現在、警備隊で「大隊長」と呼ばれている社長のケン―通称「父」―には、7人の息子が居ますが、実の子は
	六男のタロウだけです。しかも、養子達の殆どがタロウが生まれた後に引き取られたという噂を聞いた、三男
	セブンの息子であるゼロは、それぞれの理由について、本人達に直接訊いてみるという暴挙をかましました。


case1 ゾフィー

	「私は、唯一タロウが生まれるより前に引き取られたけど、『息子』というよりは『跡取り』の意味合いが
	 強かった筈なんだよね。結婚して10年子供が出来なかったとはいえ、母はまだ全然若かったし」

	曰く、警備隊は元々キングの傘下の会社の一つだったものを、キングの孫娘マリー―通称「母」―の婿である父が
	独立させたそうで、1代限りで潰すわけにもいかない。ということで、親族の中から将来有望そうな子を選んで
	引き取ったのが、当時中学生だったゾフィーなのだそうです。

	「コイツは、今でこそこの通りに残念な奴だが、これでもガキの頃は、一応かなり優秀な部類に入っていたんだ」

	そんな茶々を入れたのは、ゾフィーの古馴染みの友人ヒカリでした。

	「ヒカリちゃんは、昔っから口悪かったよね。……で、まぁ、とにかくそんな訳で、養子になりはしたけど、正直
	 学生時代は、単に従姉夫婦の所に下宿しているような感覚だったし、その後も、家族待遇な社員として就職した。
	 って感じだから、弟達は可愛いけど父と母は、そう呼んではいるけど、親とはあんまり思っていないかも」
	「そういや、随分と長い間『マリー姉さん』呼びが抜けなかったし、お前の場合、実の親兄弟も健在で、実家も近いしな」
	「は? 何だよその呼び方。しかも、家族居んのかよ!?」

	ゾフィーもヒカリも当然のように話していますが、ゼロには結構衝撃でした。

	「だって、元々従姉弟だったから。年の差も、母と私と、私とタロウは殆ど同じ位だし。……そしてね、良い年
	 こいた息子なんて、孫の顔を見せに来るんでも無かったら、それなりに近況が判っていれば、帰省しなくても
	 良いというか、帰っても邪魔な扱いされるだけなんだよ」

	遠い目をするゾフィーの横で、同い年のヒカリも大いに頷いていましたが、その辺りのことはまだ中坊のゼロには
	よく解らないので、次に行くことにしました。


case2 マン&セブン

	「俺は、一応父の遠縁に当たるらしいんだが、親が親族と縁を切っていたか何かで、事故で俺以外の家族が死んだ
	 という情報が届かなくて、偶然そのこと知り合いから父が聞いて知るまで、数年施設に居たんだ」
	「私は、物心つく前からその施設育ちで、セブンを迎えに来た父が、セブンとまとめて引き取って下さった」

	正確には、セブンが「マンも一緒じゃなきゃ嫌だ」とダダをこねたそうで、その絆にゼロはちょっとイラっと
	来ましたが、辛うじて僻みのような悪態は飲みこみました。

	「で、この家に来て、すごく母に良くしてもらったんで、未だにコイツは母信者なわけだ」

	ついでに、無邪気に慕ってくれたエースやタロウも可愛かったので、今でもちょっぴり弟達に甘いのだそうです。

	「……。前に、その頃のマンはレイっぽいって言ってたから、レイを引き取ったのか?」
	「ん? 何か言ったかゼロ?」
	「何でもねぇよ。んじゃ、もう良いから別の奴ん所に行く」

	ついうっかりこぼれた、僻みなのかやきもちなのかよく解らない呟きが、セブンには聞こえなかったのに少し
	ホッとしたゼロは、ぶっきらぼうに誤魔化しながら次に向かいました。しかし


	「……かつての私に似ているのと、ゼロを手元で育てられなかった代わりと、父の真似と、純粋にレイが可愛いくて
	 何かしてやりたかったから。だよね、セブン?」
	「ああ。……言っておくが、一番比率が高いのは、親切心だからな」
	「解っているよ」

