朝っぱらからレイの姉貴の幽霊に遭遇し、事情などを聞いて何だかしんみりした気持ちになっていたら、

	「あ、そうそう。今日のお昼過ぎには帰るから、準備しといてね」

	と、スパッと切り替えたっぽい親父から言われた。……頼むから、たまにはしんみりした空気とか、真面目な
	態度を、もう少し持続してくれ。確かに結構大事な連絡事項なのかもしれないが、せめてもうちょっと口調を
	堅くするとか、それ位は出来るだろうに。

	「えー、嫌だよ。めんどくさい。それに、ひとまず今回の旅行はそろそろ終わりなんだから、残り時間はなるべく
	 有効に、楽しくすごしたいし」

	……。その「楽しく」の意味をさておけば、意外に真っ当な言い分なのが逆にムカつかないでもないが、確かに
	このままテンション低いままだと、何も知らない周りから見りゃ変だろうし、気を使わせるのもなんだしな。
	てことで、気分を切り替えてひとまず食堂に向かっていたら、通りすがりのエースから「コレやるよ」と、紙袋に
	入った何かをもらった。
	
	「どうも。何すかコレ?」
	「カレーパン。朝飯にするんでも、コレ持って外遊びに行ってもいいんじゃね? 天気いいし」

	確かに天気は良いから、レイ達を連れて外に行くのもアリかもしれないが、何でカレーパン。

	「昨日の夕飯の残りで作った余り」

	いや、カレーが昨日の残りなのは解るけど、だから何でソレを。

	「俺が身体借りてたやつが、元パン屋だから」※本当です

	あー、多分そこを突いて、うちの親父達が酒のつまみの代わりに―なるのかは謎だが―作れとねだったんだな。
	それじゃ、ありがたくもらっといて、あともう少しサンドイッチか何か作って出掛けることにするか。そんな
	話を朝食を採りながらゼロとレイにしたら、
	「じゃあ、ゴモラ達に日光浴させる」
	とレイからは返ってきて、ゼロも何やかやと言い訳をしつつも異論は無いようだった。

	そんな訳で、簡単な弁当を持参して公園っぽい所へ行こうとしたら、出掛けに非番らしき平成組と遭遇し、奴らも
	同行することになった。というか、ダイナが
	「じゃあ、キャッチボールやろうぜ」
	と言い出し、「いい年こいてソレはちょっと……」とか俺が思っていたら
	「これだけ人数が居れば、チーム分けて対戦も出来るねぇ」
	みたいに親父が口を挟んできたんで、残りの連中も勝手に参加が決定して、おまけに
	「親子の交流が出来るよ」
	とセブンまでそそのかして参加させ、ついでに通りすがりに声を掛けたらメビウスまで加わって……

	そんなこんなでしばらく野球もどきに付き合わされ、今はセブンとゼロ、ダイナとメビウスがそれぞれキャッチ
	ボール中で、レイは日向ぼっこ中。俺とティガは休憩中というか、単に混じる気にはあまりならないが帰る気も
	ないから見ているだけ。といった感じで、太陽光が似合わない妖怪共はガイアとアグルをいじっている。……と
	思っていたら、いつの間にか俺の傍に来ていて、しみじみと話しかけられた。
	
	「尊も、だいぶここに慣れたっぽいねぇ」

	何をいきなり。確かに多少慣れはしたが、まだそこまで馴染んではいない……と思うんだけど。

	「だって、ゴモラと遊んでるレイちゃんに違和感感じて無いし、三男くんちのカプセル怪獣くん達も気にして
	 無かったみたいだし、昨日も購買でバイトしてたカネゴンから普通に買い物してて、夕飯の時にお皿持って
	 並んでたピグモンにも動じないでカレーよそってあげたじゃないか」

	……。否定できないのが、ヤバくて嫌だ。けど、何かもう今更になっている気が、しなくもない。クソ。俺は
	周囲の連中と、前世が忍だったことと、前世の記憶がある以外の俺自身は、一般的な人間だった筈なのに。

	「いやぁ、お前は仮にも私の息子な時点で、半分人外だし?」

	楽しそうに、「ゼロくんのお母さんが地球人だったら、おんなじだね」とか言うな! 事実だけど、認めたく
	なくて、ずっとそこからは目を反らしてたってのに。

	「けどまぁ、適応能力が高いのは、悪いことじゃないと思うよ。お前昔から、執念深く逆恨みとかするし文句は
	 言うくせに、変に諦め早かったしねぇ」

	そうだな。上司が通りすがりの治療癖がある小僧っ子に入れ込んで味方しようとも、殿の分の招待状勝手に流用
	して文化祭に連れて行かれ、挙句に店番押し付けられようとも、一応全部最終的には流したし、元上司の妖怪が
	父親なことも、半分は諦めていないこともない……のは認めたくないな。

