受験シーズン真っ只中な、真冬のある日。受験生では無いけれど期末テストが近い中高生達が、
知人の大学生達の元に勉強を教わりに来ていた。
発端は、父親であるセブンに良い所を見せたかったゼロ(中2)が、セブンの兄弟達を頼ってみた所。
長兄ゾフィーやその友人のヒカリは、
「ここは、この公式を使って、」
「だから、何でこの公式なのか解んねぇんだって」
「何でそこでその式が出るんだよ」
「この計算には、この式を使うからに決まっているだろうが」
と、理系で天才肌だった所為か、数学にしろ理科(1分野)にしろ、根本的な所が噛み合わず、丁寧に
教えてくれそうな次男マンは、教科書の中を眺めて「懐かしいなぁ……」などと呟くと、ニコリと笑い
「ゴメン。教えてあげられる程、ちゃんと覚えてないんだ」
と、やんわりと断ってきた。
そして、マンと同じ位丁寧そうな四男ジャックは意外とスパルタで、五男エースと六男タロウは、訊く
前に「無理っ」と逃げた。
そこで少し考え、レオ・アストラ兄弟は本能的に避け、現職教師の80は忙しそうだったのでやめておき、
とりあえず一応歳上のメビウス(高1)や、新しく出来た友人達を頼ってみたが、彼らも試験期間中なので、
教えてやっている程の余裕はなく、むしろミラーナイト(高2)以外は、ヤバい教科もチラホラ……。
といった状態だった。
そんな彼らの話を、世間話的に聞いたガイアが
「僕、理科と数学と英語なら教えられると思うし、アグルやティガも居れば、大体カバー出来るよね」
と言い出し、
「まぁ、歴史と古典と、辛うじて現国や他の社会科の内容も、ある程度なら教えられるけど」
「数学と物理と化学なら見てやる」
ということで、ありがたく家庭教師を頼むことになり、問題児達はガイアとティガが担当し、アグルは
難関私立の優等生ミラーナイトの理数系を見てやったため、意外と上手いこといった勉強会の休憩中。
「所で焼き鳥。お前は何しに来たんだ?」
「相変わらず無礼だな、チャッカマン。私は、勉強会に参加出来ないエメラナ様に、代わりに混じって
様子を報告するよう言い遣ってきたのだ」
部屋の隅の方で、端から戦力外扱いのダイナと雑談をしていた、エメラナの家の使用人ジャンボットと、
働きながら定時制高校に通っているグレンファイヤーは、何となくお互いに反りがあわないらしい。
「こんな男だらけの場所に、エメラナ様を連れて来る訳にはいかないからな」
「ああそうかよ」
「実際は、学校を休む程では無いけれど、少々風邪気味なので、外出は控えているだけです。……私と
ジャンが付いていれば、大抵の場所にはお連れ出来ますし、皆さんのことは、ジャンもちゃんと信頼
していますから」
グレンファイヤーにケンカを売るジャンボットの言葉を、やんわり訂正したのは、同じくエメラナの家の
使用人の息子なミラーナイトだった。ちなみに彼は、
(今ここにいらっしゃる数人は、男性として認識されない気もしますが)
とは、思っても空気を読んで付け加え無かったが、
「てか、ネェさんらとかメビウスは、男と思われてなさそうだよな」
「……どいつもこいつも、僕が自分の女顔を気にしていて、間違われたりからかわれるのは嫌いだと、
何度言えば解るんだ!」
と、率直に口に出してティガの怒りを買ったのはグレンファイヤーだった。
「そういえば、僕の高校でも最近風邪やインフルエンザが流行ってて、リュウさんまでお休みだから、
テッペイさんやマリナさんに、ちゃんと予防するようにって言われたんですけど、みなさんはどんな
ことしてますか?」
キレかけのティガも、自分が女子っぽいと言われたことも気にせずに、のほほんと他のメンツにそう尋ね
話題を変えたのは、空気の読めない天然ちゃんのメビウスだった。
「……気合い」
「これはまた、意外な方から予想外の答えが返ってきましたね」
メビウスの問いに、ボソリと似合わぬ答えを返したのは、なんとティガだった。
「勿論、生活態度に気を付けて、うがい手洗いも欠かさず、予防接種も受けているよ。けど、万一僕が
病気で寝込んだりすると、この2人のフォローが出来なくなって、後々大変なことになるのが目に
見えているから、意地でもひかないようにしてるんだ」
若干諦めモードのティガ曰く、「この2人」とはダイナとガイアを指し、高熱をおして迷子の迎えに
呼び出されたり、「おかゆ」という名の劇物を食べさせられない為に、日々健康管理には、充分気を
