とある休日のお昼過ぎのことです。セブンもマンも他の兄弟も母も用事があり、たまに預かってくれる近所の
	お兄ちゃん達―ティガなど―も都合がつかなかったということで、ゼロとメビウスがレイの子守りと留守電を
	任されることにました。

	「なるべく早めに帰ってくるようにするから、ゼロとメビウスはレイの世話を頼んだ。レイは、お兄ちゃん達の
	 言うことをちゃんと聞いて、良い子にしてるんだぞ」

	セブンがそう3人に言い聞かせると、メビウスは元気いっぱいに
	「任せて下さい! セブン兄さん」
	ゼロも珍しく素直に
	「任せとけ親父」
	と自信たっぷりに答え、そんな2人の様にセブンは満足げでしたが、隣に居たマンは若干不安な気がしたので、
	「火元には気をつける」「知らない人は絶対に家に上げない」などの諸注意から、昼寝の時間やおやつの場所
	などを、
	「解ったから、もう行けよ」
	とゼロに言われるまで、念押ししていきました。


	そんな訳で、メビウスと一緒にレイの子守りをすることになったゼロは、メビウスの方が一応年上だけれども、
	自分の方がしっかりしているし、実のではないとはいえレイの兄は自分な訳だし、父のセブンに良い所を見せ
	たいと思い、内心かなり張り切っていました。しかしレイは、普段から部屋の隅の方で1人で遊んでいることが
	多い子なので、ゼロやメビウスが構ってやらなくても、黙々と積み木を積んだり絵本を眺めたりしていました。
	それでもメビウスは、
	「何作ってるの? 僕も一緒に作ってもいいかな?」
	「そのご本、読んであげようか?」
	などと、押しつけがましくない程度に声を掛け一緒に遊び、更にゼロも一緒に遊ぼうと声をかけてくれました。

	そしてお絵描きの最中に、昼寝の時間になりレイも眠そうだったので、
	「僕がお片付けしておくから、レイちゃんを寝かせておいでよ。……レイちゃん、ゼロお兄ちゃんがお昼寝前の
	 ご本を読んでくれるから、好きなの選んでおいで」
	と、2人に提案してくれました。そこで、メビウスに主導権を握られているのは気に入らないものの、レイが
	お気に入りの絵本を抱えて見上げてくるので、セブンが読んでやっている様を真似して、頑張って読んでやり、
	眠ったのを確認してから戻ると、台所の方から何だか焦げ臭いにおいがしました。

	「あ。ゼロくん」
	「……何やってんだ、お前」

	ゼロの目に入ったのは、マンのと思しきエプロンをつけて台所に立ったメビウスが、炭にしか見えない何かを
	作っている様でした。

	「マン兄さんのおやつもあるけど、折角だから僕も何か作ろうと思ったんだけど、難しいねぇ」

	どうやらメビウスが挑戦しようとしたのは、ホットケーキのようでしたが、フライパンでホットケーキを綺麗に
	焼くのは、案外難しいのです。しかも……

	「汚っ。このグチャグチャな台所片付けんのは、俺かよ」

	流しもコンロも道具も、粉と割り損ねた卵とこぼれたタネとで、ベトベトになっていました。しかも、焦げ付いた
	フライパンの焦げを落とすのも一苦労なわけです。

	「ごめんね。でも洗い物もちゃんとやるから、ゼロくんは心配しなくて大丈夫だよ」
	「いい。俺がやる。お前じゃ、今度は洗剤ぶちまけた挙句に皿割ったりしそうだし、焦げも落としきれねぇだろ」

	そう言ってメビウスを台所から追い出したゼロは、レイが起きてくるまでにどうにか台所を綺麗にし、メビウスが
	作ったタネを―ちょっと焦がしはしたものの、メビウスよりは遥かにうまく―焼き、その中で一番綺麗に焼けた
	ものを、レイにあげました。

	「こういうもんは、出来たてを食うんでないと意味が無いんだから、昼寝し出した時に作ってどうすんだよ」

	焼きながらそんなことを言っていたゼロに、メビウスは感心して

	「うん。そうだね! じゃあ、今度からはそうするよ」

	と目を輝かせて拳を握りましたが、ゼロ的には止めて欲しい感じでした。


	そんなこんなで、どうにか夕方まで子守りと留守番こなしていると、セブンとマンが帰ってきましたが、セブンの
	様子が妙―何やら無駄に嬉しそうでニヤついた感じ―なようにゼロには見えました。しかし何となくげんなりした
	様子のマンに、目で「何も訊くな」と言われたような気がしたので、流すことにしました。そして、労いの意も
	兼ねたメビウスも一緒の夕飯中に、セブンに請われて留守番中のことを話している最中の
	「レイちゃんはとっても良い子にしてましたし、ゼロくんも頑張ってて、良いお兄ちゃんでしたよ」
	とのメビウスの証言には
	「別に、大したことはしてねぇよ」
	と返しつつも、照れを隠しきれず、
	「ぜろ、ほんよんでくれた。せぶんのほうがじょうずだけど、ぜろもたのしかった」
	「そうかー。じゃあ、折角だから今日は夜寝る前の絵本もゼロに読んでもらおうか」
	そんなレイとセブンのやりとりと提案にも、
	「……仕方ねぇな」
	と返す程、デレ全開でした。



