休日の昼下がり。朝からバイトに行って帰って来たら、居間の方から話し声が聞こえた。
	またかよと思いつつ覗いてみると、流石にこないだ「真っ昼間から酒盛りするな」と言ったからか、酒では
	なく、コーヒーなどを飲みながらダベっているようだった。ただし、妖怪なことや実年齢差っ引いても30代
	半ば以上にしか見えないオッサン達が、明らかに甘そうな茶菓子―クッキーやらチョコレート―をつまみ
	ながら、恋バナに花を咲かせる女子高生か、噂話をしているOLのようなノリで話しているのは、キモいし
	ウザい。……しかも、何か1人多い。

	「ここんちのコーヒー美味しくない」
	だの
	「私は、ここにいても別に楽しくないんだけど」
	だのぼやいている、パッと見は精々20代後半〜30代で、インテリっぽいがヘタレ臭がするし、何かあらゆる
	意味で残りの2人と同類な気がするアレは、何者だ?



	とか思っていたら、悪の組織の親玉が、俺に気付いて
	「おお、帰っていたのか部下。邪魔しているぞ」
	と声を掛けてきた。……だから、部下じゃないって、何度言えば解るんだこの妖怪は。何か?  妖怪も、長年
	生きていると、呆けたり記憶力悪くなったりするってことか?

	「バイトお疲れ〜。……ぞふぃ君、コレ、うちの息子で、元部下の尊奈門」
	「ちげぇよっ」
	「どれが? 『今の名前は尊(ミコト)って言うんだ』ってつければ、間違ってはないでしょ?」

	う゛。反射で否定してしまったが、『元部下の尊奈門』で切れば、確かに辛うじて間違いではないんだよな。

	「尊、この人…まぁ、人ではないけど。は、私達の友達のぞふぃ君」
	「いつから私は、あなた方の友達になったのかな? あと、君づけは微妙だし、今明らかにひらがな発音したよね」

	ついでに、漢字で見ると判らないだろうが、俺のことも「そん」って呼びやがったしな。

	「まぁ細かいことは、どうだっていいじゃない。ぞふぃ君はね、今はとりあえず人間に擬態してるけど、
	 ホントはえーと、宇宙人? みたいなもので、片想いなのに両想いだって言い張ってて、隊長さんなのに
	 仕事ほっぽって、その相手に会いに行っちゃうんだって」

	それは、間違いなくこのオッサン達の同類だな。

	「でも、私はサコミズに邪見に扱われていないもん。会いに行ったら、歓迎してくれて、コーヒー淹れてくれるし」
	「私も、歓迎はされないけど、お夜食やお茶出してもらえたし、後輩くんには懐かれてたよ。……アマノちゃん
	 だけでしょ? 何度も殺される位嫌われてるの」
	「え? 『殺される』? 『殺されかけた』とかじゃなくて?」
	「アマノちゃん不死身だから。確か、3時間で復活するんだっけ?」
	「……。うん、何か、ピンクの幻がよぎった。うちの弟達の周辺にも、そんな感じのがいるんだよねぇ」

	後で聞いたら、いかがわしい意味でなく、物理的にピンクな危険人物―人どころか、生命体かも怪しいらしい
	が―につけ狙われているんだとか。


	「ところで……ゾフィー?さん。ここでこのオッサン達に仲間扱いされるのが嫌だったら、さっさと帰るなり、
	 目的の人の所へ行きゃ良いんじゃないですか?」
	「それが出来れば、とっくにそうしてるよ。……何かいきなり連れて来られて、ここが何処だかも、どうやって
	 帰ればいいかも判らないからねぇ」
	「そうですか」

	一体、どんな手を使ったんだ、この妖怪共。無駄に長く生きていることと、悪の親玉は不死身なこと以外には、
	特殊な力は無い筈なのに……

	「ああ、今回は自分から抜け出したんじゃないのに、仕事たまってて、また怒られるんだろうなぁ」
	「それなら、出張扱いで申請しといたから、多分平気だよ」
	「いつの間に……。しかもそれ、受理されたの? あと、受理したの誰」
	「お前の所へ顔を出す前にな。メビウスとかいう子供辺りが、何も疑いを持たなくて簡単だろうと考えたが、
	 あいにく居ないようだったので、お守り役が居ない隙を見計らい、エースとかいう奴に」
	「いつの間に、うちの子達のこと把握したんだい?」

