大学時代の滝ちゃんは、もうすっかり家政婦が板についてて、
「折角進学させていただいたのだから」
とか言って勉強は頑張ってたけど、サークルとか、学部の他の連中にすら興味が全然なかったんだ。
あんまりにも人付き合いしなさ過ぎて、未だに女だと勘違いされたままな可能性もあるくらい。
でね。まぁ、見てくれは結構綺麗めだから、陰ではモテてたけど全然気付いてなくって
「あ。こいつ滝ちゃんのこと狙ってるなぁ」
って僕が気付いたら、それとなく誘導して滝ちゃんにしろや若の話させて、それ盗み聞きさせて勘違い
させてみたり、若に言って何か見せつけてもらったりしてたんだ。
でも滝ちゃんの凄い所は、無自覚で
「すみませんが、子供が熱を出したと連絡がありましたので、帰らせて貰います」
みたいなこと言って、無理矢理参加させられたゼミの飲み会を途中で抜けたこととかあって、しかもその後
子持ちだって噂になっても、全然気にしなかった辺りかもね。
今を遡ること8年ほど前のとある夜。大学の懇親会だか何かに、無理矢理参加させられている滝夜叉丸から、
小平太にメールが届いた。しかしそれは滝夜叉丸の携帯から送信されただけで、差し出し人は別の人物だった。
From:滝
Sub:綾部です
滝ちゃんつぶれちゃっ
たので迎えに来て下さ
い
場所は大学近くの○○
です
メールを受け取ってから約30分後。目的の居酒屋についた小平太は、案内しようとする店員に、ただの
迎えであることを告げ、学生達の飲んでいる個室の場所を訊いて覗いてみると、端の方で眠そうにして
いる滝夜叉丸が、すぐに目に入った。
「うちのが潰れたって聞いたんで、迎えに来たんだけど……滝、帰るぞ」
「? 若?」
見知らぬ人間の登場に、「席を間違えたのか」と怪訝そうな顔を見せた学生達に、簡潔かつ牽制の意も
込めて関係を明かしながら、小平太は滝夜叉丸に声をかけた。
「珍しくだいぶ飲んだみたいだな」
「烏龍茶と烏龍ハイが間違ってて、その後水と間違えてウォッカ飲んじゃったんです」
半分寝ぼけており、仕草も妙に幼く、飲み屋の暗めの照明でも真っ赤になっている滝夜叉丸を立たせようと
していると、横から同席していた喜八郎の注が入った。
「ああ。そりゃ酔うな。……歩けるか?」
「へーきですよぉ」
「無理そうだな」
明らかに足元が覚束ない滝夜叉丸を、小平太がいわゆる姫抱っこで抱えあげると、周り中がどよめいたが
小平太は一向に気にせず、滝夜叉丸の分の代金を出そうとしていると、当然のように喜八郎が
「僕も帰るんで、一緒に乗せてって下さい」
と声を挙げた。
「じゃあ、滝の荷物持って来て」
「はい」
「えーと、それじゃ、幹事誰?」
「あ。はい。俺です」
「コレ、滝と綾の分。釣りは要らないから」
ポンと、無造作に1万円札を幹事に渡し、滝夜叉丸を抱え、喜八郎を従え去っていく小平太の様は、
そんじょそこらの学生風情では、とても太刀打ちできない大人な感じがしたという。
発掘物。おそらく、もう少し足そうと思って放置した模様
オマケ(車中にて)
「……綾」
「何ですか?」
「烏龍ハイはともかく、ウォッカはお前がワザと飲ませたんだろ?」
「おや、バレてましたか。下手に可愛らしく酔わしとくより、潰しちゃった方が良いかと思って」
「それは、俺に迎えに来させて周りを牽制する為にか?」
「お見通しですか。そうですよ」
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