最近、バイトの日数を減らした。
元々―自立資金を貯めるという目的もあったから、金の為というのも無かった訳ではないが―家で妖怪共と
顔を合わせていたくないから、休日は全てシフトを入れるようにしていたんだが、最近アノ光の国の連中と
関わるようになり、向こうに連れて行かれることも、こっちに来た奴らの相手をしてやることも増えたし、
子供―以外の方が多い―電話相談室的なことまで押し付けられたんで、諦めてそっちに時間を取られるのを
前提に考えることにしたんだ。……ガキ共―レイとゼロ―以外からの電話相談室もどきと、その他の謎の
頼まれ事の時は、バイト料を払って貰えるよう、マン他に協力を仰いでゾフィーと交渉もしてるしな。
とまあ、そんな訳で、また光の国に連れて来られていて、こないだ忍者について訊かれたり、未だに残る忍者
スキルを披露させられたこともあって、何か
「ちょっと手合わせしてみたら?」
とか親父に言われて、光線技は無しだが得物は有りという条件で、ゼロと勝負をすることになった。
多分、基本的な身体能力は格段にアイツの方が上だろうが、俺の方が実戦経験はある筈だし、俺はアイツに
とって未知のタイプだから、妖怪共は俺をけしかけたんだろう。そう察せたんで、「始め!」の声と同時に、
余裕綽々のゼロの背後に回り、得物―とりあえずポケットに入っていたボールペン―を後ろから首元に突き
付けた。
「……これで終りだ」
「なっ」
「コレが刃物で、ここが実戦の場なら、お前はこの一瞬で喉笛を掻き切られて死んでいる。だから俺の勝ちだ。
異論はあるか」
本当は、ボールペンでも目玉や喉を潰す位は出来るし、手の平程度なら貫通させることも多分出来る。けど
それは言わずに、ボールペンを突き付けたまま、降参するかと問うと、ゼロは
「卑怯だ!」
と食って掛かってこようとした。
「それがどうした。不意打ちも卑怯な手も騙し討ちも裏切りも、俺ら忍の十八番だ。そんで、手元にあって武器に
出来そうなら、ボールペンだろうがチョークケースだろうが出席簿だろうがその他文房具やら事務用品だろうが
何だろうが活用するもんなんだよ。あとそれから、お前らの敵は、必ず真っ正面から、正々堂々掛かってくる
とでもいうのか?」
俺がそんな風に、私怨も込みで畳み掛けるように返すと、
「まーだ根に持ってるんだ。ほんと執念深いねぇ、お前」
と呆れた親父以外の、周りで見ていた光の国の連中は、
「あぁ、居たね。子供を丸め込もうとした奴とか」
「化けるのが十八番なのに、何かわかりやすくニセモノっぽい奴とか」
「完璧な変身の奴も居ましたけどね」
「人の変身アイテム奪った挙句、力が暴走した奴も……」
「後は、洗脳系とか、ブロンズ像にしてくる奴なんてのも居たなぁ」
等々、何やらしみじみと頷きながら納得していた。てことはやっぱり、宇宙人や怪獣にも、その手のは
結構居る。ってことだよな。
「はい! という訳で、良い勉強になったでしょ、ゼロくん。力だけが強さじゃなくて、こういうのも一種の
能力で才能なんだよ。尊はコレでも、案外有能な子だからねぇ」
直接的には自分の手柄ではないのに、やけに自慢気な親父には少しイラッときたが、元部下として、ちゃらん
ぽらんながら歴とした実力のあったアノ組頭に認められるのは、悪い気はしない。……なんてのは、絶対口に
出して言わないけど、どうせ気付いているだろうな。
そんな感じで、ひとまず勝負がついてからも、しばらくゼロはしつこく
「ちゃんと勝負しろ!」
とか言い続けてたが、正直俺の戦闘スキルは、騙し討ちじゃくても基本的には暗殺とか必殺方向で、手加減は
面倒だし苦手なんだよ。そう返したら
「じゃあ、尊にも良い練習になるから、体術勝負は?」
って、提案すんなよ親父! アレコレ言い訳したけど、要はやりたくないんだって、解ってて言ってんだろ。
その後。散々反抗したが結局勝負させられたんで、せめてもの抵抗として、軽業路線でゼロの攻撃を全部避けて、
反撃はせず体力を消耗させていたら、やっぱり文句を言われた。だけど、そういうのも立派な修行の一種だぞ。
俺の動きを見切って、拳や蹴りの一つも当ててみろってんだ。
そう挑発したら、又も野次馬達に納得され、その結果、定期的にゼロの修行相手をさせられることになった。
……。この件に関しては、自業自得というか、墓穴を掘ったか、俺!? って、もう後の祭りか。
2週間くらい前の雑談で話した内容+α的な
尊=尊奈門要素を増やそうとした結果というか何というか……
2010.7.3
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