〜七五三(しろ5歳 滝18歳)〜

四郎兵衛が七松組に来てから早2年。
今や完全に、若の息子扱いになっており、親父さん(五代目組長/小平太父)や
お嬢(小平太姉/竹谷母)にも、実の孫のように可愛がられている。

もうじき行う七五三も、若やハチさんと同じ着物で同じ位盛大に祝ってくださるのだそうだ。


「よぉ平。小平太はいるか?」
「こんにちは食満さん。若でしたら、親父さんやお嬢と、しろの七五三の打ち合わせをしていますよ」
「それ、お前さんは加わらなくていいのか?」
「私は、細かい調整や当日の手配などはしますが、基本的には決まったことに従うだけで、大筋の所に
口を出す権利はありませんから」
「そうか。…打ち合わせ中ってことは、今行ったら邪魔になんのかね。お袋から届け物があるんだが」
「大丈夫だとは思いますが、ご心配なら預かりましょうか?」
「いや。言伝もあるんで、様子見て来て無理そうなら頼む」
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「ああ。渡せたんですね」
「平。向こうの連中、確かに七五三の話はしてたが、議題は『付き添いのお前に何を着せるか』だったぞ」
「はい? 私?」
「ああ。死んだお袋さんの着物にするってのは決まりらしいが、その中のどれにするかを話しあっていた」



「滝ちゃんはまだ若いんだから、母さんが若かった頃のにすべきよ!」by姉
「しろには小平太のを着せんだから、アイツと同じのを着せてぇ」by父
「俺は、いつだかの正月の写真のやつが好き」byこへ


結局。亡くなった姐さんが若の七五三の時に着たのと同じ着物で写真を撮り、
お嬢が選んだ姐さんの若い頃の着物でお参りに付き添うことになった。
若が着せたかったらしいものは「じゃあ、また今度の機会だな」って、それはいつですか?



〜成人式〜 12月某日。珍しく、喜八郎が私ではなく若に用があると言って訪ねてきた。 しかも、私には秘密の話をするので、入ってくるな。とまで言われた。 いったい何を企んでいるというのだ。 「振袖は、姉ちゃんのと留んちの母ちゃん達のしかなくて、 お袋のだと訪問着とか留袖になるけど、どうする?」 「滝ちゃんに似合いそうなのはどれですか」 「お袋のかな。数もそこそこあるし。…けど、留袖ってのは既婚を表すもんだから「食満さんの お母さん達のでお願いします。双児だから、お揃いで二つあるんでしょう? 実物見せて下さい」 「まぁ、いいけどな」 「なんですか? たとえドピンクや真っ黄色だろうが、乙女な柄だろうが、僕は気にしませんし、 滝ちゃんも開き直っちゃえば何でもアリですよ」 「そうじゃない。逆だ。全てにおいて、どう考えても、カタギにだけは見えないようなやつなんだ」 「どんなのなんですか?」 「…黒地に椿(赤)がお袋。赤地に白椿が叔母さんの。帯は、お袋のが銀で叔母さんのは金」 「うわぁ。そりゃ確かに派手だな」 「食満さんのお母さん達は、何者なんですか?」 「彫師の娘。…親父は元々祖父さんの弟子で、入婿なんだよ。一応は」 私が一緒に振袖を着るのでなければ、成人式に出ない。だと!? 何を考えている喜八郎。 「いっそ開き直っちゃった方が、マシなんじゃないの?」か。ああ確かにそうかもしれないが、 そもそも成人式に出る気などないんだ私は。どうせ、妙な噂のネタにされているのだろうからな。 その噂を増長させてどうする。…何? 「今更だと思うけど」? うるさい。絶対に行かないし、 着ないからな。……え? 何ですか若? 成人式に出席はしなくてもいいけど、写真だけは撮れと?
〜入学式(しろ中1 滝26歳)〜 四郎兵衛も、もう今日から中学生になる。ここまでの歳になれば、流石に私の性別に対する誤解は なくなったようだが、相変わらず若や周囲は事あるごとに女物を着せたがるし、初対面の相手には 未だによく間違えられる。 しかし、今回はスーツなのだから、大丈夫だと思いたい。 「もしかして滝ちゃん? 久しぶりねぇ。あたしのこと覚えてる? ピアノ教室の…」 「え? もしかして、『先生のお嬢さんなのに、ピアノが全くひけない照代ちゃん』??」 「……。あってるけど、その思い出し方はヤメテ」 「すみません」 「それにしても、滝ちゃんやるわね。子持ちヤクザの後妻だなんて」 「は? 違います! 」 「あら、違うの。じゃあ、愛人?」 「それは更に違います! 私も四郎兵衛も、訳あって七松組のお世話に なってはいますが、親子や家族ではありませんから」 四郎兵衛の新しい担任となった北石照代さんは、私の旧知だが、思い返してみると まだ母の行動に疑いを持たずに、スカート姿で小学校に通っていた時期の知人である。 ということで、誤解を解くのが実に面倒臭かった上に、結局女友達扱いなのですが…
おまけ 滝自身の卒業式(大学) 「滝ー。卒業式ん時の格好なんだけど…」 「絶対にスカートははきませんし、着物も袴も着ませんからね!」 「うん。親父と姉ちゃんが、スーツ仕立ててくれるってさ」 「そうですか。それはありがたいですね。…では、お礼とお返しの品を用意しないと」 当日の野次馬コメント 「……滝ちゃん気付いてないけど、あのスーツ、ボタンの合わせが女物ですよね?」 「言わなきゃ気付かねぇだろ。ラインも男物にしちゃ細すぎるというか、ウエストあるし」 「普段女物か、それに近いデザインのものばかり来ている所為で、違和感を感じんのだろう」