アノ、一癖も二癖も三癖も四癖も五癖も、とにかく癖のありすぎるは組の面々を11人全員揃って卒業させた
実績から、それ以降も土井半助が受け持たされる生徒は、個性的で実力が未知数な者ばかりだった。
その為、30歳でようやく嫁を娶り、2年後に息子晴丸が、その更に2年後には娘ぎんが生まれたにも関わらず、
「子供達に顔を忘れられないように、次の休みこそ帰らせて下さい!」
と懇願しても、中々休みの取れない日々を送っていた。
それでも、元々例によって例の如く巻き込まれた事件で知り合ったことや、在校生も卒業生もその他
関係者も―半助本人の在宅不在問わず―しょっちゅう訪れる為、妻の苑はその辺りを良く解っており、
家も学園からそう遠くないこともあり、時々着替え他を持って子供達を連れて学園に顔を出しに来て
くれていたので、どうにか父親として認識してもらえたまま子供達は育った。
そして、10歳になった晴丸は忍術学園にした訳だが、入学したての頃から教科実技共に成績が良く、教職員の
覚えも目出度かった為、
「いいよなぁ、親が先生だと」
的な嫌味は、同期にも先輩にも散々言われている。……が、
「晴の場合、土井先生じゃなくてさ」
「ほっとんど僕らだよねぇ。知識も実践も」
「……鶏介、笹山先生」
上記の通り滅多に帰って来ない父半助の代わりに、晴丸に幼い頃から様々―一部余計なことも含まれる―を
半ば面白がって教えたのは、かつてのは組連中と様々な経緯で付き合いのある卒業生達だった。
「教科は僕が授業の練習台にしたし、馬術は団蔵、鉄砲は虎若、剣術は金吾仕込みで、薬学は乱太郎と
いささん、変装は庄ちゃんで、後は大体きり丸?」
「文次さんや留さんとか、伝蔵じいちゃ……じゃなくて山田先生。も、訊けば結構教えてくれましたね。
あと、庄二郎兄ちゃんやブン兄の練習のついでとか」
卒業後半助の養子になったきり丸と、教科担当として学園に出戻って来た兵太夫。家が近い黒木兄弟。
きり丸の姉代わりないさ―こと、元善法寺伊作―とその夫潮江文次郎と子供達。潮江家を通じて知り
合った食満家の人間などが、晴丸達と特に付き合いが深く、実技担当の山田伝蔵夫妻も実の息子利吉の
子の顔を見るのは半分諦めている分、晴丸達を孫のように扱ってくれているという。
「あ! そういえばさ、こないだ団蔵から聞いたんだけど、ぎんちゃんお嫁に行くならきり丸以上が
良いとか言ったんだって?」
「何それ。すっごい高い条件だな」
家業の馬借を継いだ加藤団蔵の所には、晴丸より5つ下と6つ下の年子の息子達が居り、下の進午の初恋
相手はぎんだったようだが、そのことに気付いた団蔵が「うちの息子の嫁に下さいよ」などという冗談を
言う前に、知人の娘が嫁いだ話のついでに「ぎんならどんな人が良い?」と訊かれた当のぎんが
「えっと、兄ちゃんより強くて格好良い人」
「晴丸より上かぁ……」
「ううん。きり丸兄ちゃんより」
と無邪気ながら本音で答え、そこで「あ、無理だわ」と完全に望みは潰えたのだという。
尚、卒業後のきり丸は、彼らが1年生当時の山田利吉並かそれ以上に出来るイケメンだと思っていただきたい。
「まぁ、きり丸兄ちゃん以上っていうのは高望みにしても、並の奴じゃぎん本人にすら敵わないでしょう
けどね。……アイツ、乱定剣と毒草の見分けは僕より上で、矢羽音も使えて唇読めますから」
「え。矢羽音と読唇術は安寿の為で、乱定剣も何となく解るけど、毒草の見分けも?」
「あー、いささん仕込みか。あの人、毒草や毒キノコも、笑ってひとまず齧らせて、『舌がピリッとした
