ある日帰宅すると、家の中が何となく酒臭かった。そして案の定、居間では父親とその友人とが酒宴を していた。 「平日の昼日中から、何酒盛りしてんだ、この妖怪共」 「あ。おかえりー、尊奈門。もうそんな時間?」 ああそうだよ。部活も委員会も無い日の学生の、一般的な下校時間なんだよ。にしても、今の言い種とこの 酒臭さからすると…… 「いつから、どんだけ呑んでんだアンタら。悪の組織の親玉はまだしも、一応今は現役教師だろうが親父! 学校はどうした学校は!」 「今日はうちの学校、創立記念日でお休みだよ、尊奈門」 だからって、真っ昼間から呑んでんなよクソ親父。ついでに、 「俺は、『そんなもん』なんて名前じゃない」 仮にも自分で付けた名前なんだから、たまにはちゃんと呼べよな。 「……。態度悪いなぁ、ミコちゃん。仮にもお父さんに向かって、その口の利き方はどうかと思うよぉ」 ああ、クソ。この呼ばれ方が嫌で、最近はそこに抵抗するの止めてんのを忘れてた。 「……。でしたら、以前のような口の利き方なら良いんですか、組頭?」 「えー。それはヤダ。って、いつも言ってるじゃんか」 「だったら、今まで通りで我慢しろ。俺だって、『尊奈門』て呼ぶなってしょっちゅう言ってるし、これでも アンタみたいなダメ親父に対しては、随分マシな態度なんだぞ」 俺が、『諸泉尊奈門』という名前でこの、かつて『雑渡昆奈門』と名乗っていたオッサンの部下だったのは、 昔の―いわゆる「前世」ってやつの時の―話で、今は一応実の息子なんだ。正直、前世の記憶を持って生まれ 変わって来たら、前世の知り合いの中で多分一番厄介だった元上司が父親で、しかも生まれ変わりではなく、 何故かあの時代から生きている本人だと気付いた時には、かなり本気で人生に絶望したんだからな。 しかも、俺のおぼろげな記憶に依れば、俺はかつてこのオッサンの盾になるか何かして死んだ筈なんだが、 聞けば 「その戦の時だったか、その次の戦だかで、私も一旦殺されたような気がするんだけど、何か気付いたら 生き返ってたんだか死んでなかったみたいで、それからはまだひとまず死んでないんだ」 とのことらしい。……ってことは、俺は犬死にだったってことにならないか? おまけに、500年近く生きてるらしいのに生活能力ないし、色々ロクでもないし、今の時代には「ストーカー 規制法」ってやつがあったり「青少年保護法」やら何やらで未成年に手を出すのは犯罪なのに、かつて執着 してた子の生まれ変わりが、今の教え子かつ女の子なのを見つけたらしくはしゃいでいるのも、心底ウザい。 実際問題として、父親が「女子中学生に手を出した淫行教師」とかいう事態になられても、かなり困るし。 ……とか、そういう諸々を踏まえると、軽く楯突くような態度取ってるだけで済んでるのは、ひとえに俺の 我慢と諦めの賜なんだ。
ぶっちゃけ、カノウと柳佳姉さんだけが楽しいネタ。 尊ちゃんの現世名は「尊(みこと)」くん。苗字は未定で、年は伊作の4歳上……かな。 飲み友達で、妖怪兼ストーカー仲間の人については、姉さんのサイトをご覧ください(笑)オマケ 「ふむ。この件に関しては、部下の方に一利あるな」 「……。アンタの部下だったことは一度もありませんし、今はもう、 このオッサンの部下でも無いんで、その呼び方は止めて下さい」 「そーだよ、アマノちゃん」 「……私も、今の名乗りはそれでは無いと、再三言っている筈だが?」 「別にいいでしょ? 高々数十年で変えてる名前を、 一々覚えておくのは面倒くさいもん」 「確かにそこは否定せんが、『ちゃん』付けも止めろと言っているよな」 「でも、『くん』も『さん』も呼び捨ても、何か似合わない気がするしぃ」 「そのような、顔と年に合わん言葉遣いもよさんか」 「アマノちゃんこそ、その古臭い口調直したら?」 「お前相手位だ。このような話し方になるのは」 「ふぅん」 ここまで行くと、ホントにもう私と姉さんと、 仲間内にしか解んないですよねぇ