一年
『運命が決まった気がする瞬間』
出来たばかりの友達と、指示された教室に向かう途中。その子が転びそうになったので、手を
差し延べようとしたら、支えきれずに一緒にコケた先に落とし穴があって、一緒に落ちた。
それが森蔵との出会いだった。
後日、校医助手の川西先生と作法委員会の笹山先生に、入学初日に不運小僧に認定されたのは、
森蔵が初だと教えてもらった。そして、最初に落ちた穴は生徒の誰かの掘ったものだったみたい
だけど、翌日も揃って落ちた挙句吹っ飛んだのは、笹山先生と立花泉先輩の合作の罠が仕込んで
あったやつで、委員会が決まるまでは僕と森蔵のどっちが保健委員―不運委員―になるか、数人の
先生と生徒―笹山先生・川西先生・今福さん・泉先輩・黒木先輩辺りだったらしい―で賭けてたとか。
二年
『森蔵の初恋相手』
森蔵が、「学園内ですごい美人を見掛けたんだぁvv」と、はしゃいでいて、素性が
知りたいから、くのいち教室まで訊きに行って欲しいと頼まれた。仕方ないから、
葵ちゃんに訊いてみて判明した、思いがけない正体は、僕の胸の内だけに秘めておこうと思う。
「いいことを教えてやろう、弟よ。…今日は6年生とくのいち教室の合同で、女装の実習があってだな。
おばちゃんぽくても、肝っ玉母ちゃん系でも、とにかく何でもいいから、その6年男子に一番似合う、
自然な女の格好と演技指導をするのがあたしらくのいちの課題でね。あたしの班の担当は黒木先輩だった
んで、無難な町娘に仕上げたけど、雛見先輩と染井先輩は、一番の上玉を捕まえて張り切っていた」
黒木庄二郎先輩は、お兄さん似で意外とノリがいいから、店屋の娘さんを上手いこと演じて「良」の評価を
もらえたんだとか。「優」じゃないのは、似合ってはいたけど、ちょっとはっちゃけ過ぎてたかららしい。
そりゃ、演技指導が葵ちゃんやそのお仲間じゃ無理もないでしょ。…とか、口に出して言うと怒られそう
だけど。そして、黒木先輩の友達で、女装がすごく似合いそうで、芝居っ気も充分ある先輩と言えば…
「え。じゃあ、まさか……」
「後で特徴訊いてみな。多分ソレ、九里サン」
「うわぁ。森蔵ってば、何でそんな所まで、不運なんだろう」
着物の色や髪型なんかを、森蔵から訊きだしたら、葵ちゃんから聞いた情報と完全一致した。って
ことは、間違いないわけだ。初恋が女装した先輩だなんて、不運通り越して不憫なんで、森蔵には
「配達に来ていた、町のお店の娘さんじゃないかってさ」
みたいに誤魔化して置いたけど、その後しばらく、休みのたびに「探しに行こう」って
町に誘われるのは、きつかったなぁ。
三年
『先輩と』
「ひぃ。肩貸して」
「何ですか菊先輩。足でも挫きましたか?」
「うんにゃ。人馬の応用で、お前足掛かりに、あの倉庫の上に跳べるか試すから」
今日の委員会の活動内容は、倉庫内の在庫点検。その作業を終えて、解散となってすぐに声を
かけて来たのは、学園一身軽だと評判の、九原菊之助(くせはら きくのすけ)先輩だった。
「何でそんなことを…」
「組や学年での実習の時なんかに、キンピラや俊とは前からやってんだけど、委員会でも出来たら
使えそうだなぁ。とか考えてたら、葵ちゃんから『ウチの弟使っていいぞ』って許可貰えたから」
「……。別に良いですけど、葵ちゃんてば勝手に…」
「いつものことじゃん」
「…そうですね」
葵ちゃんの僕に対する暴君っぷりは、学園中に知られているし、菊先輩と葵ちゃんは同期で、
一応男子とくのいちだけど、僕繋がりや他の先輩―菊先輩と保健の先輩が同室だし、図書室の
常連の先輩もいる―伝手で、妙に仲がいい。だから僕に関することを、葵ちゃんと先輩で
勝手に交渉するのは、確かに「いつも通り」で「当たり前」ではあるけど、でもたまには抵抗
してみたくも…いや、無理なのは解ってるよ。解ってるけど、試しにさ。
「てなわけでさっそく。片腕伸ばして、ちょっと腰落として…そう。そんな感じ。……よっ、と。…おっしゃ成功」
本当に、菊先輩は僕の肩を踏み台に、倉庫の屋根に危なげなく跳んだ。しかも僕への負担は、
一瞬体重がかかった以外は、ほぼ何も無し。すごい…けど、活用されることはあるんだろうか?