つけているのだという。
「けど、それでも年に何度かは、風邪ひくよね。しかも、かなり酷い奴」
「……8割方、君が原因だよねガイア。……この人はね、咳や鼻水が酷い状態なのに、『だって検体ダメに
するわけにいかないもん』だとか『今日は大事な実験があるから』とか言って大学に行って、ウィルスを
撒き散らしてくる迷惑な存在だから、君達は絶対こんな風になっちゃダメだよ」
ガイアが風邪をひくと、同居しているアグルは、うつらないように友人―藤宮―宅や大学に泊まり込んで
逃げることが多い為、看病を押し付けられた挙句にうつされる。という貧乏くじを引かされるのは、大抵
ティガなのだという。その一方で、
「俺は、特に何かしてる訳じゃないけど、滅多にひかないな」
「そういや俺らも、ここ数年ひいた覚えが無ぇな」
「そりゃ、『馬鹿は風邪ひかない』って言うしねぇ」
周囲に風邪っぴきが居てもピンピンしている。と証言して、呆れたように納得されたのは、当然ダイナと
グレンファイヤーの2人だった。
「けど、アグルも風邪ひいてんのほとんど見たこと無いぞ」
「そこらの軟弱者と同じにするな」
ダイナの反論に対し、心外そうに眉をひそめたアグルに
「アグルも藤宮も、無駄に鍛えてるもんね」
「カップ麺とガイアの壊滅的な料理だけで、よく健康を保てるものだって、感心してるよ」
との、若干呆れたコメントを返したのはガイアとティガで、コレに関してだけは、公式と中の人の別の役が
元ネタだったりする(笑)
「確かに、身体を鍛え代謝や免疫力を上げることや、食事のバランスも健康維持には大切ですよね」
「エメラナ様の場合、その辺りは完璧の筈だが、それ以外には何かあるか」
大学生達のやりとりに、素直に相槌を打ったのはミラーナイトで、更なる予防法を尋ねたのはジャンボットだった。
「僕は、小さい頃から、毎日ジャック兄さんと一緒に乾布摩擦をして、セブン兄さんの作った予防ドリンクを
飲んでるからか、年に1回位しか引いてないです」
「……親父が作った予防ドリンクって、まさかアノ、泥沼色のクソマズイやつのことか? 俺は1口でも無理
だったのに、お前はアレを平気で飲めんのかよ、すげぇなメビウス」
マッドサイエンティスト一歩手前のセブンが作る栄養剤や薬の類は、大抵の場合、まず味・見た目・匂い等が
酷く、時々危ない副作用が現れることすらある為、稀にマトモなものや効くものあるが、身内には敬遠され
がちで、その「風邪予防ドリンク」は、そんな中でもかなり壊滅的な部類に入る味だという。それを、数年に
わたって常用しているというメビウスに、ゼロは素直に感心した。
「え、何。そんなすごいの、ソレ?」
「興味あんなら、親父に言や作ってくれるだろうけど、止めといた方が良いと思う」
「平気じゃないの、ガイアなら。自分で作る料理も、壊滅的な味にしかならないんだし」
何しろ、ゼロや他の兄弟はおろか、アノ母にさえ
「これはちょっと……」
と口を押さえて吐きそうになられた程で、セブンのもう1人の養い子レイには絶対に飲ませるなと、マンが
本気で止めたらしい。
それでも、好奇心旺盛で料理の腕が破壊的なガイアなら、別にいいのではないか。と、投げやりに言ったのは
ティガだったが、後日実物を実際に飲んでみた所「飲めなくはないけど、もういいや」程度の感想だった。
その後。休憩を切り上げてからもしばらく勉強を続け、苦手な教科に重点を置きつつ他の教科もまんべんなく
見てもらった結果。当初の目標通り、いつもは赤点か赤点スレスレの教科も余裕で平均点で、その他も普段の
倍近い点数をとれたゼロは、教師とセブンの双方からカンニング疑惑を掛けられてしまい、
「もう二度と真面目になんかやるか!」
とキレそうになったが、セブンには隠していたが頑張っていたことを知っていたマンや、一緒に勉強した
メンツのとりなしで、どうにかその疑惑は晴らすことが出来た。けれど、「疑われるのは、これまでの
態度が原因なので、改めた方が良い」的な苦言を、そのとりなしてくれた面々の殆どから言われ、また
更にキレそうになったとかならないとか。
新しい子達を家族モノにも出してみたくて、最初に浮かんだのが風邪対策ネタだったけれど、
そこに繋げる為に前置きを考えたら、どっちがメインか良く解らない感じに……
2011.2.3
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