♪(森のくまさん のメロディで)
あるー日(あるー日) 森の中(森の中)
九里サンに(九里サンに) 出会った(出会った)
花咲ーく森の道ー 九里サンにー出ー会ーった
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「ぎゃあー!!」
忍術学園裏手の静かな森の奥で、一人の少年の悲鳴がこだました。
悲鳴を上げたのは、2年は組の用具委員である平生人吉(ひらばえ ひとよし)。
そして悲鳴の原因は、木陰に転がる死体っぽいものが目に入ったことだった。
「うん? 何かあったのかな。…やあ平生くん。どうしたんだい。こんな所で」
人吉がその場から立ち去ろうとした瞬間。その死体っぽいものがむっくりと
起き上がり、やけにのんきな口調で話しかけてきた。
「え? 九里先輩??」
「そうだよ。今叫んだの君だよね? どうしたの?」
恐る恐る人吉が相手の方を向くと、それは、6年い組の生物委員(長)
九里十三(くのり じゅうぞう)だった。
「えーと…人が倒れてて、周りに狐が群がってたから、てっきり死体と、
それを食ってる獣かと……」
「ああ。何か暖かいと思ったら、コン太達が布団になってくれていたのか。
ありがとう」
今も何匹もの狐に囲まれ、その狐達を撫でながらのんびりと話しかけている
十三の異名は「野獣遣い」といい、野生動物を手懐けるのが特技らしい。
「…何してたんですか先輩」
「昼寝。この辺りまで来る奴はあまりいないから、穴場でね。君は、
こんな森の奥まで何しに来たの?」
彼らが遭遇したのは、滅多なことでは足を踏み入れる者のいない森の奥だった。
「森蔵の採取を手伝っていたら、笹山・立花共同制作の『連動式
吹っ飛ばし装置 試作品 乙の四号』を森蔵が発動させちゃって、
吹っ飛んだのを痕跡辿りながら捜索してるんです」
『連動式吹っ飛ばし装置』とは、吹っ飛んだ対象の落下地点を計算し、
その地点に新たな仕掛けを設置して、5〜6回連続で次々吹っ飛んで
いくように作られた、3年い組の作法委員・立花泉と、担任兼顧問の
笹山兵太夫の作法コンビの、えげつない新作である。
「相変わらず、樹衣くんの不運っぷりは見事だね。ところで、樹衣くんを
探しているのは、君だけなのかな?」
人吉の親友である樹衣森蔵(きころ もりぞう)は、「五代目不運小僧」との
異名を持つ、不運かつちょっぴり不注意な保健委員なのだ。
「採取した薬草の籠を、ひとまず届けてから事情を話したら、笹山先生達には
『折角、人の来ない辺りに仕掛けておいたのに』と文句を言われ、保健委員の
先輩方には『別に今日は当番じゃないんで、居なくても困んないし』とのこと
だったので、僕一人で探して来いと…」
あまりに「いつものこと」過ぎて、誰も特に心配していないが、かといって
放置するわけにもいかないので、人吉が一任されたらしい。
そういったことの他、何かと巻き込まれたり、始末などを任されるのが、
いつの間にか人吉の役目となっている。
「ふぅん。頑張ってね」
「手伝ってくれませんか?」
「まぁ別にいいよ。何か樹衣くんのもの持ってる?」
再び狐達に埋もれて寝なおそうとした十三に、人吉が半ばダメ元で
協力を頼むと、あっさりと引き受けてくれた。
「えーと。途中に落ちてた手拭いでいいですか」
「充分だね。…この辺りだとコン太達と、たぬ吉6号の一家と、
いのっち3号も縄張りだったかな」
指折り数えて確認している十三の周りに、次第に狐狸が集まって来て、
猪まで現れたのにはぎょっとしたが、この程度は十三的にはいつもの
ことなので、人吉は別なツッコミを呟いてみた。
「いつ聞いても、変な名前の付け方ですよね」
「個体識別は出来ているよ」
いちいち考えるのが面倒なので、「○号」で済ましているだけで、
狐狸・猿・猪・鹿・他、忍術学園の周辺に住む獣は、ほとんど
手懐け済みかつ、縄張りも大体分かるのだという。
「うわあぁぁ」
「あの声。森蔵!?」
「行ってみよう」
そんな話をしつつ、手拭いを嗅がせた狐狸に先導させて森蔵を
捜索していると、聞き覚えのある叫び声が聞こえた。
「森蔵! 無事か?」
「人吉ー。熊が、熊が…」
顔から出るもの全部出ている森蔵の目の前には、身の丈八尺(約2.4m)程の
熊が立ちふさがっていた。
「そうか。お前もこの辺りが縄張りだったね。よくやったエカテリーナ」
森蔵に駆け寄ろうにも、熊が怖くて近付けない人吉を尻目に、十三は
躊躇なく熊の傍まで行き、愛おしげに熊を撫でた。
「……。この熊。先輩が手懐けたやつですかぁ。怖かったです」
「うん」
熊や山犬まで手懐けているとの十三の噂は、正しかったらしい。
「何で、コイツだけ『エカテリーナ』なんですか?」
「うーん。何となく?」
「コン太(狐)」、「たぬ吉(狸)」、「えて子(猿)」、「いのっち(猪)」など、
十三のつける名前は安直なものが多い。にも関わらず熊だけ「エカテリーナ」
なのだから、人吉達が疑問に思っても当然である。しかし特に深い理由はなく、
しかも他にも数頭いる熊達は「くまくま○号」だし、他の獣にも特別な名を
つけてみたものがいる。と聞かされた時人吉は、(これ以上この先輩に訊くのは
止めよう)と、強く感じたという。
おまけ
「エカテリーナは、耳元を撫でてあげると喜ぶんだよ。って教えてあげてるのに
誰も触ろうとしないんだよね」
学園まで戻る途中で、十三のこんな呟きが聞こえた2年生達は、そろって
(…当たり前です先輩)
と、心の中で突っ込みを入れたという。
思いつきで作ってみた、木綿リクのアホ話です。
人吉が木綿。九里の兄さんは柳佳姉さまがモデルの子。
おまけの「エカテリーナは〜」は、姉さまがくれたネタです。
2009.1.19
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