引き裂かれた運命の人へ十の言葉(転生 鉢雷)
※04、07、09は若干本編ネタバレ含んでます(匂わす程度ですが)
(特に表記が無い場合は、雷蔵ことなるみちゃん視点です)
01.これは運命の悪戯
昔、もしも輪廻転生があったとしたら、誰よりも一番しっかり全部を覚えているのは三郎だろう。
なんて話をしたことがあって、
「だとしたら、意地でも雷蔵を探し出して物にするんだろうな(笑)」
そんな風にからかうみんなに、三郎は「当然だ」と返していた。
それなのに、実際生まれ変わってみたら、誰よりも綺麗さっぱり覚えていないかった。
そのことは、少し寂しいけど別に構わないというか、仕方ないと思う。
だけど、記憶は無いのに三郎はあの頃の三郎そのままで、前世の記憶な夢の話をしている時は、
特に昔のようなのに、相手が僕なことには気付いていないのがもどかしくて哀しい。
そんな風に感じるのは、前世の関係を覚えている所為だと思うけど、同時に今世では異性で、
記憶があやふやだった小さな頃の初恋が三郎だったのも、二重に辛い原因な気がする。
こんな思いを抱く位なら、僕も何も覚えていない状態で生まれて来たかった。
もしくは、今世でも同性に生まれていたら、もう少し割り切れていたのかな。
02.もう一度戻りたい
まだ、小学校に上がる前位の、うんと小さい頃。
僕は前世のことを明確には思い出していなかったし、思い出した内容についても、あまり深く
考えていなかった。
そして、三郎やハチとはその頃からの付き合いで、ハチも思い出したきっかけや時期は特定
出来ないらしいけど、僕よりもずっとハッキリ色んな事を覚えていたからこそ、何も覚えて
いない三郎が、「ナルをお嫁さんにする!」と宣言していた保育園時代は、「相変わらずだな」
って呆れてたらしくて、10歳の時にある日いきなり夢での話をし始めた時、最初は
「ついに思い出したか、思い出せてないけど染み出てきたか」
とか思ったんだとか。
だけど、ピント外れな「運命の人」なんて結論に至ったのを聞いて、思いきり呆れると同時に、
僕のことをすごく気遣ってくれてもいたらしい。
だけど僕は、最初に三郎がそんなことを言い出した時は、まだ記憶が曖昧で、その「夢の相手」が
自分だとは思わなかったから、笑って流していた。
そのことが、記憶が鮮明になるにつれて、こんなに辛い結果を招くなんて、考えもしなかった。
できることなら、あの頃にもう一度戻りたい。
でも、「あの頃」って、前世と、三郎が夢を見出す前と、自分の記憶が曖昧だった頃の、
どれなんだろう??
03.あの頃と今は、違う
かつて僕達は、忍者を目指す学校に通う友達同士で、君―鉢屋三郎―は素顔不明の変装名人で、
君が一番よく使っていたのは、僕―不破雷蔵―の顔。
何で僕だったのかなんて知らない。
だけど君は、何故か僕の、顔も、性格も、何もかもを好いてくれて、いつも僕の隣には君が居た。
でもそれはいわゆる「前世」の話で、今の私―不破なるみ―と君―蜂屋三郎―は、親戚でも
何でもなくて、性別も違うのに何故か瓜二つで、保育園の頃に知り合って以降、ずっと友達
だけど、年頃の男女になってしまった所為か、君は私よりも、他の同性の友達―勘ちゃんとか
ハチとか―との方が仲が良い。
私は前世を覚えているけど、君は何も覚えてないんだから、それでも仕方ないかもしれない。
それに、私も昔はおぼろげだった記憶が徐々に鮮明になってきていて、いきなり思い出す人
なんかも居るらしいから、君も何かのきっかけで急に思い出すかもしれない。
だけど、万一君が―全部でなくても―思い出したとしても、きっと昔のようには戻れない。
そんな気がしてならないのは、何故なんだろう。
04.こうなる事は宿命(さだめ)だった
全部、思い出した。
そうか。だから君は、僕の事を忘れてしまったんだね、三郎。
そして僕のことを思い出さない為に、他のみんなのことも、全部忘れてしまった。
うん。仕方ないよ。だって、そうでも無かったら、君は耐えられなかったんでしょ?
