これは、私が実際に体験した話です。
私が8歳の時に、住んでいた山間の村に2つか3つ程の「風早」という男の子を連れた夫婦が
越して来ました。
風早くんは、少し面長で鼻筋や丸い瞳がお母さんのお雷さんに良く似ていていて、行商人だと
いうお父さん―確か「三郎」さんだったと思います―は家を開けていることが多かったですが、
とても仲睦まじそうな一家で、風早くんとは何度か近所の子供達と一緒に遊んであげた覚えが
あります。
けれど、その一家が越して来て1年程経った頃に、私は少し遠くの町の代官屋敷に勤めていた
伯母の伝手で、下女として奉公することになり、村を離れました。
そして、お邸で働きだして数年経ったある日。お使いの最中などに、何度か風早くんと良く
似た6〜7歳の子を見掛け、その子も「風早」と呼ばれていましたが、その子が「父上」と
呼んでいた男の人は三郎さんではなく、双児の女の赤ちゃんを連れていた母親らしき人も、
お雷さんとは別の人でした。けれど「父上」と呼ばれていた人は、どことなくお雷さんと似て
いるような気がしたので、もしかしたら両親を亡くしておじさんか何かの家に引き取られたの
かもしれない。とも思いましたが、それからしばらくした頃に、その一家はどこかへ越して
行ってしまったので、真相は確かめられませんでした。
そこまでなら、その時考えた通り、親を亡くして親戚に引き取られた。と納得も出来ます。
ですが、その更に数年後。嫁ぎ先の村で、また「風早」と呼ばれている、アノ風早くんと
似た少年に会いましたが、又も親らしき人は違い、今度は三郎さんともお雷さんとも似て
いませんでした。
しかし、その風早くんには双児の妹が居て、その子達の名前―「伊呂波」と「歌留多」と
呼ばれていました―は、奉公中に見掛けた風早くんのお母さんが抱いていた赤ちゃん達と
同じもので、父親は「雷蔵」さん。母親は「おみつ」さんと名乗っていました。
その一家も、1年か2年程で別の所に越して行ってしまいましたが、同じ村で暮らしていた間に、
事情や素姓を訊けそうな機会は、幾度かありました。
けれど、他人の空似の勘違いでしたら恥ずかしいですし、それ以上に真相を確かめるのが怖くて
訊けませんでした。
……私が出会ったアノ人達は、一体何者だったのでしょう?
3周年記念リクエスト2本目
『落花』で、「第三者(誰でも可)から見た、三郎と風早の親子話」とのリクに、まず真っ先に
こんな何か怪談染みた内容が浮かび、一応別路線も考えようとしたんですが、他にも風早絡みの
リクがあった為、被らないように考えて行ったら結局……
リクエストして下さった方。
おそらくご期待には添えていないでしょうが、こんなんで勘弁して下さい(平身低頭)
2011.6.11
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