どこの自治体でも、大抵「夏祭り」というものは、準備段階から片付け後の打ち上げまで、
大いに盛り上がるものである。
そして、町長を筆頭とした町民達の多くが、普段からお祭り好きの町ともなれば尚のことで、
更に主に商店街から出店される屋台のメニューや、駅前広場でのイベントのクオリティーが
ムダとも言える程に高い為、近隣だけでなく、少々遠方からも結構な人数が毎年やって来る。
そんな夏祭りの打ち合わせの場で、まず最初に
「食中毒騒ぎの影響で、テイクアウトの生ものがアウトになりました」
との注意点を挙げたのは、町役場の職員富松作兵衛で、彼は普段は生活相談窓口担当だが、
毎年後輩の下坂部平太共々、夏祭り担当に回されている。
「えっと。とりあえず去年まで出ていたけどダメなのは、肉の野村さんの馬刺し。魚池さんの
海鮮巻きと漬け丼と海鮮丼。久々知豆腐店さんの冷奴。それから不破米店さんのサラダ巻き
とか黒木乾物店の冷やし中華もらしいんですけど、八百大さんのリンゴあめとアンズあめと
冷凍パインや川西薬局さんのかき氷はOKだそうです」
メモを見ながら説明する平太に、商店街の若手達から盛大にブーイングが起きたが、
「でも、決めたのは町長じゃなくて、もっと上らしいんで……」
「てことで、『持ち帰りで無ければ良いんじゃろ』ってな理屈で、今下坂部が挙げた物は全部、
大盛食堂の特別メニューとして、大盛食堂と七松組でなら食べられるような形にしたいそう
なんすけど、異論ある店は?」
流石のワンマン町長も、県のお達しに逆らうような愚かな真似をする気は無いが、だからといって
自分を初めとする皆が楽しみにしている名物を出さないなど有り得ない! ということで、珍しく
彼のお得意の「思い付き」の前に「傍迷惑な」が付かない案が出されたのだという。
「はい。って、いや、文句じゃないんだけど、おばちゃんの店はともかく、七松組って……」
恐る恐る手を挙げて訊ねたのは、薬局の息子の川西左近で、彼の尤もな疑問に答えたのは、
七松組の若手をまとめている皆本金吾だった。
「あー、それは大丈夫です。滝さん調理師免許と、食品衛生責任者の資格も持ってるらしいですし、
きり丸と善法寺さんに助っ人頼むって言ってましたんで」
「……あの人、そんな資格まで持ってんのかよ。ホント、どこ向かってるんだ?」
「さあ? とにかく、使えそうな資格は片っ端から取ってるようなんで、年に2〜3個ずつは
確実に増えてるらしいですけど」
七松組の家政夫的存在である平滝夜叉丸は、
「自分を高められ、更に他者の役に立つなどとは、コレ以上に素晴らしいことは無いだろう」
ということで資格取得が趣味らしく、他にも「そんな資格持っていてどうする」というものも
多いという。
閑話休題。
「えー、それじゃ、その件は皆さん納得した。ってことで良いっすね。……そしたら、あとは
ひとまず例年通りで計画進めて大丈夫ですか?」
「いや。うちは、毎年変わり奴だけだから、店は出さずに余所の手伝いに回る」
改めて作兵衛が確認を取ると、そう申し出たのは久々知豆腐店の主兵助だった。
そして、それ以外の店は加熱処理された品があるか、食品以外の屋台だった為、例年通り出店
することとなり、ひとまず現在の時点での出し物などを確認している最中。
「……前から気になってたんだけど、何でここのお祭りって、金魚すくいとかカラーひよことかの
お店無いの? 祖父ちゃんとこに遊びに来てた頃は、そういう屋台もあった気がするんだけど」
そんなことを訊ねたのは、数年前に越してきた美容師の斉藤タカ丸で、彼の店―ビューティ斉藤―は、
元は祖父の幸丸の店があった場所に立て直したものだったりする。
「そんな、命を軽々しく扱うのは、良くないと思うんすよ。生き物を飼うからには、最後まで
責任を持たないと!」
「……という、暑苦しい主張をする奴が居て、他にも賛同者が多かったからです」
「あと、ハチは一応七松組の孫だから、発言力あるしねぇ」
握り拳で熱く語ったのは、元酒屋なコンビニ「たけマート」の息子で2号店の店長な竹谷八左ヱ門で、
補足を入れたのは彼の友人達だったが、この主張の賛同者の中に「虫の伊賀崎」の店主である伊賀崎
孫兵も含まれている為、金魚やひよこや亀だけでなく、カブトムシや鈴虫でさえ売っていなかったり
するのだという。
「へぇ〜、そうなんだぁ。でも、確かに命を大切にするのは、大事なことだよね。……ん? アレ?
