僕の高校時代の日課は、商店街に寄ることだった。
元々学校と家の間だから、そこで高校からは
分かれた友達に会うこともあったし、肉屋の
コロッケや米屋のおにぎりや巻き寿司なんかは、
ほとんどお金の無い育ち盛りの学生には、ありがたい
おやつだった。というのもある。
ある日、その商店街の外れに新しくできたお店を
覗いてみたのは、ただの好奇心。
僕らの親より前の世代からずっとあるような、古い
お店ばかりだから、珍しい。と思っただけのことだった。
店内は少し暗くて、「いらっしゃいませ」の声も多分
聞こえなかったけど、僕はそんなこと気にならなかった。
所狭しと並べられた、たくさんのショーケースの中の一つに、
目を奪われてしまっていたから。
そこに居たのは、とても綺麗な漆黒の蛇。
友達はあまりそういう類が苦手そうだから、今まで話したことは
なかったけれど、僕は小さな頃から生物図鑑を眺めるのが好きで、
特に蛇やトカゲなどのつやつやした鱗の写真は、うっとりと何時間も
見ていることもあった。
しばらくその場に立ち止まったまま蛇を見ていると、
「そのカラスヘビが気に入ったのかい?」
と、背後から声を掛けられた。
「”カラスヘビ”って言うんですか?」
「ああ。シマヘビの変種で、全身が黒いものをそう呼ぶんだ」
首に、綺麗な蛇を巻いた若くて綺麗な男の人は、とても嬉しそうに
蛇の解説をしてくれた。
しばらくその男の人―伊賀崎店長―と話をしてから、その日は帰宅した。
本当は、あの一目惚れした子がすごく欲しかったけれど、僕の小遣いでは
到底手が届かない値段だったので、「売らないで下さい」とお願いしておいて、
帰ってから親に相談したら、猛反対をされた。
仕方ないと思いつつも諦めきれず、それから毎日のように通い詰めて
会いに行き、そのたびに「出来れば売らないで欲しい」と頼んでいたら、
一月くらい経ったある日、
「君、うちで働かないか?」
と店長に訊かれた。
「・・・それで、そのままバイトから高校卒業後正式に勤めだして、今に到るんだ」
「はい」
休日。友達の怪士丸が勤めている美術館に、久しぶりに顔を出したら、
そこの館長のご友人で、もう一人の僕の友達の上司に当たる人に、
何の気なしに「虫の伊賀崎」で働いてる理由を尋ねられた。そこで、
少しだけ暇つぶしもかねて昔話をすると、相手はいささか意外そうな表情をみせた。
「で、結局お目当ての蛇は飼えたの?」
「ええ。一人暮らしを始めてからですが。…本当は、店長とじゅんこみたいに
いつも一緒に居たいくらいなんですが、流石に1mあるとちょっと辛くて…」
「へぇ・・・・・・」
「いつも家に一人じゃ寂しいかと思って、最近もう1匹飼いはじめたんです」
初島君の勤務理由を考えてみましたらば、こんな感じに仕上がりました。
(なお、爬虫類好きの孫次郎はここだけの設定で、他のネタでは苦手です)
彼の家には、愛しのカラスヘビ「雅」ちゃんと、シマヘビの「皓」くんがいます
あと、おまけでアマガエルの「エルタ」も
「雅」には「からす」の意味があり、「皓」は「縞」と同じ様な意味があるそうなので
「エルタ」は児童書からです
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