まず、入寮日に寮の前で何やら大騒ぎしている奴らが居て、その片方が
同室者だと判明した。その時点では、関わりあいになる気は特になかった。
しかし同室になった”奴”が、荷物の片付けもそこそこに
どこかへ行こうとしやがったから、行先を訊いたら開口一番
「お前には関係ない」
その言い草がムカついたんで、問い詰めたら
「…お前も騒ぎは見ていたな? あの相手と、話をしにいく。
言っておくが、もうあんな騒ぎにはならんから安心しろ。
元々、古い友人なのだが、少々釈然としない点があってな」
無理矢理ついていったのは、好奇心か気の迷いのどちらかだ。
最初の印象は、「アノ騒動には似合わんような、目立たない奴だな」ってな程度。
成り行きで”アイツ”が兄貴の代わりをしている女だと聞かされても、”奴”の方が
よっぽど女みてぇな面に見えたから、言わなきゃ誰も気づきゃしねぇだろうと思った。
その後も成り行きで奴らとつるむようになり、気付いたら”あの野郎”との小競り合いやら、
部活(柔道部)やら何やらで作った傷を、”アイツ”に手当されんのが日常になっていた。
初めの内は「かすり傷程度で大げさだ」と突っぱねもしたが、実例を挙げて
理詰めで小言を言われるのにうんざりしてきて、折れたような覚えがある。
そんで、手当されてる最中は、小言や話に適当に相槌を打つ以外は―自分から話を振んのは
ガラじゃねぇんで―特にすることもなく手持無沙汰なんで”アイツ”の観察をし始めてみた。
何の気なしに、思いつきで始めただけの、ただの暇つぶしなんで、
「放課後だってのに、寝ぐせついたままかよ」
「体育の授業中に、顔でボール受けたのか。跡付いてんな」
みたいな下らないことしか思わなかったが、次第に
「まつげ長ぇ」
だの
「奴ほどじゃねえけど、コイツも色白いよな」
だの
「一昨日すっ転んだとかいう傷は、ほとんど治ったようだな」
だの
「あの連中が躍起になって守ろうとする気持ちが、解らんでもないかもな」
だのと、妙な考えがよぎるようになった。
しかしそれを口に出したとしたら、物凄い嫌な顔をされるどころか、下手したら縁を
切られ兼ねないだろう。ってのも、その頃―中2の夏前くらいだったか―には解る
ようになってたんで、多少興味は湧いたが、それまで通りの態度を変えはしなかった。
ただ、普段つるんでる時なんかに、目の前でこけたりだの階段から落ちそうに
なったり物が降ってきたり飛んできた場合、それまでは「他の連中が庇うか
自力でどうにかするだろう」と放っておいたのを、たまに手を貸してやったり、
物を落とした奴を怒鳴りつけたりはするようになった。
そうすると、パッと見よりは細かったり、注意力以上に運が足りないことが
なんとなくわかってきて、「危なっかしい」って意味で目が離せなくなった。
初めて女装姿(ってのも変だが)を見たのは夏休みに入ってからで、純粋に
「こういう格好もアリだな」
と思ったが、「妹の話」ってな形でアイツ自身について訊いてみたのは、
ただの好奇心と暇つぶしでの観察の延長だった。……と思っていた。
そうでないと自覚したのは、中3の秋ごろか。
そっから2年弱、隠し通して黙ってたんだから、大目に見ろってんだ。
ああそうだよ。口が滑ったんだ。
でもまさか、軽く「いいよ」なんて返事が返ってくるとは思わねぇだろ。
…何だよその顔は。とにかく、そういうわけだから、アイツのことを思うなら、
お前一人くらいは認めろ長次。ここまでしゃべったのは、お前相手だからだ。
もう、延々説教やら嫌味だなんだ言われんのは御免なんだ。勘弁してくれ。
無月独白シリーズ最後。文→伊です。
「現パラなんだから、所詮は中高生の小僧だよなぁ」
とか思ったら、青臭いガキになりましたよ潮江さん。
まぁ、精々頑張るがいいよ。本人も周囲もかなり手ごわいからさ。
『甘い毒』以降、企画の無月は全部同じ路線でいくことにした際、
・ 各人の一人語り
・ 個人名は1回しか出さない
って所だけはそろえようと決めたのですが、これだけのゆるい縛りなのに、潮江さん目線だけかなり苦労しました。
「本人に対して語っていないから」というのと、「他の連中をひとまとめにし辛い」が原因ですかね。
あとは、本人の口調の問題もありますけども。
(判るとは思いますが「奴」仙 「アイツ」伊 「あの野郎」留 「あの連中」保護者トリオ です)
オチが中在家さんなのは、うまく〆られそうになくなってきたので苦肉の策だったり…
ついでにタイトルは「味」かつ「甘」に統一してみましたが、「やっつけ仕事くさいなぁ」と自分で思います。
日記もどきにひとまず書いておいたのと、これだけ違いますし(「甘」も揃えたかったというよりは、
単に書いてる内に仮題が似合わない気がしてきたからってだけです)
色々グダグダですいません
2009.2.7
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