11年前。留三郎は従弟からの手紙を開いた途端、
頭が痛くなり、軽い目眩すら覚えた。
まともだったのは封筒の表書きだけで、
まず冒頭からして「愛しの留へ♥」で、内容は要約すると
”親父が世話になってる組の、跡目争いが酷いことになってるんで、
末の坊(ボン)預かってくんね? 実権握ってる婆ちゃんには、留が
どんだけ頼れる奴か、俺がよーく説明しといたから”
といった感じになる。
ツッコミ所は山のようにあるが、差出人に電話を掛けての第一声は
「”愛しの”とかつけんなこのド阿呆ーー!」
だった。
「どういうことだ。詳しく説明しろ。何で”俺”が風魔組の
息子を預からなきゃならないんだ」
畳み掛けるように問い詰めると
「だって、俺が知ってる中で一番頼れんの留だし」
だの
「どうせ、伯父さんに頼んでも世話すんのは留だべ?」
などと返ってきた。そして挙句の果てには、
「実は、もう切符とってあって、明日俺が連れてくことになってんだわ」
ときた。
「ふざけんな。毎度毎度お前は、相手の都合を確認せずに物事を決めやがって。
俺はお前と違って、まだ学生なんだ。そんな、子守をしている暇なんかない。
…というか、その息子ってのはいくつだ。訊いて無かったよな」
思うところあって一浪して大学に入った留三郎は、この当時4年になる直前だった。
「この春から中学生。がっこの手続きなんかは、婆ちゃんが済まして
くれてっから大丈夫。それになぁ、喜三太はちぃとばかし変わったとこは
あっけど、良い子だからそんなに手はかかんねぇ筈だ」
従弟の言い分が信用できたためしはほとんどないが、確かに中学生なら
身の回りのことは自分で出来るだけ楽か。と、友人(の所の居候)が世話している
幼児を思い浮かべ考えたが、それでもやっぱり自分が預かる理由としては
納得できなかった。しかし
「…そこまで手回しが済んでんなら、引き受けるしかない。ってことか」
「そういうこったな。んじゃ頼むわ」
結局、いつだってこの強引な従弟に押し切られる形になるのだと、
留三郎は諦めて電話を切り、手紙を持って親に説明をしに向かった。
以降、居候山村喜三太は、未だに食満家の世話になっているのです。
すいません。悪ノリしました。
連絡手段が若干レトロなのは、11年前だとまだそんなに携帯が普及してないので、
二人とも持ってなさそうなイメージがするからです。
錫高野一家は、食満一家を尊敬通り越して崇拝してます。
因みに、留父が彫り師で与父はテキヤ。母同士が一卵性の双児です。
「お姉ちゃんの子が”留めの三郎”なら、あたしの子は”余りの四郎”でいいや」
的に名付けようとしたのを、必死で止めて字だけ変えさせた。とかそんな関係。
物心付く前から「義兄さんは神」「お姉ちゃんは最高」「留は賢い」等々
毎日のように吹き込まれて育った与四郎さん(笑)
単に、几帳面な食満家と大雑把な錫高野家の性質の違いだけなんですけどね。実際は
あ、あともう一つだけ。喜三太は風魔組の三男坊で、何故かリリー婆ちゃんの
お気に入りなんで跡目争いに巻き込まれちゃった感じです。
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