	「所でお前も、キャッチボールする?」
	「しない」
	「じゃあ、もう1回ダイナくん達と紅白戦は? レイちゃんは見学で、たまには本気出してみない?」

	何の誘いだよ。記憶はあっても、身体の方は一般的な高校生―よりはちょっと上―レベルで、昔の身体能力は
	残って無いんだから、明らかに俺が不利だろうが。

	「けど、ルールをちゃんと知ってるのって、私達とダイナくん達4人だけでしょ?」

	確かに何故か平成組の4人は野球のルールを知っていた―どうもダイナに教えられてつきあわされたらしい―が、
	メビウスとセブン親子は怪しかった。とはいえ……

	「えー、何。みこっちゃんてば、負けるの解ってるから、勝負したくないのー?」
	「……いいよ。わかったよ。やってやろうじゃねぇか。チーム分けは、オッサン共+ガキ対若いのな」

	見え見えの挑発だが、乗ってやるよ。んで、勝ちゃいいんだろ。でもって、レイだけハブると本人以外から文句
	言われそうなんで、もう一人捕まえてくりゃ人数も揃うだろ。そう思って少し探したらマックスを見つけたので、
	軽く説明をしたら快く乗ってきた。
	とまぁ、そんなノリでむきになって全力で勝負をしていたら、ゼロがかっとばしたボールが、離れた所に居た
	奴の傍まで飛んだので、謝りながら拾いに行ったんだが、「暑い」だの「眩しい」だのと呟きながら、やけに
	辛そうに日光浴をしてたそいつは、昨日の夕飯の時にも見かけたことのない奴だった。

	「……ありゃ誰だ?」
	「ネクサスさんだよ。何か、身体弱くって、よく血を吐いたりしてるみたいなんだ」
	
	ああ。だとすると刺激物のカレーは食えないだろうし、これだけの晴天だと、じっとしているだけでも貧血や眩暈
	起こしそうで辛いだろうな。ていうか、辛いなら帰れよ。……そう思った端から、ぶっ倒れたの見えたし。

	「誰か水! ってか、スポーツドリンクの類! なきゃとりあえず水に塩! いや、その前に、誰かひとまず
	 アイツを日陰に連れてけ! で、医務室にも連絡!」

	慌てて俺が指示を飛ばすと、素早くネクサスとやらを回収しに行ったのはダイナで、海水―どっから出したんだ―
	を用意したのはアグル。医務室にダッシュしていったのはマックスだった。勿論、ウチの親父共以外の他の奴らも
	動こうとしたが、その連中が一番早かった。なので、手持無沙汰になりかけている連中にも

	「えーと、それじゃメビウスはタオル絞って来い! で、残りは撤収準備! アイツ連れて帰るぞ」

	などと指示を与える様を、
	「随分と立派になったものだな」
	「そうでしょ。指示内容も的確だしねぇ」
	「うちのゼロも、あんな風にしっかりと他への指示や指導が出来るようになってほしいね」
	とかほざきながら、手伝いもせず見ていた中に、セブンまでいたのはどういう訳だ。父親目線で妖怪共と意気
	投合しやがったってのか。



	「多分、善意で日光浴を勧められたから、一定時間は帰るわけにいかない。とか思っていたんじゃないかな」
	「起きたらフォローはしとくけど、何か言っておきたいことある?」

	帰り際に、「何で倒れるまで日光浴してんだか」と呟いた俺に、苦笑しながらそんな風に返してきたのは、
	ティガとガイアだった。

	「……それじゃ、次からは水分と塩分や糖分もとりつつ、日傘さして近所を散歩するか、せめて帽子かぶるよう
	 言っといて下さい」

	ついでに、同じことをレイにもさせるよう、セブンにも言っておいたが、何で俺がこんな注意をここの連中に
	しなきゃいけないんだろう。そんな風に思うのは、もう今更なのか?


	その後。一応世話になった連中に挨拶をして、自分の足で歩きながら親父達に同行していたつもりなのに、
	どうやって戻って来たのかが記憶に無い。……そういえば、前―「諸泉尊奈門」だった前世―に一度連れて
	行かれた時も、意識はしっかりあった筈なのに行き帰りの方法を覚えていなくて、何か気付いたら移動して
	いたような気がするな。とはいえ、多分訊いても解んないだろうし、自分一人で行くことは無いだろうから
	詳しく訊く気にはなんねぇけど。そう思っていたら、

	「まぁ、確かに私達の使ってる方法は説明がめんどくさいけど、ぞふぃ君がお仕事抜け出してコーヒー飲みに
	 行ってる時の、方法とか道順みたいなものを聞き出して、とりあえずメビウス君に教えといたから、その内
	 向こうからは私達無関係に、誰か来れるようになるかも?」

	……それは、この奇怪なシリーズを続けるかもしれない。ってな宣言か?



時間切れにつき、若干オチが微妙な感じになっておりますが、後で直す……かも とりあえず、ひとまずコレで終わりにして良いですよね、姉さん? 直すというか足しました。これでGW編は終了ですが、シリーズ自体はカノウと柳佳姉さん共同で 続く可能性が高い……というかほぼ確定しました(笑) 2010.5.9 2010.5.11 加筆