							☆



	ちなみに、セブンの様子が妙でマンがげんなりしていた原因は、実は用事も他の人達も都合がつかなかったことも
	嘘で、こっそり隠しカメラ&盗聴機を家の中に仕込んで「初めてのお留守番」を、録画しながらずーっと見ていた
	からだったりします。しかも

	「十何年か前に、丸きり同じようなことした人が居ましたよね。……アノ時は、メビウスがちょうどレイと同じ
	 位で、エースが今のゼロ位でタロウはまだ小学生でしたっけ? それで、エースが外に遊びに行くことにして
	 しまった所為で、結局大半が撮れず、代わりにビデオカメラを持って隠し撮りに行ったら補導されかけて……」
	「でも、あの時も今回も、そうやって呆れつつも止めなかったじゃないか、マン」

	メビウス3歳、エース13歳、タロウ11歳の時に今回と同じようなことをして職務質問を受けかけたのは、当時
	既に20代半ばだったゾフィー(現在アラフォー)で、高校生だったマン・セブン・ジャックの3人はそんな兄に
	思い切り呆れつつ、面倒なので放っておいた訳です。けれども、その当時実はゼロが居た―存在を知っていた
	のはマンだけ―セブンが、まさか同じことをするとは……。そんな風にマンが頭痛を覚えていると

	「だから今回は、雨の日を狙ったし、レイは元々そんなに外遊びをしたがる性質じゃないし、万一の時には
	 21に頼んであるから大丈夫だ」

	無駄に自信たっぷりなセブンから、そんな答えが返ってきました。

	「頼んだって、何をどういう風に?」
	「アイツ小型のカメラ持っているらしいし、普段から妙な行動が多いから、雨の公園に居ても違和感無いだろ?」
	「……否定し難いけど、まさかそのカメラって盗撮用のピンホールじゃないよな」
	「あー。その可能性はあるかもな」

	頼む方も引き受ける方もおかしいし、そもそも何を考えているんだ21! と本気でマンは頭が痛くなりましたが、
	もはやツッコミを入れるのも面倒なので流し、次の仕事の資料に目を通したりお茶を淹れたりしながら、横目で
	画面や、映像の中の息子達や弟の行動を嬉しそうに見ている親友兼弟―兼同僚兼同居人―を眺めている最中に、
	ふとかつてのことを思い出しました。

	「職質をどうにか誤魔化して帰ってから、同じく帰宅したあの子達の映像を見ていたら、何も知らずに兄さんを
	 訪ねて来たヒカリさんに、メビウスが思い切りはしゃいだのに妬いて、すぐさま戻ることにしたのが、前回の
	 終わりでしたよね」

	アノ頃からメビウスは、ヒカリさんに懐いていましたよねぇ。などとマンが苦笑すると、ゾフィーは

	「……ヒカリちゃんのむっつりスケベー。あーんなちっちゃい頃から知ってる子に、手を出すなんて。しかも
	 まだまだ若いつもりでいるみたいだけど、もうオッサンなのにー」

	等々ぶつぶつ呟き始めた為、マンは内心

	(年に関しては、同い年だから兄さんも充分オッサンなのに、この大人げなさは問題だろう)

	と思いつつも、こちらもまた流すことにしたようですが、
	「なぁ、マン! 今の見たか!?」
	と興奮したセブンに話しかけられたり、ヒカリとメビウスに関してから
	「タロウもエースも、小さい頃は可愛くて私を慕ってくれてたのになぁ」
	まで、様々なグチを延々とゾフィーに聞かされていたマンは、帰宅する頃には夕食を作りたくない位に消耗して
	いましたが、可愛い弟と甥っ子達の為に、ちゃんと彼らの好物を作ってやる位には、彼も可愛がっているのです。




ダメな所ばっかり似ている警備隊兄弟。 しかも後日この話を他の兄弟にもすると、「録画映像ダビングして下さい! 両方の分!!」と元末弟に言われ、 マンさんやジャックさんは、より一層「ダメだコイツら」と思うことでしょう(笑) 2010.5.25