	本当はセブンにもマンにも聞こえており、ゼロが立ち去った後、こっそりそんなやりとりが交わされていました。



case3 ジャック

	「父子家庭で、ここの社員だった父が殉職したから」

	平然とした顔で、あっさりと衝撃の事実を告白したジャックに、ゼロは何の気なしに引き取られた理由を訊いて
	回っている事を後悔し始めました。しかし、実は更に下にいくにつれて、理由はもっと重くて暗いものになって
	いき、引き取られた当時の年齢も下がっていくのですが、ゼロはそれも知りませんでした。

	「親戚は、居なかったのか折り合いが悪かったのか知らないけど会ったことが無くて、当時すでに中3だったから、
	 中学を卒業したら働くことにすればどうにかなると思っていたんだけど、折角の申し出を断る理由も無かったし」

	詳しく聞いた所に依ると、どうもジャックの実父は父(ケン)を庇って負った傷が原因で亡くなった上、その頃には
	警備隊も組織的にも安定してきていて、殆ど死者も重傷者も出なくなっていたこともあって、責任を感じての養子の
	申し出だった可能性が高い。と、周囲には言われているのだそうです。

	「まぁ、その噂も半分は合っているんだけど、引き取られたばかりの頃に父本人に訊ねてみたら、『マンと似ている
	 気がしたから、コレも何かの縁だと思った』というのが、一番大きな動機らしい」

	苦笑するジャックが、当時もう少し詳しく訊いた話では、記憶に残っていないマンの親がジャックの親と親戚ならば、
	彼らも親戚同士ということになるし、もしそうでなくても、実の兄弟にしか見えない相手が居たら喜ぶのではないか。
	などと考えた。とのことらしいです。

	「あまり似てはいないけど、ゾフィー兄さんは母の、セブン兄さんは父の親戚に当たるらしいから、マン兄さん
	 だけ無関係で、それを少し気にしていた節が無いこともないみたいみたいなんだけど、当時の私の目から見た
	 限りでも、この家で一番大切にされていたのは、マン兄さんだと思うんだけどね」

	そういうジャックも、何だかんだ言って一番ちゃんと立てている兄はマンのように、ゼロの目には見えていました。
	そして、ほんの少しだけ、「親に捨てられた」と思い込んでいた頃の自分と、「自分はこの家の中で異分子なんだ」
	と感じていたマンがダブった気がして、何とも言えない気持ちになりましたが、それを気の所為だと思うことに
	して―気は進みませんが―、ここまで訊いた以上は、残りの2人にも事情を訊きに行くことにしました。

	




case4 エース

	「両親揃って警備隊員で、まだここが組織として色々不安定な時期だったとかで、相次いで殉職しちまったんだと。
	 んで、2人共天涯孤独だったらしくて、引き取れる親戚が居なかったから、ここんちに来ることになった」

	当時5歳だったらしく、多少は実の親のことも覚えている割に、ケロリと話すエースに、ゼロはどんな顔をしたら
	良いものか、少し悩みました。

	「んな、微妙な顔すんなよ、ゼロ。俺はゾフィー兄の次で、親を亡くしたのが理由なやつでは初だけど、同情とか
	 憐れみとか、ましてや『責任とって』みたいな上から目線じゃなくて、タロウと年近いってものあって、そんな
	 ちっちぇのを遺して逝っちまった親の無念を感じ取ったから。ってのが理由だと思ってる。何せ、俺を引き取る
	 って決めたの、母らしいし」

	自身がまだ子供なゼロにはよく解りませんが、「親とはそういうものらしい」と言われてしまったら、返す言葉
	などありません。
	
	「セブン兄が、レイをマン兄やお前にダブらせて預かったのと、おんなじようなことだと、俺は思ってる」
	「どういう意味だよ」

	エースの付け加えた言葉の、意味が解らないというより、エースが何を言いたいのか解らない上に、何かムカついた
	ので訊き返すと

	「いつだったか、軽く酔ってる時に『もっと早く迎えに行ってやりたかった』とか『アノ頃の俺に、もう少し力が
	 あったら』とかボヤいてたんだよ。アレ、多分お前の事」

	との証言が返ってきました。この話において、セブンは30ちょっとで中学生の息子が居るようなヤンパパなので、
	引き取れず名乗れなかったのは、その辺りのことが原因になっているのです。

	とまぁ、そんな少し横道ながら私的に有益な証言を得て、最後の1人―メビウス―の所へ行くことにしたゼロに、
	エースは「頑張れよ」と声を掛けましたが、その時は意味がよく解らず

