近年は、365日24時間営業の職種も少なくなく、
「クリスマスも年末年始も仕事ですが何か?」
なんてことは珍しくないが、公共施設などは大体が年末年始は休みになっている。
だがしかし、この町の町役場は世間的に休日窓口が一般的になる以前から、土日祝日だけでなく年末年始も臨時
窓口を開設しており、年中無休―しかも12/31〜1/1は夜通し―で開いていたりする。そしてその年末年始に出勤
する職員は、持ち回りでは無くクジ引きで決まっており、そんな町役場に高卒で就職して以降、9年連続で年末
年始担当の中でも過酷な深夜番を引き当てていた憐れな生活相談窓口職員富松作兵衛は、10年目の今年、初めて
その役目から解放された。
そんな訳で、紅白歌合戦を見つつ、取りとめのない話をしながらダラダラと飲みながらの年越し。という、長年の
夢にしてはショボイと言うか、そんなの夢にしないでよ! という野望を果たすべく友人達に声をかけると、実に
あっさり5人共から了承の返事が返って来た。
曰く
「うちの所長が、年末年始も働く程仕事熱心な人だと思うか?」
「右に同じ。って程でもないけど、うちのお店入ってるビル立花さんのだし」
「僕も、この時期に店を開けていてもお客は殆ど来ないし、殆どの子が冬眠をしているからヒマだな」
「年末とか年度末は、税金や手続きの関係でめんどくさいからって、新築も改装も少ないんだよな。あと、うち
七松組の下請けなんで、暴排法のあおりもあるから」
「邪魔だから年末年始は休み取って良いって言われた!」
とのことで、上司が俺様な弁護士事務所の職員浦風藤内と、気まぐれ営業な薬局の店員三反田数馬、道楽の店と
評判の爬虫類だらけのペットショップの店長伊賀崎孫兵、町を仕切っているヤクザの傘下の土建屋の息子な次屋
三之助の4人の理由はともかく、駅前交番の巡査である神崎左門はそれで良いのか?
と、作兵衛以外の面々も思ったが、後で左門の部下から各自の部下や後輩伝手に聞いた話によると、
「確かに、参拝客やスーパー福富の初売りに来たお客さんの案内や対応などで、死ぬ程忙しいですよ。だけど、
酔っ払いやケンカの仲裁ならまだしも、迷子や道案内や車の誘導を神崎先輩に頼む訳にいかないんですから、
それなら居ない方がマシです」
「だからって、『邪魔なので』って本人に言わなくても良いと思うけどなぁ、おれは」
「だったら、どう言えば良かったっていうんだ、バ加藤。アノ人に婉曲表現が通じるか? っていうか、僕は今
そこまで気を使っている余裕はない!」
「……目が怖ぇよさきっちゃん」
そんな風に言い切った駅前交番の後輩巡査任暁左吉は、忙殺され過ぎてキレる寸前の藤内と良く似た目をしていた
とかいないとか。
とまぁ、そんな若干の犠牲をはらいつつ、
「一番片付いてそうだし、誰にも気兼ねしなくていいし、そもそも誘ったのお前だろ」
との理由から、大晦日の夕方過ぎから、各自食べ物や酒などを持ち寄り作兵衛の部屋に集まることになった。
「おじゃましまーす。みんなもう集まってる?」
「よぉ、数馬に藤内。お前らが最初で、他はまだというか、これから買い出しついでに馬鹿二人拾ってくるんで、
留守番頼む。……何か買って来るものあるか?」
「解った。とりあえず、鍋の具になりそうなものは買ってきたから、他に食べたいものがあったら買い足して
くれば大丈夫だ」
「あ、あと、三之助が持ってきそうなの以外のお酒も。たけマート2号店で買ってこようとしたら、あそこの
バイトが売ってくんなかったんだもん」
各自持ち寄ると言っても、被ったり足りなくても困るので、数馬と藤内が商店街でメインの鍋の材料を買い、
ツマミやその他は作兵衛が迷子2人とスーパー福富で買う予定になっており、酒だけは各自が飲みたい物を
買ってくるつもりだったが、数馬と藤内が元酒屋なコンビニに寄った所、顔なじみというか知り合いな竹谷
店長は不在で、バイトの出茂鹿之助に2人共未成年だと判断され、運悪く年齢を証明するものを持っておらず
買えなかったのだという。
「……確かにまぁ、私服のお前らって何か幼く見えるしな。それじゃ、何か甘そうで弱めの買ってくりゃ良いんだな」
「うん。お願い」
という訳で、作兵衛が迎えと買いものに行っている間に、藤内が鍋の下準備をし、数馬がそれを手伝っている間に
孫兵が鍋の締め用のうどんとだし昆布を買って来て顔を出したが、
「えぇー。後でお蕎麦食べるんだから、締めはおじやでしょ。あと、もう出汁取り始めちゃってるし」
「まぁ、出汁は蕎麦にも使うし乾物は多くあっても困らないから良いけどな」
と、米をといでいた数馬からブーイングを食らい、オマケに戻って来た作兵衛は締め用にラーメンを買ってきたので、
締めをどれにするのかとそもそも何味の鍋にするのかで一悶着が起きたが、結局味はじゃんけんで勝った三之助の
希望のキムチ鍋になり、締めは多数決でうどんになった。
そして、「滝さんから」という三之助が持参した蕎麦は、「流石に多過ぎるだろ」と思う程大量にあったが、
結果的には「丼でわんこ蕎麦って、お前らの胃はブラックホールか」とのツッコミを入れたくなる―実際
作兵衛は入れた―勢いで消費されたので問題はなかった。
そんな感じで飲み食いしつつ、紅白か別番組かで作兵衛と数馬が揉めている間に左門が勝手にザッピングして
ケンカしていた2人共から怒られ、結局紅白に落ち着いたが、その後も行く年来る年とジャニーズのカウント
ダウンコンサートかでまたも揉め、1:2―残り3人は「何でもいい」だった―でカウントダウンコンサートの
方に軍配が上がったが、賛成票を入れた藤内は実際番組が始まった頃には寝落ちしていた。
「……結局、起きてんのは俺一人かよ。これじゃ紅白見ながら役場で当番してんのとあんま変わんないだろ。
しかも片付けも残ってやがるし」
そんな風にぼやきながら、年跨ぎで洗い物をしていた作兵衛に、
「朝起きてからやれば良かったんじゃないか?」
と言って、新年早々殴られたのは、誰よりも早く寝落ちし、料理も準備も片付けも最も役に立たなかった左門だった。
年末年始企画 黒桐 桐夜様リク
自分でお題にしておきながら、「カウントダウンてどう書きゃいいんだろ?」と思い、とりあえず
大晦日の夜の風景にしてみましたが、こんなんでよろしいでしょうか?
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