忍術学園の卒業生は、極一部の家業を継ぐ者以外は、本人に余程明確な意思なり目的があって別の道を選ばぬ
	限り―城仕えか無所属かの差はあれど―、皆忍びとなる。何故ならば忍びの適性を持たぬ者は、卒業はおろか
	進級すら適わず学園を去るからである。故に卒業の決まった生徒は引く手数多で、城仕えならばある程度の
	厚遇が約束され、無所属であっても、大抵は初めからある程度の依頼が伝手で回ってくる。	
	そして城仕えとなる者は、己の地元に戻る者と、学園に募集が来ていた中から選ぶ者が過半数を占めるが、中には
	実習などで関わった城の者に気に入られ直々に誘われる者も、逆に自ら志願する者も居る。

	そんな中、6年ろ組の担任である斜堂影麿及び日向墨男を筆頭とした教師陣は、とある1人の生徒の進路希望書を
	前に、頭を抱えていた。その生徒の名は「鶴町伏木蔵」。そして彼の書いた希望進路先は、「タソガレドキ城」と
	なっていたのだ。


							×××


	基本的に忍術学園は、生徒の進路に関して干渉はしない。けれどもそれは、あくまでもその就職先が忍術学園と
	無関係ないしは友好的な関係にあるからであって、敵対する城の場合は、情報漏洩の恐れも踏まえて、そのまま
	許可する訳にはいかない。とはいえ、今まで―その後転職した者は居なくもないが―こんなにも堂々と敵対する
	城への就職を希望した者は居ないため、対応に頭を悩ませることになった訳である。しかし、1年の頃から何を
	考えているのか解らず、変な感じに肝の据わっていた伏木蔵が、とある縁で知り合った組頭の雑渡昆奈門を筆頭
	にしたタソガレドキ忍者に、懐いていたし可愛がられていたのは事実なので、ある意味予想の範疇と言えなくも
	無いのが、また悩みどころだった。しかもタソガレドキの場合、忍者隊の面々は雑渡の私情絡みで無駄に友好的に
	見えなくもないが、城主及び国的には、忍術学園と手を組む気は無く、相変わらず悪名高いのだから厄介なのだ。


	という訳で、延々職員会議で検討した結果。伏木蔵には別の城を選ぶように指導することとなったが、

	「何でダメなんですか。雑渡さん達は、僕らが卒業しても忍術学園には手を出さないって、約束してくれてますよ」
	「……忍者の約束が信用できないものであることは、良く知っているでしょう?」
	「でも、だったら逆に、僕が入ることでちょっとは止められるかもしれないし」
	「たかが一新人に、そんな力はありません!」

	珍しく声を荒げそうになっている斜堂の様子など、どこ吹く風で伏木蔵は

	「組頭や小頭のお気に入りで、上手いこと入隊出来たら、組頭のお小姓にしてもらえることになってるんですー」

	と、斜堂を更に激昂させかねないことを口にした。

	「伏木蔵! その意味を解って言っているんですか!?」
	「解ってますよ。けど、雑渡さんは多分そういう意味では、僕に手を出しませんよ。『何か後が怖そうだしね』
	 って言ってましたし」

	ニヤリと笑って返された所で、斜堂はコレ以上の説得は無理なのだろうと悟ったが、一応組や委員会の友人達にも
	説得を頼みこんではみた。けれどやはり何の効果も無く、伏木蔵は晴れてタソガレドキ城への就職が決まった。

	それに対し
	「何で止めなかったんですか!」
	と猛抗議をしに来たタソガレドキ忍者が、たった1人だけ居たとか居ないとか……

	


前々から決めてあったんですが、47巻で「私の方向性は間違って無かったな」と確信したので書いてみました。 抗議に来たのは、可哀想な後の上司くんです(笑) 2010.5.7 犬蓼の花言葉:あなたの為に役立ちたい