善法寺薬店に、決まった営業時間というものはない。
大抵の場合、店主の伊作が調薬を始めたら開店で、
閉店時間は客の入りやらその日の状況やら伊作の
テンションで決まる。
しかし平均すると10〜11開店の18時閉店という、
それなりにマトモな営業時間と言えなくもない。
ただし、昼を過ぎても開かなかったり、開店
1時間で閉店することも珍しくはないだけで。
店内の品揃えに関しては、市販の医薬品が5割。
市販されてはいないが合法の医薬品が2割。
医薬部外品と、うさん臭い伊作の試作薬と
非合法の薬物が1割となっているが、試作薬と
非合法薬物の存在は、一般客にはほとんど
知られていないため、「道楽でやっている薬屋」
だと周囲には認識されているようで、店を構えてから
10年弱の間、表立って問題は起きていない。
それどころか、伊作の人柄や薬の効能が高いことから、
逆に意外と評判が良かったりさえする。
とはいえ、内情を知る者達からすれば、破滅を望んで
いるとしか思えない経営をしているのだが。
まず、先に挙げた通りの、定まっていない営業時間と、
非合法の薬物。そして、明らかに採算の合わない販売価格。
ついでに、愛想のカケラもない従業員。
これだけの要素がありながら、未だに存続している
ことの方がおかしい状況なのだ。
…と、その辺りを指摘した友人達も居るのだが、
「税金対策で持たせてもらってるお店だし」
「摘発したかったら、好きにしていいよ。ただし、
その場合は実家の方も巻き込んでね」
などの答えが、無表情で返され、それ以上は何も
言えなくなくなったらしい。
しかも、善法寺薬店のテナントが入っているのは、
伊作の友人である超有能悪徳弁護士立花仙蔵が
個人所有しているビルなので、いくら怪しい煙が
立とうが、異臭に包まれようが問題にしない上、
「裁判となった暁には、この私が、全力を持って
望む通りの方向に持っていってやろう」
などと仙蔵が明言しているため、迂闊に事を荒立てよう
ものなら、只事では済まないことが目に見えている。
ということで、現役刑事である別の友人潮江文次郎も、
見て見ぬ振りを決め込んでいるのである。
故に、今日も善法寺薬店は、表向き平和に営業されている。
票を入れてくださった方が、こんなもん期待してたんじゃないことは解ってますよ。
でも、あまりほのぼのとしたものが思いつけなかったもので…
というか薬屋っぽい風景が浮かばなかったんです。
ごめんなさい。うちに置いている物の中で、一番伊作が病んでいるのは、
もしかするとここかもしれません。
2008.12.5
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