七松組の四郎兵衛くんは、歴とした七松組の子ですが、思惑やら大人の事情やら色々とあって、
拾われて14年経ち高校2年生になった現在も、未だに「時友」姓を名乗っています。
拾われたばかりの頃に通っていた保育所は、一般家庭の子も商店街の子も社長の子まで色んな子がいて、
日向園長はどんな子相手でも分け隔てなく優しい人でしたし、他の園児も各自の家のことなどよく解って
いないからか、みんな仲良くしてくれていました。その中でも特に可愛がってくれたり仲良しだったのは、
庄二郎くんやカメ子ちゃんなどでしたが、庄二郎くんとは小学校の学区が違いましたし、カメ子ちゃんは
女の子な上に小学校から私立で、しかも庄二郎くんもカメ子ちゃんも年が違い、他に仲が良かった子達も
ほとんどが女の子だったので、小学校に挙がって改めて男の子の友達を作ろうとしました。
しかし、世間知らず過ぎて逆に何でもアリの担任の突庵先生や、保育所からの付き合いの子達以外の親は、
「詳しくは知らないけれどヤクザの子だから何かあったらいけない」と、子供達にあまり四郎兵衛と仲良く
しないか、気を使うように言い聞かせた為、友達は居なくもないし、いじめられてもいないけれど、どこか
一歩引いた扱いでそれは中学に上がっても―天下無敵で滝夜叉丸の友人な担任の北石先生以外は―ほぼ同じ
でした。それでも、高校生にもなると親の干渉は殆どなくなりますし、余所の町の出身で七松組のことを
知らないとか、地元民だけど学区が違うので「七松組の拾いっ子」の噂は知っていても、それが四郎兵衛の
ことだと知らずに、他の友達と同じように接してくれるクラスメイトなども出来ました。
そんなある日。雑談の最中に、友達の一人が
「時友んちの姉ちゃんて美人だよな」
などと言い出した。
「お姉ちゃん? 滝さんのことだったら、お姉さんでも義理のお母さんとかでもなくて、家政夫さんだよ」
「でも、入学式とか保護者会に来てただろ?」
「えっと、住み込みで、僕を育ててくれた人ではあるから……」
「マジかよ。いいなー、あんな美人さんと一緒に暮らしてるとか」
滝夜叉丸との関係については、昔からよく勘違いされていた為、四郎兵衛は説明に慣れていましたが、もう
一つ、滝夜叉丸の性別についても、慣れきっていて逆に補足を忘れました。
「結構厳しくて、時々怖いけどね」
羨ましそうな友達に、四郎兵衛がそんな風に苦笑していると、別の友達が
「今日、お前んち遊びに行っても良いか?」
と訊いてきました。小中学校では素姓が知れていた為、そんなことを言われたのは初めてで、とても
嬉しかったのと、小平太にも、小平太の甥の八左ヱ門にも、小学生の頃から七松組に入り浸っていた
金吾にも、未だに付き合いのある一般人の友達が居るので、
「バレても大丈夫かな」
と考えた四郎兵衛が、一応滝夜叉丸にその旨を電話で伝えると、後ろで聞いていたらしき小平太が
代わりに、「いーよ。連れといで」と答えてくれました。
そんなこんなで、初めての友達を連れての帰宅の道中。四郎兵衛は「自分は今の家の居候みたいなものだ」
とか、「家族じゃないけど一緒に暮らしている人はいっぱい居る」などの話をしたり、商店街で顔馴染みの
お店の人達に声を掛けられ、滝夜叉丸への伝言やら届け物を頼まれたりしたので、友人達は四郎兵衛の家は
寮か、何かの店や会社をやっているのだと勝手に解釈したようでしたが、商店街を抜け家に近づくにつれて、
数人が怪訝そうな顔をし始めました。
「なぁ時友、この辺って、確か七松組の近所じゃなかったか?」
「いや、でも、普通の家もあるっぽいし……」
そんなことを言い出したのは、駅向こうに住んでいる友達でした。それに対して四郎兵衛は、着いてから
説明した方が早いと思い、ひとまず「うん。まぁ」などと言葉を濁しておきました。
「えっと、一応、ここが僕のウチ。僕はお世話になっているだけの、ただの居候だけど」
敷地が見えた辺りで四郎兵衛がそう言うと、地元民の友達がハッと気づき
「……まさか時友、お前『七松組の拾いっ子』?」
と訊いてきました。
「うん」
「何それ、どういうことだ?」
やっぱり引かれたかぁ。などと思いながら四郎兵衛が答えると、余所から通っている友達が首を傾げました。
「ここ、この町仕切ってるヤクザの屋敷。で、ここの組の跡取りの養子か何かが、うちのガッコに通ってる
って噂があったんだ」
簡潔にそう説明したのは、地元民な友達の一人でした。
「てことは、時友ヤクザの跡取り!?」
「違う…筈だよ。偶然若に拾われて、ここに置いてもらってるだけ」
だから家庭事情以外は一般人だと、四郎兵衛は昔から主張していますが、それが受け容れられたことは殆ど
ありません。しかし、警戒しながらも一応七松家にお邪魔して、営業スマイル的ににこやかな滝夜叉丸に、
お茶や手製のおやつを出され、小平太の豪快でまっすぐな表の面に触れ、それなりにマトモな金吾などと
話をした結果。
「うん。まぁ、『やくざだから』って身がまえんのは良くないな」
「時友は、時友だしな」
「やっぱ滝さんみたいな美人と暮らしてんのは、ちょっとうらやましい」
などの感想を得て、友達のままで居てくれて、その後も時々遊びに来たりもしてくれました。
……が、滝夜叉丸ファンな友達に
「滝さんは男の人だよ」
と教えるのは、未だに忘れたままだったりするようです。
久々の七松組話は、周囲の認識的なものにしてみました。
蛇足ですが庄二郎は、小学校は学区違いますけど中学は同じで2歳違いの筈なので、中学では交流があった可能性も……
2010.1.12
戻