でしょう? つまりそれには毒があるからね』とか、『苦いでしょ。でも、薬効はすごいんだよ』とか
平気で言うもんなぁ」
「そうそう。きり丸兄ちゃんは『食べる・食べられない・高価く売れる』、いささんは毒の有無で教えて
くれたから、役に立つといえば立つんだけどねぇ」
きり丸の拾い子で、晴丸達にとってもう一人の姉代わりの安寿は、喉に傷があって声が出ないが、その分
矢羽音が使え、唇の読める相手には口の形だけだがそのまましゃべるので、慣れていても不思議はなく、
乱定剣=有り合わせの物を投げるのに長けているのも、チョーク投げの名人を父に持っているので、納得
出来なくもなく、更にしょっちゅう遊びに行ったり預けられている潮江家の母娘+弟子の猪名寺乱太郎が
薬師兼医師なので、そちら方面も得手としている。と聞いて、兵太夫は何となく納得した。
「ところでさ、鶏介も先輩のご子息でお父上のご友人と交流ある割に、教科は成績イマイチだよね。何で?」
「何でって、うちの父ちゃんが規格外で論外なのは知ってますよね? で、他の父ちゃんと友達のおじちゃん
達も、現役時代の成績はともかく、教えるのには向いてないんですよ。あと、ウチ他の人達んちから遠くて
山の中だし」
急に水を向けられて嫌な顔をした七松鶏介は、七松小平太の次男だが父とはあまり似ていない常識人の
苦労症だが、父譲りの桁違いの体力と脚力以外は、あまり成績はよろしく無かったりする。
「……うん。今、立花先輩に質問したら『何故解らんのかが解らん』って返って来たの思い出した。確かに、
教えるのには向いてないね、アノ人達」
鶏介の父の友人達の内、中在家長次と食満留三郎辺りは根気強く丁寧に教えてくれそうだが、2人共基本的に
忙しく、また鶏介本人が言った通り、七松家は「山田家よりはちょっとマシ」といった辺りにあると思って
おけば正しかったりするので、教えてもらえる機会は少なくて当然だったりする。
その他、晴丸が妙に長けていたり動じないのは、くのいち達を初めとする女性の扱いと強面や変わった人相
風体に関してで、曰く
「母ちゃんの顔半分火傷で覆われてて、赤ん坊の頃から笹山先生達の変な仮面やら庄左さんの変装やら
文次さんの顔見慣れてたら、大体の顔や変装には動じなくなりますし、母ちゃんにぎんに安寿姉に
いささんに織姉にお香さんに梓・棗・茜に、ついでに雪女先輩と接してりゃ、扱いも解りますって」
とのことらしい。ちなみに、香と梓・棗・茜は留三郎の妻子で全員割と気が強めのしっかり者。雪女は
斉藤タカ丸の娘なくのいち教室の生徒で、性格は父親そっくりである。
「つまり、周囲の環境に恵まれてるのは確かだけど、それはそれで気苦労や努力も多い。ってことだよねぇ」
「そうですね。あとはまぁ、僕の出来が良いと、父ちゃん的にも鼻が高いし、喜んでもらえるかな。って」
そう言って、照れ臭そうに笑った晴丸に、兵太夫は
(あー、こういうの聞くと、「子供って良いかもなぁ」とか思うけど、僕に家庭人が務まるわけ無いし、
こんな良い子なのは、土井先生の所の子だからだろうなぁ)
などと、思ったとか思わなかったとか。
3周年9個目
「土井家の子供二人が好きなので彼ら中心の話が読んでみたいです。
子供世代の人間関係が伺える話だと嬉しいです。」
とのリクエストに大いにはしゃいだものの、晴・鶏・兵以外は本人が登場してなくてスミマセン。
多分晴と鶏が3〜4年生頃の話だと思います
2011.7.17
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