夏休みに入る少し前の事。用があって職員室に顔を出したら、とある先生が馬鹿笑いしているのに遭遇した。
その先生は、普段は少しお固いクールな美女と評判の人だけに、周りの先生方の殆どがドン引きしていたので、
旧知で親しいと認識されている僕が、代表して声を掛けるしか無いと判断し、
「……。何か、面白い事でもあったんですか、三波先生?」
そう訊ねると、彼女―5年2組の担任の、三波藤菜先生―は手にしていたプリントを僕に見せて来た。それは、
夏休み中の職業体験ボランティアの受け容れ先のリストで……
「ここに、うちの3馬鹿を行かせたら、面白いことになりそうだと思って」
「えーと…『吉野工務店』?」
示されたのは、市内の小さな工務店の名前で、引っ掛かるものがあるような無いような。
「うちの卒業生の父親の勤め先で、妹の後輩の友人も居るんですけどね」
まだ笑いをこらえている三波先生は、周りに通じないようにか、あえて名前を伏せていたけど、ソレでピンと来た。
「吉野先生の工務店で、食満先輩や平太が居るわけですね」
「その通り」
僕と三波先生と、彼女のクラスの3馬鹿こと富松・神崎・次屋の3人と、その工務店の皆さんは、前世の知り合いで、
特に工務店の人達と元富松作兵衛先輩こと富松作楽くんは、同じ用具委員会だったという繋がりがある。
「最近作の記憶が戻ったし、食満先輩も平太も、一応記憶はあるらしいから」
一応少し小声で話す三波先生―こと浦風藤内先輩―は、何だかとても楽しそうだった。……そう言えば、この間の
社会科見学で、自分と彼氏の伊賀崎孫兵先輩のことをバラした時も、かなり楽しんでたよなぁ、この人。
その後。夏休み明けに引率した本人から訊く前に、何か色々経由して聞いた話に依れば、富松先輩は案の定
パニックを起こし、他に参加していた中にしんべヱ・喜三太まで居たらしく、更に色々かつてより酷い感じの
騒動になったようだけど、食満先輩の対処がお見事だった上、平太も成長した分うまいこと動いていたとかで、
それなりにすぐ収拾はついたらしい。
前から考えていたけど書き忘れていたもの。
語り手は、伊助ちゃんと左近のどっちだろう
2010.8.28
戻