「今、お前らんとこに教育実習生来てんだって?」 閑散とした図書室で、痛んだ本の修復をしていた委員長が、棚に本を戻していた当番の 1年生に声を掛けたのは、単に作業に飽きてきていて退屈だったからに他ならない。 しかし彼は、この直後に自分が選んだ話題を大いに後悔することになった。 何故なら… 「はい。ここの卒業生で、一旦は就職したんだけど、やっぱり 昔からの夢だった教師を目指すことにした。っておっしゃってました」 「ふぅん。何て名前?」 本を抱えたまま、少し手を止め向き直って答えた1年生に対し、委員長は自分から 話しかけたというのに、作業の手を止めることなく、顔も上げずに適当に相槌を打っていた。 次の答えが返ってくる直前までは。 「笹山先生です」 「下の名前、もしかして”兵太夫”?」 のほほんとした口調で告げられた名に、図書委員長だけでなく、図書室内にいた数人が 反応を示した。…主に、「強ばる」とか「引きつる」とか「空気が凍る」路線に。 「そうですよ。あ、そうか。先輩達の先輩だから、顔見知りなんですね」 「緊急連絡! 今のが聞こえた6年! 全員に伝えろ!!」 笑顔で納得している1年生とは対照的に、血の気の引ききった顔をした委員長が 立ち上がり叫ぶように指示をだすと、すぐさま彼の同期に当たる生徒だけでなく、何故か そのすぐ下や更その下の生徒も数人動いたように見えた。 「どうしたんですか先輩? 駄目ですよぉ。図書室で大きな声出しちゃ」 豹変した委員長に、1年生が困惑することしか出来ないでいると、 「そうだよ。その子の言う通り。…そんな大原則も忘れたの?」 入り口の方から、第三者の声がした。 「さ、笹山先輩!?」 委員長がそちらに目を向けると、いつから居たのか、入り口脇にもたれかかる様に 兵太夫が立っていた。 「違うだろ? 笹山”先生”」 「は、はい! すみません!!」 蛇ににらまれた蛙状態の委員長に、当番の1年生と周囲の下級生達はポカンとしていたが、 艶然と微笑みながら訂正する兵太夫の恐ろしさは、まだ知られていなかったので無理もない。 「…笹山先生って何者?」 「ん〜と、あの伝説の”は組”の罠姫様。”図書の女王様”とも言うけど」 ポツリと呟いた1年生に、いつの間にか現れ明確な答えを与えたのは、実は奥で返却作業を していた2年の図書委員だった。 「あれ? 庄二郎図書なんだ」 委員長他の反応を楽しんでいたらしい兵太夫が、その2年生に気付き声を掛けた時、 驚いたのは当の2年生以外の、その場にいた全生徒達だった。 「はい。1年の時は学級委員長をしていたんですが、先輩方にことごとく気まずそうな 態度をとられてしまいまして」 「ああ。そっくりだもんね。色々と」 「黒木先輩、笹山先生と知り合いなんですか?」 ”色々と”に含みを持たせた兵太夫に気付かない1年生は、無邪気に庄二郎に訊ねた。 「うちの頭脳の弟」 「! 言われてみれば瓜二つなのに、何で気付かなかった俺ー!」 顔も名前も性格も、怖ろしく兄・庄左ヱ門に似ているというのに、気付かない方がおかしい。 とは、言ってはいけない。やりたい放題の先輩と、一応大人しくしている後輩とでは、 かなり印象が違うのだから。 「図書室では静かに。でないと、また実験台にするよ?」 「そ、それだけはご勘弁を…」 年々腕を上げたからくりコンビは、「自室以外は競合地域にしか仕掛けない」と 誓約させられた分、三治郎は絡操錠やら入れ子方面。兵太夫は手持ちの隠し武器方向に 特化していき、ある意味危険性はあがった上に、実験台にされるのが特定の生徒に 限られるようになった。そのため、冗談でも「実験台」という言葉は、直属の後輩達に とってはこの上ないおどしの効果を発揮する。 「なら、静かに。後輩に示しがつかないだろう? 委員長」 こうして、また一部生徒にとって、戦々恐々の学園生活が始まるのです。
この1年生、妙に肝が据わっているのか、かなりの天然ちゃんなのか。 そして委員長は小物っぽいな (名前付けてみました→ 一年ちゃん:一富士丸 ヘタレ委員長:弥栄俊頼) ※読みは「にのまえ ふじまる」と「いやさか としより」 他のオリキャラ生徒のついでに付けました うちの兵様は4年以降図書委員。作法はきり丸。どっちにしても女王様の恐怖政治 2人とも委員長じゃなかったけど。(作法委員長の伝七を入れて3大女王様ですが) 罠姫様・阿修羅の君(三面六臂の働きとか怒ると怖いとか戦とか符号多いから)が影の異名。 伝七も何か欲しいけど浮かばないので、何かいいのございましたら是非 ついでに庄二郎ちゃんは、9歳下の2年生。目標はお兄ちゃんあと、余談なんですが 制服の色は1年のみ水色に井桁(#○)で、2年以降は5年間同じ色。を推奨していいですか? つまりは、”学年カラー”が「何年生は何色」ではなく、「どこの代はどの色」ってことで 1年当時の6年生と同じ色になるローテーションでぐるぐると。 なので、現1年(乱太郎達)と彼らが6年当時の1年(この話の6年生)とついでに現6年は 「深緑の代」。その1つ下は「紺の代」。以下「紫の代」「萌黄の代」「青の代」という風に って、この説明でわかります? 毎年制服変わってたら不経済だと思うので…
2008.7.8 2008.7.12 ちょっぴり修正