赤鬼と母さん(14年前)
平日夜中の出来事
「ちーっす。こへ兄いる?」
「若でしたら、ご友人達と呑みに行かれて、
今は居りませんが…」
「あー、でも、滝ちゃん居んなら
それでいいや。…悪いけど風呂貸して?」
「は?」
「いやさぁ、返り血まみれで帰ったら、
流石に親父に殴られそうで」
「…わかりました。ただし、裏から入って
絶対に若の部屋の辺りには近寄らないで下さい」
「別にいいけど何で」
「しろはまだ、そういうのに慣れていないんです。
トラウマになったらどうするんですか!」
「おぉ。滝ちゃんてばすっかり母ちゃんしてんのな」
「…着替えは、若のでよろしいですね?」
「あんがと」
「ところで、「今日は何故」とお訊きしても?」
「集団で一人の女の子囲んで、悪いことしようと
してんの見っけてさぁ」
「助けるつもりがやりすぎて、結局その少女にも
逃げられたわけですね」
「その通り。よくわかんな」
「いい加減学習なさったらどうですか?」
「笑う赤鬼」は、自分からはケンカを売りはしないけど売られたら嬉々として買うお馬鹿。
一応まだ現役な頃です。
そして、若の部屋には滝母さんが戻ってきて絵本を読んでくれるのを、
大人しく待っている良い子が居ます。
似た者同士(13年前)
「何しているんですか!」
「え? 何って、しろ坊と遊んでる」
「それはわかります。けれど、
腕を持ってぶら下げたり、回したり
しないで下さい! 腕が抜けます!!」
「でも、俺ガキの頃は、親父や
祖父ちゃんがこうやって遊んだり、
手離し高い高いとかしてくれたぞ?」
「知っています。若が、以前同じようなことをして、
ほとんど同じ言い訳をなさいました」
「それに、しろも楽しそうだし」
「それでもです! 全く、あなた方のような
頑丈な作りの人間と、しろを一緒くたに
しないでいただきたい」
似た者同士なのは、年の近い叔父と甥。
そして、亡祖母と居候の叱り飛ばし方もよく似ているとか
ちなみに「手離し高い高い」は、文字通り空中高くに放り投げる危険技
そんな関係(12年前)
「よっ! 妙見堂。頼んどいた本入った?」
「入りましたけど…アレ、八兄が読むんですか?」
「うんにゃ。三郎」
「じゃあ、何で本人が注文しないんですか」
「雷蔵にバレんのが嫌なんだってよ。でもって、
兵助には頼んでも断れれるから俺に」
「それでいいんですか?」
「いんじゃね? 三郎のそういう
アホなとこ、俺結構好きだし」
「妙見堂」こと本屋の息子さんは中学生。
竹やんは、商店街メンバーを屋号呼びしてると楽しいな。と思って
なお、ブラコンな天才が何の本を注文したのかは、ご想像にお任せします。
何にしろ、中坊には若干眉をしかめられるような内容のですが
虫の居所(2〜3年前)
「うちの店長見ませんでしたか?」
「孫兵? 見てないけど、何かあったのか?」
「入荷提案に反対したら、黙って出て行ってしまって…」
「今度は何を仕入れようとしたんだ?」
「コモリガエルなんですが、種類ではなく、場所が
無いことのほうが問題で…」
「そういや、最近何件か購入希望断ったって言ってたな」
「そうなんですよ。それで、「減らないから
増やせない」って言ったら何か考え込むようにして
出て行ってしまったんです」
「アイツなりに、何か思うところがあったんだろうな。
どうせ、ろくな客じゃなかったんだろ? 断ったのって」
「はい。…竹谷さんって、店長のことよく解って
いらっしゃいますし、懐かれてもいますよね」
「大丈夫。お前さんが心配していることも、アイツも
解ってるさ。ただ、不器用な所があるから、色々
割り切れないんじゃないかね」
「…そうですね。そうだと、いいですね」
生物委員を絡ませてみたかっただけとか、そんな動機。
初島くんは、いろいろな意味で「虫の伊賀崎」の大事な店員です。
