何事か、とても真剣に考えている様子のレイに気づいたゼロは、どうかしたのかと声をかけた。
	すると、
	「ゼロは恋をしたことがあるか?」
	「は!?」
	予想の斜め上の質問に絶句するが、レイはさらにこうも尋ねた。
	「片想いは?
	 その人のことを考えるだけで胸が苦しいってどういうことなんだ?
	 なのに好きでい続けるのが幸せとは? だって苦しいのに幸せって、意味がわからない。
	 ゼロはわかるか?」
	「え、ちょ、ちょっと待てっ! レイ、お前どうした!?」
	まったくもって質問の意図が掴めないのでひとまずストップをかけて、話の状況を理解しようと頑張ってみる。
	「恋? 鯉じゃなくて? 片想い? 
	 あ、そうか、ユリアンにそういう話をされたんだな?」
	恋愛中の王女サマなら恋愛指南をレイに行いそうだ、と思ったのに否定された。
	じゃあアミアかベスかと尋ねても違うと言われて、ゼロはますますわけがわからなくなった。
	「一体誰に、んな事聞いたんだよ!」
	「ゾフィーのところに来る『ざっとこなもん』と『あまのじゃく』」
	それはつまり…。
	「あの、正体不明の神出鬼没の不審者で本当に人間か怪しい着物野郎と包帯男の二人の忍者のことか?」
	こっくり頷くレイ。
	今度あいつらには有無を言わさずアイスラッガー投げてやろうと決めて、あんな二人の言う事なんて話半分に
	しておけと言い聞かせた。
	「ろくでもないことしか言ってこねぇんだから鵜呑みにすんな」
	「『人生に大切なこと』といって恋の話をしたぞ? メビウスもエースもセブンも恋をしてるとも言っていた」
	父親の名前を出されてゼロが言葉に詰まった間に、なおも、
	「恋をして、誰かを愛するから強くなれるって言われた。
	 好きになって、愛する人と一緒にいたい、守りたいって思って、それで成長するって教えてもらった。
	 俺は今よりもっと強くなりたい。
	 もっと強くなって皆の役に立ちたい。セブンの力になりたい」
	あぁ。思ってることはわりとまともなのに、そこに『恋』なんてのが絡むからややこしくなってるのか。
	よりによって『あの二人』に恋について教えを受けたなんてマンやセブンが知ったら、レイの教育によくないと
	憤慨する、とゼロは思った。
	「別に恋なんてしねぇでも強くなれると思うけど」
	しかめっ面でそう言ってもそんなことはないと首をふる。
	精神年齢が幼いから刷り込み効果が大きいことは、あの二人も承知であるはずなのに面倒なことをしてくれた。
	質問されたゼロは恋について語ろうにも自身の経験がないから語れない、というよりあったとしても絶対語り
	たくない。
	なのでメビウスを捕まえて話に加わらせ、
	「鯉ですか?」
	「いや鯉じゃなくて恋」
	というお約束もしたところで本題に入ると、
	「うーん、あの二人の言ってることも、間違ってはないと思います。
	 一緒にいたいとか守りたいって気持ちは、好きな相手だからこそ生まれる感情ですよね。
	 僕も最初は片想いでしたけど、あきらめないで頑張って伝え続けたら、ちゃんとヒカリに気持ちが伝わりました。
	そしてヒカリも僕も、お互いのことをすごく好きだから強くなれたんだと思います」
	両思いのメビウスの言葉だから説得力はあるが、あの二人の口から聞かされたら信用できない。
	そして、理解が深まったのかしきりと頷いた後、レイは結論を出した。
	「俺はセブンのことが好きでセブンも俺のこと好きと言ってくれていた。
	 だからこれは恋なんだと思う」
	「なっ!?」
	「あと俺はゼロのことも好きだけど、ゼロは好きって言ってくれないからこれは片想い。
	 よし理解した。頑張る」
	「…………」
	もう、なんていうか…なんていうか説明するのはかなり無理だと思う。
	メビウスにいたっては、頑張ってね! と明るく声をかけてるのだから、ゼロの脱力っぷりがどれ程かはわかって
	もらえるだろう。
	兎にも角にも、次にゼロがとった行動は。
	あの二人の代わりだと、ゾフィーへアイスラッガーを渾身の力でぶつけに行ったという。




柳佳姉さんからもらった『とある可哀想な少年の話』の番外的なもの 外見は10代の、3歳児と中坊に変換して読めばよろしいかと