兵太夫が、正式に忍術学園の教員として採用されてから丸1年。

新学期直前に、恩師兼同じ教科担当の先輩かつ一応同僚にあたる土井の家で、
アレコレ教え方や授業計画の立て方を訊く。という名目でくつろいでいたところ、
土井の元教え子で義息子となった友人きり丸が、珍しく顔を出し―彼は、卒業後
かなり早い内に一人暮らし始めた―たと思ったら、ニヤニヤ笑いと共に

「今年の新入生。面白いのがいるぜ」

と言った。

「は? 何でお前にそんなことわかるの?」
いくら仕事柄と性格上きり丸の顔が広いとはいえ、10歳の息子がいて、尚且つその子を
忍術学園に入学させることを洩らすような知り合いがいるとは、いささか考えにくい。

「それをバラしちまったらおもしろくないんだ。ってことで、お楽しみに。…どーせすぐにわかるって」
問いをはぐらかし、相変わらずニヤニヤ笑っているきり丸が、若干気に食わなかったが、
彼の情報に間違いは滅多にないし、確かにネタバレしたらつまらないことはいくらもあるので、
兵太夫はそれ以上は何も訊かないでおくことにした。


そして数日後。
受付をしている新入生達の対応はせず、ただ遠くから眺めていた兵太夫の目に入ったのは
「立花先輩…の、息子!?」
どうみても、彼らが入学した当時の最上級生の身内としか思えない、整った顔立ちの少年だった。

そして更に、その少年は兵太夫が副担任を務めることになった1年い組の生徒となり、判明した
名前は”立花 泉”。これはもう、無関係の筈がありえない。

そこで、顔合わせも例年通りの学園長のパフォーマンスも済み、各自割り振られた部屋に
落ち着いた頃を見計らって、直接少年―泉―と話しに長屋へと兵太夫は向かった。


同室になった生徒に怪しまれることも無く、スムーズに作法室―ここを選んだ理由は、時期的に
まだ活動している生徒はいないだろうということと、これ以上におあつらえ向きな場所は無いと
思ったからだった―まで連れて行くと、戸を閉めるなり泉は、某先輩を彷彿とさせる表情で
「久しいな兵太夫。息災にしていたか?」
と笑いかけ、続けて
「まさか、本当に忍術学園の教師として舞い戻ったとは驚きだ。もしも、万一息子の担任と
なることがあれば、家庭訪問などで顔を合わせることとなるのか。おもしろい。まぁ、違っても
一度くらいは顔を出せ。かつての後輩と呑むのもおもしろそうだ」
明らかに父が乗り移ったかのような口調と表情で、ここまで言うと
「との、父上からの言付けです」
で締めた。

「…この僕の度肝を抜くなんて、見事だね。流石先輩のご子息」
兵太夫は、半ば本気で感心していた。何しろここ数年は、彼に対して強気な態度を取る者は
昔馴染みの面々しかおらず、後輩を含む教え子達はみんな自分を見るだけでビビるので、
若干退屈にすら思っていたのだった。

「どうも。やはり、父上に似ていると言われるのが、一番誇らしいですね」
そういって自然に笑った顔には、年相応の可愛げが見て取れた。ということは、彼の父も
かつては同じ様な可愛げがあった。ということなのだろうか? そんな疑問は口には出さず、
兵太夫は世間話のような調子で、もう一つの疑問をぶつけてみた。

「それにしても、立花先輩にこんな大きなお子さんがいらっしゃるとはね。…卒業後直ぐに、
親の決めた相手を娶った。とか、そういう類?」
「いえ。父上に妻が居たことは、一度もありません」
いつだったかきいた話に拠れば、実家は武家の筈なので、可能性としてはあり得るかと思った
のだが、泉は少々妙な答えを返してきた。

「なら、君のお母上は?」
「身分違いで、僕を産んで直ぐに亡くなった。と、周りには説明していますが、実際はどうも
違うらしく、『解る年になったら教えてやる』としか…」
いくら訊いてもそれ以上は口を割らなかったというべきか、そこまでは教えてくれたというべきか。
その判断は泉には付かないのだという。


まだまだ青く、詰めは甘いが父親に生き写しの泉が入学し、笹山先生と結託することで、
周辺生徒の被害は更に拡大するのですが、それはまたの機会に。
そして、彼は己の母を知ると共に、父の意外な姿も知ることになるのです



このドSペアの最大のターゲットが、3年後に入学します。 誰だかは、言うまでも無い感じ? 多分奴は最弱。年下のお嬢たちにも敵わないかも。 …眠いんだな自分。文が何かおかしい。てことで、その内どこか直すかもです。 2008.7.12