そしたら、伊賀崎くんはお店出して無いのかな? 何かやってるの見た気がするけど」
素直に感心してから首を傾げたタカ丸は、当日は浴衣の着付けやヘアセットなどで忙しいが、それでも
終わり際に一通り見て回っており、その際に孫兵も見掛けた記憶があるという。
「ああ。それでしたら、三治郎達を手伝って子供向けの砂絵や工作の店をやっていますので」
「毎年端っこの方でやってるし、子供対象なんで早めに店じまいしちゃうんで、タカ丸さんは
片付けしてる所しか見たこと無いかもですけどねぇ」
「そっかぁ。何か、虎若くんとか団蔵くんが居るの見た気がしたんだけど……」
「あ。それは、三ちゃんが担当してる型抜きだと思います〜。砂絵とか木のおもちゃは、材料
なくなっちゃったり、小さい子見えなくなったら片付けちゃうんですけどぉ、子供が居なく
なってから、型抜きに挑戦しに来る大人が、結構居るんです〜」
骨董屋「夢前庵」の店長代理の夢前三治郎と、孫兵や双方のバイトの山村喜三太、初島孫次郎、
法律事務所の笹山兵太夫や芸大の鉢屋三郎などが手伝いに入ったりしているその店では、砂絵・
虫のブローチ(木製)・竹トンボ・コマなどを作って遊べる他に、三治郎&兵太夫作の
「ぜってぇ無理だ、こんなん!」
な形を含む型抜きもあり、毎年むきになって挑みに来る大人が数人いるらしい(笑)
「……子供対象に見せかけて、大人の方が熱中するのは、虎若の所の射的もだよねぇ」
「うん。正直、小さい子向きのお祭りっぽい遊びって、ゲームセンターの駐車場のヨーヨー釣りや
スーパーボールすくいぐらいじゃないかな。あと、妙見堂のくじもだけど」
タカ丸と友人達のやりとりに、そんな感想をもらしたのは、クリーニング屋の息子二郭伊助と
乾物屋の黒木庄左ヱ門で、それを受けて更に
「あ! 忘れる所でした。迷子預かり所は、おひさま園で良いんですよね。あと、総合案内の
場所が去年と違うって聞きましたけど、どこですか? それから、肝試しの会場って……」
「えーと。迷子はあってる。で、総合案内は商店街の手前の角で、ついでにお前が土曜で俺が
日曜の担当な。そんで、肝試しは中在家美術館で、土井さんとこで子供向けの映画上映やる
って言ってたんで、あとで何やるか訊いて来い」
等の、祭りのメイン以外の細々した内容について平太に確認を取られた作兵衛は、
「あー、それと、交通整理は警察に任せるんで良いとして……金吾! 七松組の若手に、見回り
頼めるか? それとも、お前んとこより竹谷さんの舎弟とかの方が良いか?」
「そうですねぇ。うちから、それなりにちゃんとした奴何人か出します。あと、いっそ戸部さんや
厚着さん辺りがヒマしてそうなんで、頼めなくもないと思いますけど」
「いや。若いのでいい。流石に幹部クラスの人達は目立ち過ぎるからな」
「解りました。伝えておきます」
そんな、一歩間違えば裏取引めいた交渉を、金吾と交わしたが、周囲の面々は誰も気にしなかった。
「……ということで、概ね決まったんで、今日はこれまでで。他に、まだ何か付け加えることある
人居ますか?」
「機材のレンタルを勘の所に頼むなら、勘がバルーンアートで出店したいとか言ってたが?」
「そうですか。じゃあ、それは業者決まってから改めて。ということで良いですよね。他には?」
商店街関係者ではないが、兵助達の友人である尾浜勘右衛門は、イベント用機器のメーカーに
勤めており、自身も扱っている商品は概ね扱え、「祭りの申し子」の異名を持っていたりする
ような芸達者な人物だったりする。
「えっとぉ、ポップコーンの機械は、何かフレーバー付きにしたいんで、何味が出来るか確認
とってもらえますかぁ? あと、わたあめの袋も、見本あったらみたいです」
機材の話が出たついでに。と手を挙げたのは、駅前のスーパー福富のオーナーのしんべヱで、
スーパー福富では駐車場でポップコーンとわたあめを販売することになっていた。
「解った。それじゃ、そのことも一緒に伝えておく。……まだ何かありますか?」
しんべヱの要望で最後だった為、これで本当にこの日の打ち合わせは終了したのだった。
3周年記念3つ目
諫早 唱リクエスト「商店街のメンバー+富松」で、「現パロの、商店街の面子でカップルなしの
ほのぼのとした日常が見たいです。できたら富松君を出してくれたら嬉しいです。
普段苦労人なメンバーに、良いことがあったとかそんな感じでお願いします!」
とのことで、「商店街+町役場+季節もの=夏祭りはアリだな」と思ったのですが、商店街メンツの
セリフや出番がイマイチ少なめでスイマセン
2011.6.18
オマケ(各店の出し物等)
スーパー福富:ポップコーン&わたあめ
川西薬局:かき氷
魚池:イカ焼き&たこ焼き
肉の野村:フランクフルト&シシカバブ他
八百大:アンズあめ・リンゴあめ・
冷凍パイン・焼きトウモロコシ
黒木乾物店:焼きそば
不破米店:いなりずし・おにぎり・おこわ等
たけマート1号店:各種地酒、缶ビール、ジュース等
妙見堂:くじ
夢前庵&虫の伊賀崎:砂絵・型抜き他
佐武銃砲店:射的
440Hz:ヨーヨー釣り・スーパーボールすくい
ビューティ斉藤:浴衣の着付け・ヘアセット
二郭クリーニング:浴衣の着付けの手伝い
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