	「何をだよ。あの能天気なのが、レイより小せぇ頃に引き取られたのは知ってっけど、お前らと似たような理由だろ」

	だから、ここまでで腹はくくった。そんな風にゼロが返すと、エースは曖昧に笑っていました。





case5 メビウス

	「えっと、物心つく前のことだからよく覚えてないんだけど、お母さんは僕を産んですぐに亡くなっていて、
	 お父さんは警備隊員じゃないけど、レイちゃんのお父さん達みたいな、警備隊と関係のあった人らしいんだ。
	 それから、僕には少し年の離れたお兄ちゃんが1人居たんだけど、そのヒロトお兄ちゃんが事故で生死不明に
	 なっちゃって、状況的にも精神的にも余裕が無くなって、僕を手元に置いているのが辛くなって、それでこの
	 お家に引き取られることになった。って聞いているよ」
	「……。お前な、そんな重い話をサラッとするなよ」

	普段通りニコニコ笑いながら話すメビウスに、ゼロは先程のエースの「頑張れ」の意味を悟りました。確かに
	コレは、マン並かそれ以上に重い事情なのに、あっけらかんとし過ぎていて、どう反応していいか困ります。

	「うん。でも、本当の事だし、僕はこの家に来れて良かったと思っていて、兄さん達の事も大好きで、最近本当の
	 お父さんにも会いに行けたし、ヒロトお兄ちゃんは生きてるって信じてるから」

	やっぱり笑ったままのメビウスの笑顔が、強がりでは無く本心からなのが解ったゼロは、その前向きさ加減に、
	内心脱帽しました。しかも、後からセブンから聞いた話によると、メビウスの実兄ヒロトは、家族での旅行先で
	事故に巻き込まれ、父親と弟を含むその場に居合わせた他の観光客を優先した結果、今も行方が判らなくなって
	いるそうです。そして、母親がメビウスを産んだ直後に亡くなっていることも相まって、何の否もない幼児だと
	解っていても、「この子の所為で」という感情が拭いきれず、更に幼い息子に対してそんな感情を抱いてしまう
	ことも自体も辛く、結果として父親のバンは、メビウスを手放すことを選んだとのことでした。
	そんな事情を、メビウス本人も一応聞かされてはいるそうだが、その上でああやって笑えるのは凄い。と、ゼロは
	少しだけメビウスを見直したようでした。




おまけ タロウ

	ついでなので、タロウに兄弟が増えた時のことを訊いてみた所。

	「兄弟が増えた時に、どう思ったか? そうだなぁ。ゾフィー兄さんは僕が生まれる前からいたけど、僕が物心
	 ついた頃は、まだ『母』と『マリー姉さん』がごっちゃだったから、『兄さんなんだ』って認識するまで意外と
	 時間が掛かったんだよね。で、エース兄さんが来たのは、物心つくかつかないか位の頃だから、ほぼ実の兄弟
	 感覚。マン兄さんとセブン兄さんの時も、ジャック兄さんの時も、まだ兄弟の出来る仕組みとかよく解って
	 いなかったから、純粋に『お兄ちゃんがまた増えた!』って感じだったかな。メビウスも『やったぁ、弟が
	 出来た』と『ついに僕もお兄ちゃんだ』位にしか思わなかったし」

	そんな、割と能天気な答えが返ってきましたが、当時のタロウと兄弟達の年齢は、ゾフィー…生まれる前:中1、
	エース…3歳:5歳、マン&セブン…5歳:12歳(中学入学直前)、ジャック…9歳:15歳、メビウス…10歳:2歳
	なので、特におかしなことはありません。

	更に、それぞれの事情は知っているのかと訊いてみると、「一応ね」と返ってきました。

	「聞いたのは後になってからだけど、マン兄さんの境遇とか、他にも訊いちゃいけないことや、触れちゃいけない
	 話題が結構あるからねぇ」

	とのことですが、ゼロは今回何となく訊いてみて初めて知ったことばかりだったので、
	(慌てて止めたり、微妙な顔する前に、俺にも一通り教えとけよな)
	と、ほんの少し思ったとか……




設定固めも兼ねて、何の気なしに書き始めたのに、悪癖発揮で思いの外重く…… メビに関しては、間違いなく公式を踏まえたのが原因だな 2010.8.24