	ゾフィーとやらは首を傾げているが、何度か入り浸っていたとしたら、俺としては取り立てて不思議には思わ
	ない。何しろ

	「まぁ、このオッサン達はこれでも、一応人の上に立ってまとめる立場だったりしたからな」
	「おや珍しい。尊、今私のこと褒めた?」
	「そうだな。素直な表現ではないが、一応我らの能力を認める発言だったな」

	チッ。口に出てたか。確かに、クソ親父は元上司だったから、ある程度尊敬していないこともないが、それを
	本人に伝えるのは癪なんだってのに。

	「……気の所為だ、気の所為。でなきゃ、自分らに都合の良い解釈してんじゃねぇよ」

	ああ、クソ。ニヤニヤ笑いで「照れなくてもいいのに〜」とか、マジでウザい。

	「……。何か、うちの弟の息子と似てるかも」
	「ああ、あの、精神年齢3歳の子にお父さんとられて、焼きもち焼いてるツンデレくん? でも、あの子と
	 違って、うちの子は基本的には万年反抗期だから、可愛げはあんまりないんだよねぇ」

	うるせぇ!  自業自得だろダメ親父。ついでに、男子高校生に可愛げがあること自体、珍しいだろうが。

	「君くらいの年頃だけど、うちのメビウスは可愛いよ」

	誰だそりゃ。

	「うちの末っ子」
	「でもって、ぞふぃ君の友達のヒカリちゃんの可愛い恋人ちゃん。……良いよねぇ、ぞふぃ君と同い年のくせに」

	って、いくつなんだよ。

	「人間の年に直すと、39歳位。ちなみにメビウスは18歳位だけど、中身はもうちょっと幼いかな」

	実年齢がいくつかは知らないが、意外とオッサンなんだな。

	「ところでさ、この子のお母さんって」
	「あぁ。私が追っかけてた子とは、無関係の赤の他人だよ。何しろ、私やアマノちゃんが追っかけてた子って、
	 もう4〜500年前の子でねぇ。一旦普通に死んじゃってて、最近ようやく、生まれ変わってるの見つけた所。
	 ……だけど、『アナタは、私を通して他の誰かを見ているんでしょ?』って言って奥さんが出てっちゃった
	 のは、改めて見付ける前だったけど」

	更に言えば、親父が執着していた子供の生まれ変わりは現在女子中学生で、中学教師な親父の教え子だけど、
	元々は男だったしアノ当時は曲者扱いをされていた。そして悪の親玉の方に至っては、男だったのが男に
	生まれ変わってて、しかも今も昔も敵対関係にあって、今の向こうは警察関係者なのだと、いつだか聞いた
	気がする。

	「ふぅん。案外、セブンの所もそんな感じだったりして」

	……。その弟さん達のことは知らないが、本人達にソレ言ったら、凄い目に遭わされるだろうな。頑なに口を
	割らないのは、何か事情ややましいことがあるからだろうが、あっていても図星をついてもヤバいだろうし、
	息子的にもかなり嫌だろう。




	その後。気付いたらゾフィーとやらは、
	「どうせ帰れないし」
	「折角の休暇みたいなものだものね」
	などと開き直り、親父共と一緒になって
	「コーヒーのお代わり淹れて欲しいなぁ」
	だの
	「夕飯まだかな? 献立は?」
	だのと、完全にお客モードでくつろぎだした。
	そして、もう慣れているというか、どうせ前世からこんなもんだと諦め、ぐーたらなオッサン共の世話をして
	いる俺を眺めながら、親父達と

	「もしかしてこの子、ゼロよりジャック辺りと気が合いそうなタイプ?」
	「そうかもね。あと、多分次男くんとか、五男くんのお世話してる子とも話合うと思うよ」

	などと話していたが、どうでも良かった。それなのに、送り返す直前に

	「今度は、うちの子連れてそっちにお邪魔してもいい? 弟くん達と会わせてみたら、面白そうだし」
	「あー、まぁ、私は別に構わない気がしなくもないけど」
	「この息子じゃなくて、部下の方で連れてくかもしれないけど」
	「?」
	「あんまり細かいことは気にしないで。深く考えたら終わりだから、この話というか、この世界」

	とかいう、どうしようもないやりとりが聞こえた。確かに、パラレルのパラレルの、下手したらそのまた
	パラレルな世界だからな。
	俺としては、何にせよ行きたくないが、そういうわけにもいかない……のか?






ふと思い付き、姉さんに捧げる為に書きました。 タソガレドキ父子以外については、『旅籠 猫屋』をご覧ください(笑) ついでに、姉さんが続き(というかウルトラさんちサイド)を書いて下さることを、こっそり期待してたりも 2010.3.6