのなら、他の十一忍の仲間の何人かからも「養子にしても良い」との申し出が
あったので、その中の誰かを選んでも変わらないというか、それよりはまだ土井家の方が格段にマシだと
思いつつ、きり丸冗談としてそう提案してみると、三郎も雷蔵も、思いの外真剣に検討し出した。
そして、「忍務を終えるまでに考える」と言い残し、ひとまず予定通り風早をきり丸の元に託して行き、
帰還後
「まだ引き取り先が見つかっていないなら、我が家に迎えたい」
と、引き取ることを決め、それぞれに「伊呂波」と「歌留多」の名を付けた。
そんな経緯で引き取られた双児は、自我が芽生える前から三郎および三郎そっくりの風早に育てられた
所為で、本来の素姓を知らぬ者には実の家族だと思われる程に、三郎達そっくりの迷惑な性格に育った。
その結果に関し、「託す先を間違えたかもしれない」と、きり丸が後悔したとかしないとか……
久々に子世代で、若干重めの設定の不破家双児ちゃん話でした。
尚、本人達(風早含む)はこのことを知りませんので、引き摺ることは無いです
2011.5.9
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