人見知りがちな孫兵が心を許している、数少ない人達。なイメージで
豆腐屋の攻防(現在)
久々知豆腐店店主、久々知兵助(32)は
週末の夕方頃になると身構える。
そして、週末でなくても時折身構える。
理由は一つ。かなり高い割合で
「へーすけー。呑みに行こうぜー」
と、閉店時間前に襲撃を掛けてくる
悪友共がいるからである。
しかし、この週末は無事閉店時間を
迎えることが出来た。
ところが、
「お前ら、どこから入った」
兵助が二階の自室に戻ると、そこには我が物顔で
さっさと酒宴を始めている悪友二人の姿があった。
「窓から」
当然の如く返してきたのは、隣が実家の竹谷八左ヱ門。
確かに、彼らの家(というか部屋)の窓と窓との距離は
その気になれば乗り移り可能な程度で、学生時代は
玄関から家に入るにはマズい時間や状況の時に、
しょっちゅう久々知家経由で八左ヱ門は自室に帰ってはいた。
「…開いてなかったらどうする気だったんだ」
「んなもん、確認してから移ったに決まってんだろ」
やはり当然のような調子で返してきたのは、鉢屋三郎だった。
「ところで雷蔵は?」
いるはずのもう一人の姿が無いので問えば、
「そんな危ないことさせられるか!」
「ってことで、裏口からおばさんに入れて
もらって、今便所行ってる」
いい年こいてブラコン大発揮の三郎と、
ひょうひょうと何かおかしなコトを言う八左ヱ門に、
兵助は毎度のことながら頭を抱えたくなった。
「なら、お前らもその手を使え!」
「いやぁ、俺ら信用ないし」
「雷蔵はちゃんと理由作ってきてるから」
のらりくらりと答える二人の言葉に続けるように、
背後から雷蔵の声がした。
「明後日、朝八時までに油揚げ50枚よろしく。
って母さんが」
「…ななめ向かいなんだから、直接注文に
来たらどうなんだ? たまには」
「今日のお昼過ぎまで、忘れてたらしいよ」
配置は図を参照してくださいませ
(米屋と豆腐屋入れ替えたのは、この「窓から」がやりたくなったからだったり)
なお、不破米店は雷蔵達の伯父か何かが継ぎ、雷蔵母は美術館のもぎりをしています。
よくある話(現在)
「店長。何故、傘がこんなに?」
「ん〜。ああ、それ小松田くんの発注ミス。
6色×3セットって指示したつもりが、
63セット頼んだみたいでな」
「……」
「まぁ腐るもんでもないし、当分
発注しないで済むわけだから、別に
構わないかと思って」
夜バイト出茂鹿は、能天気な店長に
つっ込むのを放棄した模様。
一応この件に関しては、間違ってはいないし
変わり種(現在)
「あ。また無くなっている」
「ん? 何が? 何か足りないもんあったか?」
「いえ。ではなく、最近気に入って
いた商品が、消えてしまったな。
と思っただけです」
「ちなみにどれだ?」
「『白玉あんみつぷりん はちみつ
きなこがけ』です」
「あー、アレは俺も気に入ってた
んだけどなぁ」
「前も、『おつまみくさや(真空パック)』
はすぐになくなっちゃったし、他にも…」
「どうも、俺のイチオシはすぐに消えるみたいだな」
「店長のおススメ、結構好きなの多かったんですけどねぇ」
相手は、お隣の芸大生黒木君(演劇科院生 実家は乾物屋)
この光景を見ていた演劇科の某講師に
「いや、お前らが変だから。このゲテモノ好き共め」
とか後で大爆笑されています。
溜まり場状態(現在)
「ただいまー。今日、ハチもうちで飯食わせて平気?」
「お帰りなさい若。多分、大丈夫だとは思います。
けど、場所がちょっと…」
「誰か、他にも来てんの? ってああ、綾?」
「ええ。しかも、珍しく他の方をお連れになっています」
「…お邪魔しています」
「えーと、仙蔵のとこの…」
「浦風です。綾部先輩に「おいしいもの食べさせてあげる」と
言われ、何故かこちらに連れてこられました」