とか思っていたけど、高所修理や学園長の思いつきの委員会対抗戦なんかの時に案外使えて、
いつの間にか「腕!」の掛け声だけで、当然のように踏み台役を僕がやるようになった。
四年
『何だかなぁ』
僕の所属する用具委員会の顧問は、転職して戻ってらした卒業生の富松先生で、僕の1年下には、
富松先生の友達の息子―浦風内海―がいる。そして委員会は違うけど、上下にも何人か卒業生の
息子達がいる。しかも、全員富松先生の先輩の子らしい。
というわけで先生は、委員会中でもしょっちゅう内海に、その先輩の子供達のグチと、
ついでにかつての先輩方のグチをこぼす。そういう時、去年までは菊先輩が
「うっちゃんは、センセの相手してていいよ〜」
って内海の分の作業もこなしていて、内海はまだ下級生で分担も少なかったし、菊先輩は器用で要領も良かった
から、あまり問題はなかったけど、卒業された今は、正直ウチで一番有能なのは内海かもしれないので、
グチ聞きにとられるのは少し困る。それを内海自身も解っているからか、最近は何故か僕にお鉢が回ってくる。
先生的には、ある程度相槌を打ちながらグチを聞くんだったら、相手は誰でもいいみたいだから、
僕でも平気なんだろうけどさ。それに僕と森蔵は、先生のグチに出てくる面子―泉先輩に、潮江文多に
不破風早と、くのいちの斉藤雪女(ゆきめ)もたまに。あと、ついでに笹山先生もかな―の被害者でも
あるから、適任といえば適任。なのかなぁ? ちなみに
「暴走しかけたら、遠慮や躊躇しないで突っ込んでいいと思う」
は、内海、川西先生、久々知先生、土井先生他、色んな人から言われた。
でも、僕じゃ無理。だって暴走し出すきっかけがよく解んないもん。
五年
『今度は呪い小僧』
「立花先輩が卒業されて、これでやっと、森蔵に巻き込まれて罠に掛かることも無いと思ってたのに、
今度はお前かよ。ランタン」
ランタンこと釈藍之丞(しゃく らんのじょう)は、僕の3年下で、風早のマブダチで、呪術全般に
長けた生徒である。…って時点で、だいぶヤバい奴なのは解ると思う。陰陽師の血を引いてるとか
いう噂もあって、本当に多少は呪術が使える辺りが怖い。
「別におれは、樹衣先輩や平生先輩を引っ掛けようと思ったんじゃないですよ。無差別です。
てか、仮にも上級生の端くれなんだから、掛かんないで下さいよ。おれや風の仕掛けたものに
掛かった人の七割が、先輩方のどっちかだなんて、つまんないにも程がある」
ランタンの罠は、落とし穴や埋め火ではなく、金縛りの陣だったりすることもあるのが性質が悪い。
あとは、風早と組んで色々仕掛けるのも、笹山先生達のカラクリとは違う意味で奇怪な物が多い。
「げ。僕らそんなに掛かってる?」
「はい。笹山センセも呆れてますよ」
確かに、泉先輩にはしょっちゅう
「文多用に仕掛けたものに、お前らが掛かるな!」
って理不尽な文句を言われたりしてたけどさぁ。
六年
『最上級生になりました』
「六年生になってから、とみに富松先生が鬱陶しくなった気がするのは、気の所為かなぁ」
って森蔵に訊いてみたら、
「多分気の所為じゃないと思うよ。川西先生も、びみょ〜に比べてくるもん」
僕も森蔵も、六年間ずっと同じ委員会に居続けて、委員長になった。その頃から、ことあるごとに
先生の先輩だった人と比べられるようになった。僕は食満先輩、森蔵は善法寺先輩と猪名寺先輩に。
森蔵は、「五代目不運小僧」らしいから、先代(笑)の人達と比較されても、多少は仕方ない気がする
けど、僕がかつての委員長と比べられるのは、よく解らない。
しかも、あからさまに何か言ってくるわけでもなく、ふとした時にガッカリされたりするのが、
より一層鬱陶しい。内海には
「諦めた方が良いですよ、平生先輩。俺なんか、血が繋がって無いのに、父さんと似た所探しをされていますから」
と言われた。……うん。確かに、それよりはマシかも。でも、笹山先生が言うには、内海のツッコミは
結構お父さんに似てるみたいだし、富松先輩の扱いもお父さん直伝なんで、意外と似てるらしい。
木綿の1周年記念リク兼誕生日祝い。
加工前のブツを送った時の感想は
「作はいったい何がしたいんだ!?(ちゃんと顧問してんのか少し不安になるよ)」
でした。確かにね。
でも、きっと作も留さんも、作業の手を止めずに会話が出来たんだよ。ってことで
ちなみに、2年時に名前の出てくる「染井先輩」は、後の小松田嫁の由乃(よしの)ちゃんです
2009.6.29
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