夏休みに比べて短いし、春休みや秋休みと違って宿題はあるし、「正月位は帰って来い」的な空気があるしと、
何かと面倒臭い気がしなくもない、冬休み初日。
「ま、1日2日帰るのが遅くなっても構わないだろうし、羽目は外し過ぎないんで見逃して下さいよ」
ということで、下級生達が帰省して静かになった学園で、1年を振り返りながら友人同志で飲んでいる上級生は
珍しくなく、場合によっては見回りに来た宿直の教師も誘う勢いだが、この時代に飲酒年齢の制限は別に無いし、
元服が近い年齢なので、むしろ「ある程度は飲めないと」な感じだったりする。
そんな訳で現5年の5人も、各自酒やつまみを持ち寄り、兵助と勘右衛門の部屋で飲み会を開いていた。
「えっとじゃあ、僕三郎の真似するね」
「おおー。似てる似てる」
「って、どこがだ。変装も演技も声真似も何もしてないだろ」
「いやぁ、似てるよ。人を舐めきった半眼が、鉢屋そのもの」
「馬鹿にしきった口元もな」
軽く酔いが回り始め、誰からともなく上がった「誰か何かやれよ」の声を受け、三郎本人以外からは大絶賛の
モノマネ(?)を雷蔵が披露したのを皮切りに、
「あー、それじゃ俺は、豆腐だします!」
「それのどこが芸だ。懐に入れてる高野豆腐出すだけだろ」
「って、マジに豆腐出したよコイツ」
「うわぁ、すごいけど、ホントどこから出したの兵助?」
「それツマミ用の?」
と、兵助が豆腐小僧の本領を発揮したり、
「勘ちゃんの髪が抜けた!?」
「束というか房というかこれで一塊ってことは、作ったのか」
「すげぇな。三郎並に無駄な手ぇかけてんじゃん」
「私の変装は無駄じゃない!」
「……そういや俺、普段から勘ちゃんの落ち髪拾ったこと無いかも」
勘右衛門の謎の髪型の謎が更に深まったり、
「あ。ヤベ、エサまだ入ってた」
「……何のエサかは知らないが、何故髪の中から出て来るんだ」
「もう。ハチったらいつから髪梳いてないの?」
「そういう問題なの、雷蔵?」
「まぁ、ハチだしな」
芸のつもりでは無いのに、芸じみた鳥の巣頭っぷりを発揮した八左ヱ門と、「鶏頭」と呟いた三郎がケンカに
なりかけたが、他の3人は止めずに呆れたり笑いながら見ていただけだったり。と、いつも通りにひとしきり
騒ぎ、お開きになり各自部屋に戻る直前。
「ところで三郎。今日、お前以外全員入れ替わってたの気付いてたか?」
「は? 何を言っているんだ雷蔵」
ニィっと、らしからぬ笑い方を三郎に向けた雷蔵は、口調も声も八左ヱ門で、
「本当だぞ。その雷蔵がハチで、俺が勘ちゃん」
「兵助。その言い方じゃ分かんないって」
八左ヱ門の顔で兵助声の奴に、勘右衛門顔の雷蔵声がツッコミを入れ、
「えっとつまり、おれが兵助やってて、兵助がはっちゃん」
「で、俺が雷蔵で雷蔵が勘だな」
「……。冗談、だよな。今しゃべってる内容だけ、打ち合わせしてあったんだろ」
代わる代わる説明する友人達に、飲み会中ずっと別人だったとは思えなかった三郎が、むしろ今各自を演じている
だけだろう。と指摘すると、雷蔵はいつもの困ったような笑顔と雷蔵の声で
「うん。やっぱりわかるかぁ」
と笑ったが、
「ってのが冗談かもよ?」
「……まぜっかえすなよ勘」
「まぁ、信じるのも信じないのも、お前の好きにすれば」
と、残りの3人は先程の自己申告の通りの声と口調で返してきた。
結局。とりあえず入れ替わっていないと仮定して部屋に戻ったが、酔いも手伝って早々に寝た直後に、雷蔵が
部屋を出て行った気配がしたのが気になって仕方ないが、真相は謎のままだったりする。
年末企画「忘年会」
5年生でCP無しギャグとのリクでしたが、こんなんでいいですかね
戻