例によって例のごとくの学園長の思い付きの所為で、全校生徒が冬休みなしになり学園で迎えた元旦。
食堂のおばちゃんは帰省していたので図書委員会が作った汁粉をすすりながら、作法委員会委員長の
立花仙蔵は、同じく汁粉や雑煮―こちらは保健委員作―を食べていた後輩達に
「委員会の活動として出掛けるので、食後支度をして正門に集合しろ。制服ではなく、私服でな」
と指示を出した。
その指示に、元々座学系が中心のあまり活動的な委員会では無いのに、新年早々寒空の下出掛けるのか。
と―口には出さずに―1年の作法委員2人は少しげんなりしたが、34年の先輩達は2人共特に異論の
無さそうな顔をしていたので、渋々従った。……が、4年生の綾部喜八郎は基本的にあまり感情が表に
出ず、3年の浦風藤内は端から諦めていたので、2人とも1年生達と同じ位不承不承だった。
仙蔵は、そんな後輩達の思いなど見抜いていたが、素知らぬ顔で万全の防寒対策を施した格好で皆を
待ち、全員揃ったのを確認すると「では行くぞ」とだけ言って、行き先も目的も告げずに歩きだした。
「せんぱーい。どこまで行くんですか」
「安心しろ。そう遠方では無いし、着けばわかる」
「あの、立花先輩。僕出門票書いてない気がするんですけど……」
「大丈夫だ。委員会活動として届けてあるし、お前達が揃う前に全員分まとめて書いておいた」
「……綾部先輩。立花先輩、上に色々と着込んでいるからわかりにくいですけど、結構仕立ての良い着物
着ていらっしゃいますよね。てことは」
「うん。どうせ毎年恒例のやつだろうね、藤内。……寒いの嫌いなくせに、その辺キッチリしてるから」
「それはまぁ、作法委員長ですし……」
等々の会話を交わしつつ着いたのは、人でにぎわうそこそこ立派な造りの神社で
「あ! そうか。初詣」
「そういうことだ。毎年、参拝の作法を学ぶのが慣例となっているのでな」
「でも、それだけだったら、こんな混んでる所じゃなくても良くないですか?」
「馬鹿だな、兵太夫。混んでても大きな神社じゃないと、勉強にならないからだろ。……そうですよね、
立花先輩?」
新年早々、普段通りの言い合いを始めた1年生達に、
「確かにそれもあるが、今年の恵方の社は此処なのでな」
に始まり、社殿に辿り着く前から、門の下の一段高くなっている所は踏むな。だの、御手洗での手の
洗い方や柏手と礼の回数―二礼二拍手一礼―などの参拝の作法を、逐一教えつつお参りを終えた後。
「この絵馬は、今年も用具委員に作らせたんですか?」
「ああ」
「え。これ、売り物じゃないんですか!? ああ、でも、そうか。さっき懐から出しましたっけ」
「去年のよりも出来がいいですね。特に神馬の絵が」
「その絵は、保健委員の1年生が描いたそうだ」
手渡された絵馬は、素人の作とは思えないような見事な出来だったが、仙蔵の最後の一言に、まず微妙な
顔をしたのは、神馬の絵を保健委員の描いた1年生こと猪名寺乱太郎と同じ1年は組の笹山兵太夫だった。
「確かに、乱太郎の絵は上手いですし、用具委員長の食満先輩と保健委員長の善法寺先輩は同室ですから、
頼んだ経緯も解りますよ。でも、不運小僧の絵馬にご利益って……」
「ああ、うん。それは僕も同感かも」
保健委員会の異名は不運委員会であり、その中でも特に運に見放されている生徒の片方作なんて……。
という兵太夫に同意したのは1年い組の黒門伝七で、普段は仲が悪く張り合っているからこそ、意見が
合う時は本気で殆どの人間がそう思うだろう。ということが多い。
「それは私も少々思ったが、奴らの厄払いの意も込めて使ってやれ。留三郎が描いたものもあるが、無難に
上手くてつまらんぞ。それとも、無地のものに自分で描くか?」
「僕は、別に何でも良いです。毎年『書け』って言われてるから書いてるだけだし」
「俺も乱太郎の絵ので構いません。どうせ、後日数馬達とまた来た時にも書くでしょうし」
そう言いながら、用具委員会作・乱太郎画の絵馬を使用する先輩達に、少し悩んでから1年生達も
「折角描いてくれたんだし」
とそれを使用することにしたが、帰りに引いたおみくじが、5人揃って吉以下だった為、
「やっぱり不運移ったかな」
と思わなくもなかったという。
大変お待たせしました。新年企画最後の1つ「一年中心作法/初詣」とのリクエストでしたが、
仙様中心っぽくなってスミマセン。
余談ですが、初詣の作法の大半は、かつて私が従姉から教わったものだったりします
2011.1.8
戻