「子供が生まれたら、名前は宮に付けてもらおうな」
の第一号は、実は結婚は様子見中に先を越された閧志と三重の子で、閧志は
「宮のセンスは信用しているし、三重の好きなようにすれば良い」
と特に要望は出さなかったが、その分三重が
「えっと、男の子だったら、閧志さんの字が入ってるのも良いですよね。あと、兄さまの『成』の字も
捨てがたいです。ああ、でも、お花の字も良いですし……」
等々、アレコレ悩んだ結果。
「字は違っても構いませんから、『ゆき』の付く名前が良いです。それから、出来れば数字っぽい音の
名前にしていただけますか?」
三重の出したその要望に、最も驚いたのは自分の名から取って欲しいと言われた重雪だったが、その点に
関しては、兄の成重を始めとする皆に「良いと思う」と言われた。しかし、もう1点の要望に関しては、
頼まれた宮を含む元数字の子全員―閧志を除く―から「本当に良いのか!?」と詰め寄られた。けれど、
「私も閧志さんも、沢の皆さんも元は数字の子ですし、『数字の子』という考えを無くすには、数字が
入っている、もしくは数字っぽい名前が悪いものだという考え方も無くすべきだって思うんです」
「……と、三重が言うのに、俺も賛成なんだが、どうだろう」
にこりと微笑みながらハッキリと言い切った三重と、それを後押しする閧志に、
「確かに、こっちでは数字が入っていても全然関係ないし……」
との羅貫の一言もあり、要望通りの名前を考えることとなった宮が、しばらく辞書や羅貫に図書館で
借りて来てもらった名付け辞典と首っ引きになりながら付けた名前は、
「折角なんで、『花の字』って言ってたのも入れて、まんま『雪』の字を使うのは、重雪様も成重さんも
微妙っぽかったし、なるべく良い意味の字にしてやりたかったからな」
ということで、「芙倖」と書いて「ふゆき」だった。
ちなみに、その名を付けられた第一子は女の子だった為、「やっぱり重華は女が生まれる家系なのか……」と、
皆―口には出さずに―思ったが、3年後に生まれた第二子は男児で、その子は
「芙倖と似た感じで、やっぱり数字っぽい名前」
との指定で「斎槻(いつき)」と付けられた。
閧志が姑2人の様子見中に、さらりと先に一番乗りで結婚をしたのは敦仁だったが、子供が出来たのは
閧志に続いて結婚した倡嗣や西南の方が先で、閧志の所の芙倖と同じ年に生まれた子供達の名前は、
「方角が入ってるのが良いかな」(西南)
「何かこう、華やかな感じで、いっそ3文字でも」(倡嗣)
との要望に沿っていくつか挙げた中から、それぞれ「東馬(とうま)」と「美登里(みどり)」が選ばれた。
その3人の翌年に敦仁の所に生まれた息子は、
「植物の名前で、俺の名前とちょっと似た感じとか」
との希望で「梓早(あずさ)」になったが、この先も同じような希望は多く、
「俺と同じ字を使ってればどんなのでも」
「娘だったら、花の名前とか可愛くない?」
などという、ほぼ丸投げに近い依頼も割とあった。
その度に、
「お前な、自分の子なんだから、もうちょっと自分らで考えてやれよ」
「えー。だって宮のこと信用してるし、宮の方が色々知ってるから、良い名前考えられそうじゃん。
それに、候補の中から選ぶのは俺らだし」
といった感じのやり取りの後、結局宮が折れて数パターンの名前を考え、時には第二子以降に同じ
候補の中から最終的に迷った名前が付けられることもあった一方で、
「やっぱり、可愛いし読みやすいからひらがなで、俺と似た感じのが良いな」(みつば) → 「わかな」
「『塋』と似た字で、もっと良い意味の字って何がある?」(史塋) → 「螢留(ほたる)」と「榮衛(さかえ)」(双児)
「太陽とか時間とか絡みだと、俺の子っぽい気がする」(夕吾) → 「旭(あさひ)」
「夕吾の子と秋市の子が偶然だけどしりとりになってるから、うちの子も」(深鳴) → 「來音(くおん)」
のような、明確な希望があったり、自分の名前と関連のある1字を使って欲しい。という希望もあった。
(ちなみに、旭と來音の間に生まれた秋市の子はの名前は「雛菊」)
尚、ほぼ全員が元の一族に繋がりそうな―音の被っている―名前を避けた為、親と子の名前がかけ離れていたり、
参考として多用したのが羅貫の世界の名付け辞典だったことにより、周囲の子供達と若干違った雰囲気の名前を
付けられた子も多かったが、「新しい世界を切り開いていく子達だし」と、あえて挙げられた候補の中から
そういった名前を選んだ節も無くはないという。
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