今日は、帰宅すると何故か、俺の部屋の辺りから話し声が聞こえた。
	「また何か来てんのかよ」
	と思いながら自室のドアを開けると……

	「何勝手に人の部屋漁ってんだ、この妖怪ダメ親父共! ついでに、何でそのガキ共も居るんだよ!?」

	そこにはいつもの妖怪共と、こないだのヘタレ宇宙人―ゾフィー―と、俺と同世代か少し下ぐらいの3人の
	少年が居て、やけにくつろぎながら俺の私物などを物色していた。

	「お帰り〜。あのねぇ、今日は、ぞふぃ君を遊びに誘いに行ったら、このレイちゃんが興味持ってついて
	 来ようとして、そのオマケでゼロくんもついて来たんだ」
	「……俺は、レイがこの胡散臭い奴らについて行こうとしたのを止めたら、無理矢理連れて来られただけだ」
	「そして、メビウスもこちらの世界に興味があるようなので、ついでに誘ってみたわけだ」

	ああそうかよ。もうこの際、時代とか移動方法とか、何も気にしないことにするが、うっすら残っている
	かつての記憶からすると、この赤毛のメビウスってのは確か、ヘタレと同い年の奴の恋人だろ?  って
	ことは、その辺が訊きたいから連れて来たんだろ、ストーカー親父共。


	「えっと、『おじゃましてます』であってるよね? で、君は誰ですか?」

	とりあえずメビウスとかいうのは、挨拶をするくらいの礼儀と知識は持ってるわけだな。

	「うちの息子の、尊奈門だよ」
	「ウソ教えんなクソ親父。今は『尊』だっての!」
	「でも、息子なのはホント」
	「認めたくないけどな」
	「……お前、仮にも父親に向かって、その口の聞き方はどうかと思うぞ」

	うるせぇ、ツンデレ小僧。俺はお前と違って、このオッサン達の扱いを、嫌って程知っているからこそ、
	反抗してんだよ。

	「……。『お兄ちゃん、お帰りなさい』?」
	「「ちげぇよっ!」」

	何仕込んでやがるんだ、ダメ親父。絶対アンタが教え込んだんだろ。

	「すごいね。尊くん? とゼロ、息ぴったりだ」
	「そうだな。立ち位置も似ているようだし、気がは合うのではないか」

	メビウスはともかく、黙れターバン。ツンデレ小僧と一緒にするな。俺は、物心ついて色々思い出した時に
	本気で絶望したくらい、アンタらと縁を切りたいんだ。
	あと、いい加減俺の部屋から出ていけ。人の部屋に勝手に入り込んで、物色するな。

	「みこっちゃんのケチー。しかも、エロ本の1つも隠してないとか、つまんないよねお前」

	隠すかそんな物。仮にも元格上の忍相手に、隠したって無駄なのは知ってんだよ。

	「それってつまり、興味ない訳じゃなくて、私に見つかりたくないから、持ち込んでないだけ?」
	「案外面白い性格をしているな、息子」

	……。「部下」呼びは止めろと言ったら、今度は「息子」か。ふざけた呼び方の親父と、どっちがマシ
	なんだろうな。

	「ともかく、さっさと出ていけ。片付けろとは言わないでやるから、何も持ち出すな」

	とりあえず、その手にあるアルバム類は置いていけ妖怪共。ついでに、文集は読み物じゃねぇよヘタレ宇宙人。

	「……ゴモラ」
	「は?」
	「ああ。この人形の色が、ゴモラと同じだな」

	ポツリと呟いたレイが抱えていたのは、そこそこでかいクマのぬいぐるみだった。……タンスの奥にしまい
	込んであった筈なんだが、そこまで漁って引っ張ってだしやがったのかよ。

	「あ。ソレ、離婚前に、私が買ってあげたやつだよね。まだ持ってたんだ」
	「ほぉ」

	ニヤニヤ笑いは止めろ、そこの妖怪親父共。当時の俺は、一応まだ5歳かそこらで、
	「最後に、お父さんに何か買ってもらいなさい」
	って母さんに言われたから、無難そうなもう少し小さいぬいぐるみを選んだら
	「遠慮しなくていいよ」
	とか言って、わざわざでかい方を買い与えられて、母さんの所に置いてくるわけにいかなかったから、
	仕方なく持って来ただけだ。

	「でもそこで、『捨てる』って選択肢は選ばなかったんでしょ?」
	「しかも、保存状態もそれなりに良いように見えるな」

	何となく、捨てるとヤバそうな気がしたから、袋に入れて洋服ダンスの奥に突っ込んどいただけだ!

