バイトを終えて帰宅したら、居間の方が騒がしくて酒臭かった。
どうせ又、妖怪共が飲んでんだろうと思いながら、荷物を置いて覗くと、案の定酒盛りをしている
オッサン共が目に入ったが、ウチの元上司な親父とターバンの他に、後2人居るように見えた。
その時点で見なかったことにして部屋に戻ろうかとも思ったが、バイト明けで飯抜きはきついんで、
仕方なく居間を通って隣の台所に行く為に戸を開けると、
「おっかえりー」
「邪魔しているぞ息子」
「どうも、またお邪魔しているよ」
「お帰り。えーと……尊くんだっけ?」
とか、俺に気付いて口々に声を掛けてくるオッサン共―親父・ターバン・ゾフィー・セブン―に混じって
「お帰り。台所と食材を使わせてもらったけど、夕食も作ってあるから」
と、台所でつまみを作らされていたらしいマンに言われた。
「あ。どうも。一応家主はそこの親父なんで、親父の許可取れてんなら好きにどうぞ」
そっけなくそう返したが、正直、自分で作らなくても夕飯があるのは、ありがたかった。
そして、セブンもマンも来てるってことは、ガキ共も居るんだろうと思って見回してみると、オッサン共の
陰に隠れる辺りの場所で、テレビのどうでもいいバラエティを見ているようだったので、一応一声かけると、
ゼロからは「帰って来たのか」、レイからは「おかえりなさい。おじゃましてます」の答えが返ってきた。
……棒読みとはいえ、精神年齢が3歳児のレイの方が礼儀正しいとか、問題だろ。ツンデレ小僧もその親も。
とは思ったが、息子談議をしているらしき親父共の話に巻き込まれたくなかったんで、流して夕飯を食い、
後片付けをし終えた辺りで、ゼロに
「レイをどこで寝かせればいい」
と訊かれた。まぁ、この時間だと泊りになるから、当然か。
「客間に布団用意してやるから、ちょっと待ってろ。……親父! 客間には2枚しか布団敷けないから、
ガキ共だけそっち寝かせて、残りのオッサン共は掛布やるから居間で雑魚寝で構わないな?」
どうせ夜通し酒盛りしてるか、つぶれてその場で眠っちまうのがオチだろうから、異論は認めない。
「それでもいいけど、ゼロくん尊の部屋に泊めて、レイちゃんと次男くんと三男くんが客間で寝れば
よくない? ちょっと狭いけど、3人なら布団2枚で寝れるよね」
あー、まぁ、それもアリっちゃアリだが、ゾフィーとターバンは……。そう思っていたら、案の定ゾフィーが
「そうすると、私とこの人は?」
と首を傾げた。
「眠くなったら、ソファー使っていいよ。アマノちゃんは、どうせ寝ないでしょ?」
「そうだな」
……。ウチのソファーは1人掛けだから、寝るのには適さないと思うけど、ゾフィーだからまあいいか。
とまぁ、そんな訳でレイを寝かしつけた後。ゼロはどうするか確認を取ると
「親父共の輪に加わる気はねぇ」
とだけ返ってきた。それは俺も無いよ。明日は日曜なんで早く起きる必要は無いが、仮にも
現役学生なんで、宿題やら何やらやらなきゃいけないものもあるしな。
「んじゃ、まだ眠くないならその辺でテレビ見てんでも、何か本でも読んでるんでも、好きにしろ」
そう言って放っておいて部屋に戻ろうとしたら、ゼロはテレビを消してついてきた。
「ゼロ?」
「……。向こうにいると、親父共に絡まれる」
ツンデレのデレでも発動したかと思ったら、そういうことか。って、デレの可能性も無いとは言い切れない
気はするが。
そして結局。宿題―数学と英語―をやっている間中、「それは何だ」「何をやっているんだ」と、無駄に
興味を持たれまくってうっとうしかった。どっちも苦手教科なんだから邪魔すんなよ。とは思ったが、
かといって部屋の中を物色されんのも勘弁して欲しかったんで、適当に相手をしてやりながらさっさと
終わらせることにした。
その後。何か居間の方がドタバタうるさかったんで覗きに行くと、武器や技の話を実演込みでしていて
……って、光線技は論外だとしても、苦無やなんかも、現行法だと銃刀法に引っ掛かるだろうが。
しかも、そんな風にドアの脇で呆れていたら、いきなり親父が手裏剣(金属製の本物)を俺らの方に
投げてきやがった。それを難なく指だけでキャッチしたら、ゼロにも他の連中にもかなり感心されたが、
チビの頃から、こうやっていきなり物を投げつけられたり、高所から落とされたり、気配を消して後ろに
立たれたり、その他諸々、命にかかわらない程度の修業的なことを「遊んであげるv」と称して仕掛けて
こられた所為で、―当時のレベルには到底届かないが―忍びの勘的なものは鈍りきっていなくて、今すぐ
ジャグラーか軽業師にだったらなれる位のスキルはあるんだ。あと、一応サバイバル能力と歴史知識(戦国
時代限定)も高いけど、歴史の方は
「ああ。お父さんが日本史の先生だもんねぇ」
で納得されるのが気に入らない。
「よしよし。なまってないみたいだねぇ、尊奈門」
「だから、その呼び方は止めろっての」
満足げな親父に手裏剣を投げ返し、近所迷惑になるようなことや、家の中を傷つけることはやめる
ように言い置いて、部屋に戻って寝ることにしたが、ゼロからテレビで見たことから、妖怪共に
吹き込まれたことや、父親との接し方に、幼児の扱いその他諸々、興味を持ったことについて訊かれ
まくり、結果的に今回も気付いたら寝落ちしていた。その割に妙に早く目が覚めたので、面倒だが他の
連中の分も朝飯を作りに台所に行くと、既に起きていたマンが作ってくれていたのは、本当に助かった。
ちなみに俺が起きた時に起きていたのは、寝ていないらしきターバンと親父以外ではマン位のもので、
残りのゾフィーとセブンは結局床でつぶれていたし、レイは様子を見に行ったら、寝顔を覗きこんでいる
幽霊が居たように見えた気が……
木綿の所の2周年記念品。
「前向きうざっ隊でいいな」と言ってみたら、本当にそれでいいと言われたんで……
2010.6.20
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