元・辺境警備隊のちサノメの皇子の警備隊は、「沢」一族ということにして、
お嫁さんを見つけたら「実家」から独立すれば良い。と決まった次に、誰とも
無しに言い出したのは、
「子供出来たら、名前は宮につけてもらおうな」
だった。それに対し、数人からは異論の声も上がったが、

「えー。自分達の子なんだから、自分達で名前つけたくね?」
「それは確かにあるけど、音だけ考えて字は決めてもらうとか、使って欲しい
 1字を選ぶとか、イメージ伝えてつけてもらうとか、そういうの宮得意だから、
 良いの考えてくれそうだろ」

俺達や、蛇紋達みたいにさ。との補足に、かつて果ての地に飛ばされた際に名前を変えて
もらった時のことを思い出し、結局全員が宮に名付け親になってもらうことにした。
その宣言を受けた時。
「てことは、時期はバラけるだろうが、20何人分の名前を考えなきゃなんねぇのかよ」
と宮は面倒くさそうに答えたが、

「……これを口実に、また本増えるんだろうな」
「こないだ、羅貫達の所で『こっちは変わった名前多くて面白ぇな』とか言ってたから、
 あっちの名付け本とかも手に入れそうだよな」

という、年長組の読みが大正解だった。しかし、結果的に「何か華やかなやつ」だの
「いっそ一文字で」だの「花の名前とか可愛くない?」だのという漠然とした指定も
多かったため、それらの資料が大活躍したとかしないとか。



閧志や灯二から、これからは「沢」一族を名乗ることにしたのだと聞いた三重は、 あることに気が付いた。 「そうしたら、私、20人も兄さまが増えるんですね」 そう言って嬉しそうに手を叩く三重に、成重は 「確かにみなさん、三重よりは年上ですしね」 と思ったが、 「兄貴の嫁さんは義姉さんになるから、増えんのは弟だろ。だから、兄貴は主匪だけだな(笑)」 と茶々を入れたのは宮だった。 「えー。俺は閧志が兄貴は良いけど、さえは妹のが良いな」 「確かにさえは、『妹』って感じだよな」 宮の発言を受けての灯二の呟きに、主匪が無駄に凹んでいたことには、灯二本人と 三重を除くほぼ全員が気付いていたが、 「てかさ、宮と閧志はどっちが上なんだろ」 「そうだなぁ。主匪、閧志、宮の順で、その下は伍葉で敦仁、かな」 「あー、そんな感じ。その下は、とりあえず史塋が一番上っぽいよな」 「倡嗣と西南なら、倡嗣が上か?」 羅貫達の世界では、一応全員「親戚」というざっくりとした紹介をされているため、その場に 居ない誰かの話題が出た時は、便宜上「兄」や「弟」との表現を使うこともあるが、同い年の 連中の順番とかあんまり考えたこと無かったよな。と、話題を発展させていった。 その結果。年齢→飛ばされた時期→立場や性格を基準にざっくりとした順番が決まり、 「さえはみんなの妹!」 ということになったが、途中で 「俺、前にいっぺん、羅貫の友達と話してる時に、宮のこと『姉』って言いかけた」 「あ、俺はそれ、史塋の話ん時に言いかけた」 「そういや、深鳴と一緒にお使い行ったら、『妹さん?』て訊かれたことあるな」 という余談が混じった所為か、宮や史塋、左頼、藤麻、深鳴辺りは姉や妹でも良くね? といった感じの話を─もちろん本人達には内緒で─後日密かにしていたことが、虹経由で バレ、こっぴどく怒られるかと思いきや、宮や史塋は「まぁ別に好きにしたらいいだろ」と 平然としていた。 「……柄光達辺りまでは、『母ちゃんとか姉ちゃんてこんな感じなのかな』とか、散々言われたもんな」 「最初にその手のこと言い出したのはお前らだけど、悪気のねぇガキは叱れねぇからな」
【クロちゃんは、若くて綺麗な男の子が好きなのね】 【はなさんやみつさんは、おじ様が好きなんですよねー】 【前は若い子の方が見ていて楽しかったけれど、最近はそうね】 【ゆりのお気に入りの如鷹も悪くないけど、やっぱり我刀様だわ】 【あら。わたしもおじ様達は良いと思うわよ。それに、お父様を見ていると、如鷹も  将来良い感じになると思うのよね】 【先物買いってやつね。確かにそれはアリだわ】 【じゃあ、警備隊の子達だったら、誰が素敵なおじ様になりそうですか?】 【そうねぇ。わたしだったら──】