	「で、レイちゃんが気に入ったみたいだけど、コレも持ち出しちゃダメなの?」
	「それ位は構わない。っていうか、やる。処分に困ってただけだし」


	とかまぁ、そんなやり取りの後、どうにか人外共を部屋から追い出し軽く片付けを済ますと、次は夕飯の
	支度が待っていた。オッサン3人は、どうせマトモに手伝わないどころか、邪魔にしかならなそうなんで
	放っておいて、ゼロとメビウスは手伝わせることにした。レイも除外したのは、何となく危なっかしそうな
	気がしたからだ。
	というわけで、ひとまずゼロに野菜の皮をむかせて、メビウスにはそれを切らせることにしたんだが、どう
	見てもそれは包丁の持ち方じゃない。何で両手で持って、正眼に構えているんだ。しかも

	「ちょっと待て! 上段に振りかぶるな!!」

	姿勢が良いのが、逆に恐ろしいぞ。

	「……メビウス。お前、料理したことないのか?」
	「うん」
	「そうか。解った。もういい、それじゃピーラーの使い方教えてやるから、ゼロと代われ。で、ゼロは包丁
	 使えるのか?」
	「馬鹿にすんな、それ位楽勝だ」

	とはいうが、信用出来るか怪しかったので試しに持たせてみた所、確かにそれなりに出来そうだったので
	交代させて、指示を出しながら米を研いだり他ものの用意をしたりなどしていたら、視線を感じた。その
	視線の主はレイで、俺たちの作業を興味深げに、じーっと見つめていた。

	「お前も、何か手伝いたいのか?」

	訊ねるとレイはコクリと頷いたが、台所は3人立っているだけで一杯だし、刃物や火を扱わせるのは危険
	なので、サラダ用のプチトマトのヘタを取らせたり、レタスや水菜をちぎらせておくことにした。


	「所で尊、今日の夕飯何?」
	「人数居て面倒だし、材料あったからカレー」

	親父の問いに俺がそう答えると、メビウスの目が輝いた。どうも、カレーが大好物らしい。

	「カレーなんだぁ、嬉しいな。あのね、ゼロ、レイ。カレーっていうのはね――」

	喜々として、カレーについて熱く語りだしたメビウスに、

	「メビウスくん、メビウスくん。カレーとヒカリちゃん、どっちの方が好き?」

	とかいう訳の解らないことを訊いたのは、うちのダメ親父だった。

	「えっと、おんなじ位好きですよ」

	……。ちょっと待て。その「ヒカリ」ってのは、確か恋人なんだよな。て事は、アレか。コイツの「好き」は
	どこぞのナメクジ小僧と、同じノリなのか?

	「ああ、そうかもね。もしくは豆腐小僧くんに近いかも」
	「メビウスはねぇ、色んな所がズレてるから」

	何にしても、哀れだな。そのヒカリとやらが。そして、そのメビウスのズレた感覚を一番実感したのは、
	料理中にふとした疑問を訊かれた時だった。


	「ところで、君がお父さん達に言う『妖怪』って何だい? 怪獣や星人のこと?」
	「は? 怪獣!?」

	後でゾフィーに訊いた所、奴らの概念に「妖怪」ってのはないらしい。なので、自分の知っている概念に
	置き換えて考えたようだが、流石にうちの親父もターバンも、もうちょっと人間寄りだと思う。というか、
	ひとまず「人外」って意味で「妖怪」と言っているだけで、何かの化身やら変化したものじゃない―少なく
	とも元上司だった時代のウチの親父は、単なる人間だった筈だ―から、正確には何か違う気もする。

	「ここでは、地球人も怪獣も仲良く暮らせる世界なのかい? 良い所だね!」

	そうだな。人の世にちゃっかり溶け込んでいる妖怪や、いきなり遊びに来た宇宙人に、諦めまじりとはいえ、
	普通に接してやっている人間が、とりあえずここに1人は居るわけだし。
	……ってことにしておこう。説明もめんどくさいし、喜んでいるのをあえて否定することも無いだろうしな。

