私立大川学園の男子寮の一室にて。
「鍋やるから各自材料持ち寄って集合」
とのメールで招集された友人3人+部屋の主と同室者の計5人が囲むテーブルの、中央に置かれたカセットコンロの
上の土鍋を満たすのが、ほんのり黄色みを帯びた白い液体-豆乳ベースのスープ-であることは、招集主が豆腐小僧
こと5年い組の久々知兵助な時点で、全員予想済だった。しかし、

「豆乳鍋の具材が、豆腐と油揚と厚揚げとガンモドキ以外はオール肉って、おかしいだろ!」

持ち寄った食材の偏りにツッコミをいれた三郎自身、肉ではないがブリの切り身とつみれな時点で、野菜類は皆無だった。

「オレは、野菜は勘とか三郎が用意するかな、と思って」
「僕も、何の野菜を用意したら良いか悩んじゃったからお肉にしたんだけど、何肉が良いかわからなかったから、
 鳥と豚と牛を1パックずつにしたけど、やっぱり白菜とかネギの方が良かったよね」
「おれが用意したのは、白滝とマロニーちゃんと〆用のうどんだよ」

何せ「何食う?」「肉!」な食べ盛りな男子高校生の集団であるからして、全員が全員「自分以外の誰かが用意するだろ」と
思って肉を用意していても、不思議は無い。とはいえ、豆腐製品と肉と魚と白滝とマロニーだけの豆乳鍋って!  ということで、

「購買行けば、何かあるんじゃない?  今日は大木コーチ来てたし」
「そうだね。売れ残ってるかわからないけど、見に行っても良いかも」
「葉物野菜は売り切れてても、ネギとニンジン辺りなら残ってそうだしな」

何故学校の購買で野菜を売っているのかというと、元職員で現在はバレー部の外部コーチをしている農家のおっちゃんこと
大木雅之助が自家製の野菜を卸しているからで、顧客は食堂のおばちゃんに教職員に家庭科部員他、そこそこの売れ行き
だったりする。
そんなわけで、運良く残っていた白菜と太ネギと大根を買って来たが、

「白いな」
「白いねぇ」
「ここまで白いと、いっそ見事だな」
「なぁ、誰だよ。わざわざネギの白い方入れた奴」
「あ、おれ。折角なら、その方が面白いかと思って」

そんな、色味の乏しい鍋を、それでも美味しく平らげた後。
「そういや、何で急に鍋やることにしたんだ?」
と尋ねると

「今日は豆腐の日だから、折角なんで豆腐食おうと思ったから」
「いやいやいや。お前、1年365日エブリディ豆腐小僧だろ。お前の食事に豆腐製品が入ってないことなんか、見たこと無いし」

普段の食堂での食事や外食は言うに及ばず、校外学習や遠足の弁当でも、高野豆腐やら白和えやら豆腐ハンバーグやら
インスタントの豆腐の味噌汁やら、何かしら豆腐モノ食ってるだろお前。とのツッコミに、兵助は「俺はな」と端的に
返した。

「あー、つまり、おれらにも豆腐を食わせよう。ってことかぁ」
「確かに、折角だったらみんなで食べた方が楽しいよね」
「まぁ、たまには豆腐三昧でも良いかもな」
「たまには、な。年に数回なら許容してやるが、この際だから言わせてもらうと、共用の冷蔵庫に怪しい豆乳を
 ストックするのは止めろ、兵助」

ちょうど良い機会だから。と指摘した三郎に、兵助は

「怪しい?  どこが。俺は市販の豆乳しか買って来てないぞ」

と返したが

「市販されてはいるが妙な味ばかり買って来るのは止めろ。と言っているんだ!  アップルパイに甘酒に焼き芋に
 健康コーラって、どこで売ってんだよ!」
「駅前のスーパー。定番ばかりだと飽きるから、新商品が出ていたらよっぽどで無い限り買うことにしてるけど、
 どれも結構美味かったぞ」
「兵助も買うのを躊躇う『よっぽど』って、どんな味があるんだよ」
「青汁は、別のメーカーから2種類出てたけどどっちも買わなかったし、コンビニで見掛けた黒糖風味のユーグレナと、
 確か去年買った時味がキツすぎたしょうがは悩んでる。あと、買ったけどまずかったのは、トマはちだな」
「うわぁ、それ全部実在するんだ」

指折り羅列する兵助に、他のメンツもドン引きしたが、全て実在の商品かつ、甘酒以外はこの話の書き手が実際に飲んだ
感想ですが何か。ということで(?)、豆腐小僧は歪みなくどこまでも豆腐小僧なのだった。
 




他の「今日は何の日」ネタのついでに、久々に書いてみました。 文中にもある通り、豆乳履歴は私自身のです(笑)