だから、良いよ。そんな思いをさせてしまった、僕が悪いんだもん。
そしてね、細かいことは忘れてしまっていても、アノ頃のことだけは思い出してくれて、
それを幸せな光景だと思ってくれているなら、もうそれで良いよ。
何も覚えていなくて背負うものもない、まっさらな君と、もう一度一から始めればいい。
その機会を得る為に、こういう形で再会したんだ。
そう、思うことにしたから。
05.いつか、こんな柵(しがらみ)絶ち切れたら
(ハチ目線)
俺には、4人の親友が居る。
内2人は保育園。1人は小学校。最後の1人は中学に上がってから知り合った。
……ということに、表向きはなっている。
けど、正確には「再会した」の方があっている感じで、俺ら5人は、前世でも友達だった。
俺以外でそのことを覚えているのは、保育園から一緒の雷蔵と、中学でようやく合流した
勘の2人だけで、残る2人―三郎と兵助―はさっぱり覚えていない。しかも雷蔵は「なるみ」、
兵助は「歩」が本名―「雷蔵」と「兵助」ってあだ名(?)は勘が付けた―の女子に生まれ
変わってたりもする。
それでも俺らは親友で、2人が覚えてないのはちょっと淋しいけど、それなりに上手くやっている。
ただし、問題はある。
俺ら以外にも、同じ時代で知り合いだった記憶を持って生まれ変わってて、今世でも知り合いな人は
そこそこ居る。
その中には、ある日いきなり記憶が甦った人や、断片だとか薄ぼんやりとしか覚えてない人も勿論
いて、雷蔵も徐々に鮮明に思い出している口だったりする。
だから、何年か前から三郎が「夢で見た」と語る内容が、前世の光景でも、何もおかしなことは無い。
問題は、それが前世の記憶であることを告げ損ねていることと、その夢に出て来る相手―雷蔵―を、
三郎が「運命の人」と信じ込んでいること。
リアリストを気取っているくせに、そんなロマンチストのようなことを抜かす三郎に、俺と勘は
真実を知っているから大いに呆れ、兵助も客観的目線で見ているからこそ冷たい。
そんな中雷蔵は、始めに三郎が夢の話をした時には、明確に覚えていなかったので苦笑しつつ呆れて
いた所為で、今更真実を告げても信じてもらえないけど、かといって、万一「運命の人」に該当する
相手を見つけてしまったら、自分はきっと耐えられない。
そうやって、ずっと悩んでいるのに、表向きは相変わらず苦笑しながら三郎の語りを聞いているだけ。
正直、俺も勘もそんな雷蔵は見てらんないし、兵助も何かがおかしいことには、気付いているっぽい。
だから、いっそ三郎に全部バラしてぶん殴ってやりたい位だけど、そんなことしても雷蔵は喜ばない
というか、多分怒る。
そんな訳で、今の所俺らには何も手出しが出来ない。
けど、いつかは状況を打破できたら良いと思うし、どう転んでも、三郎には一発食らわさないと
気が済まないんだよな。
06.もしこんな関係ではなかったならば
かつて―室町の世の―三郎は、変装の名手で、常に誰かに変装していて、素顔は誰も知らないとの
噂もあり、好んで使っていたのは僕の顔だった。
だから僕達が同じ顔をしていたのは、ある種必然のことだった。
けど、今世の三郎は、色んな意味で器用で、大抵の事は容易くこなしてしまう天才で、モノマネ
なんかも上手いけど、変装はしていない。
だけど、保育園で顔を合わせた時から、双方の親が隠し子か親戚なんじゃないかと疑った位、僕達は
そっくりで、だけど実際は全くの赤の他人だったりする。
こんなにもそっくりなんだったら、いっそ双児か兄妹にでも生まれていたら良かったのに。
そうしたら、三郎が前世のことを覚えてないことも、「運命の人」を探していることも、少し
淋しいと感じたり呆れたりはするかもしれないけど、こんなもどかしい気持ちを味わうことは
無かったのに……
07.どんな事になっても、失いたくない
(三郎目線)
10歳を越えた頃から繰り返し見る夢がある。
その夢の中の俺には、誰よりも―自分自身よりも―大切な人が居て、その人の傍に居る為なら
何だってするつもりだし、実際出来ていた。
顔や細かい情景は靄が掛かったように見えなくて、その人の声も、自分がその人を何と呼び、
どんな話をしているのかも、目が覚めた時には何一つ記憶に残っていない。
それでも、私にとってその人が何者にも代えがたい大切な存在な事だけは解っている。
繰り返し見るけれど、その度に情景の違う夢の中で、俺はその人と、あと何人かそこそこ大事な
連中と常に一緒に居て、周囲からも俺達は2人セットだと認識されているようだった。
その夢の話をする度に、ハチや勘には呆れられ、くぅは冷たく、ナルは聞いてはくれるが何故か
泣きそうな顔をする。そのナルの表情と、夢の中の人が2重写しになることがあったり、勘が
ナル達に付けた妙な仇名が、何となく引っ掛かる気がすることがある。
そう話したら、ナルにもハチ達にも何故かやけに期待に満ちた顔をされたけど、理由は相変わらず
言おうとしなかった。
あの夢の中の人は、きっと私の運命の人だと思う。そう感じる一方で、ナルの泣きそうな顔は
