「どうした左近、そんな暗い顔して」
「委員会中に、間違えて伊作先輩を『母さん』て呼んじゃったんだ」
「何だ、それだけか。たいしたことないだろ、気にすんなよ」
「先輩も笑ってそうおっしゃてくれたけど、こないだ、伏木蔵も間違えて『お母さん』て呼んだら、『じゃあ、私が
お父さんだね☆』って、曲者が……」
「うわぁ。それで、まさか今日も?」
「いや。今日は現れなかったし、こないだもすぐさま僕と部下の人とでツッコミ入れて、数馬先輩と乱太郎が盾に
なって伊作先輩に近付けなかったけど」
「そうか。ちなみに、先輩ご本人の反応は?」
「苦笑いしてた。……でも、伏木蔵は楽しそうに曲者に挨拶してたんだよな」
「何かアノ子、妙に曲者さんに懐いてるよねぇ。……そういえば、ウチでもこないだ似たような面白いことがあったよ。
マラソンの帰りに、疲れきって眠そうな金吾を滝夜叉丸先輩がおんぶしてあげたんだけど、その時に金吾が先輩を
『母上』って呼んじゃったんだ。で、そのこと自体はよくあるんだけど、七松先輩が面白がって、『だったらわたしが
父上かな』って言ったら、寝ぼけてる筈なのにきっぱりと『それは遠慮します』って」
「それ、本当に金吾寝ぼけてたのか?」
「だと思うよ。答えた次の瞬間には、滝夜叉丸先輩の背で寝息立ててたから。……久作や三郎次は、何かそういう話
無いの?」
「この前のオリエンテーションの時に、中在家先輩がきり丸の父親に間違われて凹んでた位だな」
「うちは、土井先生も久々知先輩もどちらかというと兄ちゃんっぽいけど、実際に兄貴はいないからあまり……」
「そっかぁ」
「本当に、何も無いのか?」
「多分ないと思うけど……あー、1度だけ、考え事中に声掛けてきた下の兄貴に『三郎次』って答えたことならある」
「……帰省中に、間違えて妹を『伊助』って呼んだ」
「久作のは何か解るけど、三郎次は、弟じゃなくて妹?」
「妹。説教じみた言い方が、少し似てたから……」
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