	とかそんなやり取りをしている間に、食事が出来た。

	「おい。何でレイのだけ、色が違うんだよ」

	オッサン共にテーブルの上を片付けさせ、各自の分をよそっている俺に、怪訝そうな目を向けて来たのは、
	皿を運んでいたゼロだった。

	「まさか味覚まで幼児並だとは思わないが、念の為甘口にしてみたからだ」

	正直自分でも余計な手間だとは思ったが、うちにあったルーは、オッサン向けに辛口だったから、初めて
	食べるのには、刺激が強いかもしれないと思って、小鍋に分けといて加工したんだよ。

	「ふむ。気が回るな息子」
	「そうでしょ。ウチの子、私への態度は悪いけど、基本は出来る良い子だから」

	そこで自慢げな顔をするなダメ親父。アンタの教育の賜物じゃなくて、前世からの性分だ。そしてアンタへの
	敬意は、室町の世で使い果たしたんだ。


	その後。
	「それじゃ、この人(?)達送り帰して来るね〜」
	と言って出て行く前に、

	「それにしても今日は、ゼロくんウチの尊に、レイちゃんのお兄ちゃんのお株奪われっぱなしだったねぇ」
	
	とかほざきやがったんで、ゼロと一緒になって「誰が兄だ」と突っ込みを入れたら、今度は

	「初めからそれなりに息があっていたが、随分と揃うようになったな」

	しみじみとそんなこと言われても、嬉しくねぇ。どうせ、もう会うことはないだろう―というか、もう
	拉致ってこないで欲しい―から、これっきりだろうし。


	「さぁ、それはどうだろうね」

	……不吉な言葉を残すな妖怪。流石にもう、コレ以上の面子は書けない。とか、書き手も言ってんだから、
	この奇怪なシリーズも、コレで終わりの筈だ。……そう、思いたい。




楽しいのは2人だけな、謎のコラボシリーズ第三段。 何が書きたかったのかは、自分でも解りません。そして、多分コレで打ち止めだと思います。 2010.3.25

オマケ 「メビウス、ゼロ、レイ! 黙ってどこへ行っていたんだ」 良く解らないまま、とりあえず無事に光の国に帰り着くと、ずっと3人のことを 探していたらしきセブンやマンに、心配したのだと叱られてしまいました。 「えっと、ごめんなさい」 「ゾフィーの知り合いの、あの怪しいオッサン達が……」 それに対し、メビウスが素直に謝り、ゼロが言い訳をしようとした矢先。 「ぱぱ、おにいちゃんたち、ごめんなさい」 「!」 「////」 (完璧に棒読みな)レイの言葉に、保護者達が呆然としつつも 照れている中、それが一体誰の入れ知恵か解ったゼロが 「いつの間に教え込んだ、あのクソおやじ共ーー!」 と叫ぶと、ゾフィーがのんきに 「あ。何か、夕飯作ってる時に教えてたかも」 とほざきました。 「何で、その時点でほったからした。てか、その時何してたんだアンタ!?」 「え。何でって、別に問題があるような気はしなかったし、 ちょうど、目の離せない局面になってたから」 残念なヘタレの長兄は、弟達が夕食の支度をしている間、 ストーカーの片方と将棋対決をしていたとか。 さらにオマケ 「……ゼロ。一応、何があってどこへ行っていたのか、 明日で良いからキチンと話してもらえるか?」 「いいけど、正直俺も何が何だか、よく解んねえ」 「それでも多分、一番ちゃんと説明できるだろ?」 「まぁ、そりゃ、メビウスやレイよりゃマシだろうけど……」 「……私は?」 「ああ。兄さんは、ほったらかしにした書類が溜まっているので、 さっさと片付けてくださいね。3分の1位は、明日が期限ですから」 「えぇ〜。自分の意思でサボった訳じゃないのに」 「ということは、普段サコミズに会いに行って いるのは、サボりだと認めるんですね?」 「いや、アレは、その、息抜きというか……」 「何でもいいから、やるべきことをやって下さい。書類が 全部片付くまでは、外出は一切認めませんから」