「と、そっちはいさっくんとこの店員だっけ?」
「そうですよ。今日は藤内と食べに行く約束をしていたんです」
「そういうわけで、何かすいません。いきなりで」
「気にしなくていいよ。いつも結構大所帯だもん。…ね?」
「確かにそうだが、お前が言うな喜八郎。それと、場所明けくらいは
手伝え。若、お帰りなさいませ。いらっしゃいませハチさん。
金吾、食事器具と飲み物の用意。三之助は台を拭け。しろはよそった分を
運んで…ああ、君らはお客だから手伝わなくても大丈夫だ。この中に
辛い物が苦手な人は・・・…」
「今日のメシ何?」
「カレーです。夏野菜と豚肉のカレーのレシピをもらいまして」
「大木のおっちゃん?」
「はい。…ええと、しろ以外は全員大丈夫なんだな。多分、かなり
辛いと思うが…じゃあ、念の為? 解った」
「ねえ」
「はい?」
「いつもここってこんななの?」
「まぁ、おおむねは」
「凄いな。やっぱり、何か手伝った方が…」
「それなら、後片付けの時にお願いします。綾部さんが
来ている日は、僕らで引き受けることになっていますし」
「ふぅん。何で?」
「…滝さんが他の人にばかり構っていると、綾部さんが
拗ねるんですよ」
「………え?」
食後
「姐さーん。これどこにしまえばいいっすかー?」
「その呼び方はやめろといっているだろうが! で、その皿は奥の
…って、きぃ。放せ。動けんだろうが」
「ヤダ。滝ちゃんもう充分働いたもん。休むの」
「大丈夫ですよー。僕場所わかりますー」
「ああ、じゃあしろ、頼む」
「綾部先輩? 俺たちもうお暇(いとま)しますが…」
「そう。じゃあ、気をつけてね」
「先輩はまだお帰りにはならないんですか?」
「泊まってく。いいよね滝ちゃん?」
「好きにしろ。着替えは私のでいいな?」
「うん」
「…こへ兄。いい嫁さんもらったよなぁ」
「本人には言うなよ。物凄い勢いで怒るから」
「ん。わかってる。怒り方が、お袋と似てて怖いの知ってるし」
「…姉ちゃんの怒り方は、母ちゃんそっくりだって
親父が前に言ってた気がする」
「てことは、やっぱ滝ちゃん、祖母ちゃんの
生まれ変わりだったりしてな」
「どうだろうな。…ところでお前は泊まってくのか?」
「どうしよっかな。場所ある?」
「若手と雑魚寝でいいんならな」
「俺はそれで構わないけど、てことは綾部も?」
「いや。綾は滝の部屋。滝に甘えたいから来てるみたいだし」
「そっか。ところで、もう1本開けたら呑む?」
「そーだなー。…三之助、金吾! お前らも飲むか?」
「うっす」
「いただきます」
コレ、どんな状況なんだろう…
とりあえず最後は、男二人晩酌中。片付け終わった若手参加。って感じです
で、滝は綾とかしろの面倒を見つつ、帰宅する子達の見送りとかしてそう
多分わかるとは思いますが、出てきた人間は↓
小平太・竹谷・滝・綾部・金吾・藤内・数馬・次屋 となっております。
冒頭と途中で受け答えしてるのは金吾。訊ねたのは藤内と数馬です。
好き放題楽しんで書いたらば、竹谷ではなく滝と綾がメインに…
ちなみに、綾は滝の母方の従兄設定で、オフ時は小さい頃と同じ様に
「きぃ」とか「きぃちゃん」と呼ばないとむくれます。
Q.何でいきなり竹谷メイン?
A.相方木綿のリクエストだから
(「誕生日祝いに何か書いてやるよ」と言ったら「竹ちゃん!」と即答)
地の文まで考えるのが面倒だったので、元々考えてあった豆腐屋以外は会話のみ
そして、2・3・5年生についてはサービス。滝が出張っているのはカノウの趣味。です
豆腐屋襲撃と赤鬼さんのネタだけバラであったのを、まとめるついでに足して遊んでみました。
2008.6.17
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