滝夜叉丸は、一応母の育ちがかなり良いだけあって、
礼儀作法はキチンとしつけられて育ったし、
元から器用な部類に入る。
そして小平太他の七松組の人間は、ほとんどが
地元育ちであり、「町」から車で30分ほどで海まで
行ける事もあるため、魚を食べる機会は多く、また巧い。
その所為で、滝夜叉丸は失念していたのだ。
ろくなしつけも受けていなそうな、3歳児に「自分で箸を
使って魚をほぐせ」というのは、ほぼムリに等しいということを。

握り箸で、ボロボロになった魚を前に四苦八苦している四郎兵衛を
見て、ようやくそのことに気付くと、まだ手を付けていなかった
自分の魚を小平太に渡し、四郎兵衛の魚を取り上げた。
「若。これをしろにほぐしてやって下さい。こっちは私が食べますから。
それと、今後はしばらく魚の日は先にほぐしてやってもらえますか?」
「うん。わかった」

「しろは、まずお箸の持ち方の練習。出来るようになったら、次に
若にお魚の食べ方を教えてもらおうな」
まだ親切に面倒を看られることに慣れていない四郎兵衛に、優しく
声をかける滝夜叉丸の様は、「どうみても母ちゃん」と、その場に居た
ほとんどの者が思ったが、それを口に出した馬鹿はいなかった。


突発的な思いつきのネタでございます。 何か「若が魚食べるのうまかったら楽しいかも」という考えがよぎって出来ました。 あと、「海が近くてその海の漁業関係者が兵庫水軍の皆様」という設定も出来たんで匂わせておこうかと 2008.6.20