見たくないし、何となくだが、ナルは常に俺の傍らに居るのものな気がすることもある。
と―流石にこんな話はナル本人やくぅには言えないので―、ひとまずハチと勘の奴に話してみたら、
「お前、もっぺん死んでこい」
と罵られたが、「もっぺん」というのは「もう一遍」ということだよな。だとすると、一度
死んでいる前提になるぞ? と返そうかと思ったが、何だかまた引っ掛かる感じがしたので、
ひとまず何も言わないでおいた。
よくよく考えてみると、あの夢の中の人とナルは、似ていなくもない気がしなくもない。
でも、多分あの人はナルじゃない。何故か、それだけは断言できる。
けれど、ならばもしも夢の中の運命の人に出会えたとしたら、俺はナルを手放すことが出来るのか。
そう考えてみたら、それは至難の業のような気がして来た。
夢もナルも失いたくない。それが俺の出した結論で、最低なのは重々解っている。
だけど、それ以上は気付いてはいけない。そう、頭の片隅で警鐘の鳴っている音も聞こえるんだ。
08.近くにいるのに触れられない
僕と三郎は、前世の友達で、今も友達。
だけど、前世の時みたいに、気軽に触れ合うことは出来ない。
三郎は前世のことを覚えていないし、何故か今世では生まれ付きそっくりだけど、親戚でも
何でもなくて、僕が女の子に生まれて来てしまったから。
それでも、一応保育園からの付き合いだし、僕は相変わらず割と大雑把な性質だから、僕の方からは
小さい頃の名残で性別なんか気にして無いような振りをして、三郎だけじゃなくて、同じく前世からの
男友達なハチや勘ちゃんとも、気安くスキンシップを取ったりしている。
でも、三郎は妙な所が真面目で無駄に紳士―そういえば、いつだったかハチとケンカした時に、
「この変態紳士!」って罵られてたなぁ―だから、記憶が無いからキチンと女の子な兵助は
ともかく、男だった記憶があって雑な僕まで、ちゃんと女子扱いをしてくれる所為で、最近は
「もうちょっと淑やかにしろよ」
とか言って、遠ざけられてる気がしなくもない。
ハチや勘ちゃんには、「覚えてないけど意識はしてる」ってことじゃないかって言われたけど、
それはそれで何となく寂しい。だって僕は、三郎の恋人というより、肩を並べた親友にもう
一度なりたいんだから。
それに、ここ数年三郎は、夢で見る「運命の人」を探していて、その夢は実は前世の記憶だから、
前世の自分に嫉妬するなんて、何か嫌だし。
09.やっと、見つけた君を
ああ、そうか。だから君は何も覚えていないんだ。
1つでも思い出したら、それを引き金に、全部思い出してしまうかもしれないものね。
君にとっての最後で最大の後悔を引き摺らない為に、君は全て忘れて生まれて来たんだ。
でも、それなのに夢に見るだなんて、素直じゃなくて往生際悪いよね、相変わらず。
思い出したくないのに忘れたくない。だから細部のぼやけた夢を見る。
ホント、なんて君らしい天の邪鬼な解決法。
きっと君は、この先も夢は見続けるだろうけど、思い出さないし結びつけない。
それが君の選んだ最善の道だったんでしょ?
それが解ったから、もう良いよ。過去の君を、今の君の中にちゃんと見つけた。
君が忘れてしまっていても、僕が全部覚えている。だから大丈夫。
10.生まれ変わっても、君を必ず見つけ出す
前世の三郎は、いつも誰かの変装をしていた。
だから、いずれ道を別ち、見知らぬ人の顔をしていたら、再会しても気付かないかもしれない。
そう言われた時、僕もハチも兵助も勘ちゃんも、
「たとえ誰の顔をしていたって分かる」
って答えた。
「そうか。ということは、何某かの事情があってお前らの前から姿を消したいと思ったとしても、
無理ということか」
「だな。意地でも探し出してやるから、覚悟しとけ」
「そうそう。俺らが納得しての事じゃなかったら、逃がしてやんないから」
「それが嫌なら、黙って消えたりはするなよ」
「どこで誰の振りをしていたって、必ず見付けだしてみせるよ」
冗談めかして、でもいつか本当にいきなり消えてしまうかもしれない三郎に、みんなでそうやって
茶化して答えたら、
「ならば私は、生まれ変わってもお前らをちゃんと見つけてやろう」
ニヤリと笑って、そう返された。
それから時が経って、みんなバラバラになったけど、僕と三郎は一緒で、危険な忍務の度に、
「たとえ死んだとしても、生まれ変わって、君を必ず見つけ出す。だから、待っていてくれ」
そうやって誓ってくれた。
なのに、一緒に生まれ変わって、また巡り逢えたのに、君だけ僕達の事を覚えていないのは、
何でなの三郎?
配布元:リライト
日記もどきにポツポツ挙げていた物(+α)です。
お題を見た時に「イケる」と思ったんですが、内容が被ったものばかりになってしまいスミマセン。
転生鉢雷編はオチだけ決まっているのですが、間を書く気力が足りなくて……
2013.2.14
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