土井半助(25)の元に、冬休み中に届いた、教師歴3年目にして初の担任学級の生徒達からの年賀状は、
表の差出人を見なくともどれがどの生徒から来たのかが明白だった。
まず、家族写真に墨色の鮮やかな筆字(しかも達筆)で「謹賀新年」と書かれている端に、卒がないが何か
一言多い気がしなくもない挨拶が添えられていたのは、学級委員長の黒木庄左ヱ門からで、後から聞いた
ところによるとい、題字は彼の祖父が書いたらしい。
次に、クラスメイト11人+土井と副担任の山田伝蔵そっくりの13匹の竜のイラストが描かれていたのは、
絵が得意な猪名寺乱太郎からで、細部まで描き込まれたそのイラストは、特徴の捉え方とデフォルメ
具合が絶妙だった。
乱太郎以外で、干支を使っていてらしかったのは、竜っぽい角や髭をつけられたナメクジの写真が
プリントされた山村喜三太からや、同じ竜の模型の写真にそれぞれ一言付け加えられていた笹山
兵太夫と夢前三治郎からもので、模型は「カラクリ小僧」の異名を持つ2人が、先輩達の手や知恵も
少し借りて一緒に作ったもののようだった。
その逆に、一瞬ダイレクトメールかと思ったのは、キチンと一言挨拶が添えられていたが実家である
クリーニング店の年賀状をそのまま使った二郭伊助からのもので、同じく実家の年賀状を使った加藤
団蔵からのものは、判別不能な位字が汚すぎて一目瞭然だった。
そして、団蔵と似たような意味で判りやすかったのは、既成のイラスト入りの年賀状を使っていて、字も
綺麗とまでは言い難いが汚くもないが、書いている最中に大量のおやつを食べていたことが丸わかりな、
ほんのり甘い香りとお菓子のくずや染みが端の方に散在していた福富しんべヱからのもの。
残る3人の内2人は、2人揃って自作した内容を年賀はがきにプリントアウトしていない上に、「年賀」
とも書き忘れていたため前年内に届いた。しかも、知人の所有する竜の影が出来る日本刀の写真を使った
皆本金吾はともかく、イチオシらしき銃の写真の佐武虎若からのものは、年賀状だと判断されなくても
当然だろう。と、土井は新年早々ちょっと頭が痛くなった。
尚、前述の8人の内、1/1に届いたのは庄左ヱ門、伊助、カラクリコンビの4人からで、残る4人は12/25
までに出し損ねたようで、1/2に届いた。
「俺のだって、1/1に届いたじゃないっすか」
「……お前は、届いたと言うか手渡しだっただろうが、きり丸」
「だって、居候させてもらってんですから、直で渡せば切手代かかんないし」
「だからといって、企画の余りを宛名も無しで渡すな!」
大川学園1年は組11人の最後の1人、摂津きり丸からの年賀状は、タレントをしている彼の、とある番組
での年賀状プレゼント企画の、余りというか予備だった。
年始企画リク「無月1は/年賀状」
大変お待たせいたしました、ほぼ年賀状の中身オンリーになってしましましたが、こんなんでよろしいでしょうか?
2012.1.7
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