モロボシダンことウルトラセブンが、地球を去って1年以上経った頃のこと。ウルトラ警備隊の 友里アンヌ隊員は、体調に異変を感じた。 微熱やダルさ、そして時折襲ってくる吐き気というそれらの症状は、妊娠初期のつわりの時のものと よく似ていたが、思い当たる節はダンしか居なかった。 けれど、ダンは地球人では無かったのだから、可能性は否定しきれない。と考えたアンヌは、念の為 激務である警備隊を「一身上の都合により」と、推測は伏せたまま辞し、看護師として細々と生計を 立てながら、その子供を産む覚悟を決めた。 しかしそれから数年の間。依然体調不良は続いているが、体型に変化は見られ無かった為、勘違いだったかと 思い直し始めた矢先のある日。腹部に激しい痛み─後から考えると陣痛─を感じ、その数時間後に、アンヌは 2人の男児を産み落とした。 自分達に似た黒髪と、おそらくはセブンの真の姿に似たのであろう銀髪である以外の、顔立ちなどは瓜二つの 息子達は、ダンとはあまり似ていなかったが、それでもアンヌにとっては愛しい我が子達だった。 とはいえ、妊娠期間のことを鑑みても地球人とは成長速度が違うであろうことから、私生児として届ける 訳にもいかず、更にあの強靭なウルトラマンの血を引いているとは思えない程、乳児期の2人は虚弱だった こともあり、適した成育環境を探すため地球を離れいくつかの星を転々としながら育てた為、旧知の誰も アンヌが双児を産んだことを知らなかった。 それでも、銀髪の方に「セブン」と同じ数字の「ゼロ」、黒髪の方には「ウルトラ」をもじって「ウリー」と 名付け、惜しみない愛情を注いで懸命に育てた息子達が、よちよち歩きが出来るようになったある時。休日に 母子で買い物をしている最中に、磁気嵐に見舞われた。 その星では、磁気嵐は地球における突風や砂嵐程度の、何ら珍しくもない現象だが、極稀に時空が歪む ことがあることは、アンヌも聞いていた。けれど、普段通り息子達を抱きしめて磁気嵐をやり過ごした後。 目を開き、腕の中で怯える息子達に「もう大丈夫よ」と微笑みかけようとすると、しゃくりあげて泣いて いるゼロの横に、ウリーの姿が無かった。 それが、磁気嵐で発生した歪みに呑まれたからなのだと気付いたアンヌは、少し離れていたとはいえ磁気嵐を 遮断出来る屋内に掛け込まなかったことや、せめて2人まとめて抱え込むのではなく、手を繋いでいれば…… などとひたすら自分を責めた。 とはいえ、残されたゼロを放っておくわけにもいかず、また、時空の歪みに呑みこまれたが生還した者も僅か ながら居なくはない。との証言を支えに、今度はウリーを探す為にゼロを連れ星々を転々とするようになった。 けれど、何の当ても手掛かりもない上に、磁気嵐で生じた歪みは次元や時間すら越えることがあるとの話も 数多く耳にする内に、次第に疲弊し捜索を諦めようかとすら思いかけた矢先。立ち寄った星と光の国には 交流があり、定期船も出ているとの話を聞いたアンヌは、引き寄せられるようにその定期船に乗り込んだ。 しかし、いざ光の国に着き、スペースポートに降り立った瞬間。ここまで来たは良いが、 ダンは、自分のことを覚えているのか 覚えていたとしても、未だに想っていてくれているのか 黙って子供達を産んだことをどう思うか ウリーのことを、どう説明すべきか そんないくつもの不安が頭をよぎり、アンヌは怖くなり身動きが取れなくなった。 そして、そんな自分を不安そうに見上げるゼロに、 「……コレを持って、ここで良い子にして待っていてね」 と、ダンの写真の入ったロケットとウルトラ警備隊の隊員バッジを託してその場に残し、そのまま光の国から 他の星への船に乗り込んだ。 そして、船中で我に返り自分が何をしたのか悟った時には、何も考えずに選んだその宇宙船は、光の国を遥か 離れた星系を飛行中で、遠方の星への直通の長距離船だった為、すぐさま最寄りの星で降りて引き返すことも 叶わなかった。更に、引き返したとして、自分は一体どんな言い訳をするというのか。どんなに言葉を尽くして 弁解した所で、許される筈の無い行為ではなかったか。そんな自問自答の結果。 「ウリーを見つけたら、絶対に迎えに行くから。だから、御免なさいゼロ」 と、断腸の思いでゼロを手放すことを決めた。 そうして、より一層必死でウリーを探し続けていたある時。「ウリー」と名乗り、どことなく磁気嵐に 呑みこまれた息子に似た雰囲気を持ってはいるが、年齢の合わない孤児の少年とアンヌは出会った。 けれど、息子が呑みこまれた歪みが時間まで歪んでいたり、数々の星を渡り歩く内に自分も時間の進み方が 他とズレている可能性が否定しきれなかった為、確証が無いままアンヌはその子を「息子かもしれない」と 保護し、確証を得る為にしばらく様子を見ると同時に、ゼロにも会いに行く決心を固める為の時間稼ぎも兼ね 地球を訪れた。 その時に、何とダンと再会してしまい声を掛けられたが、ゼロを結果的に置き去りにし、今も迎えに行けて いない罪悪感と、セブンがそのことを知っている可能性への恐怖。そしてウリーに対する説明をどうすべきか 悩んだとこなどから、別人を装ってしまった。 しかし、実はこの時点ではセブンは、一旦光の国に戻った後すぐにまた離れた為、スペースポートに置き去りに された幼児の噂は聞いてはいたが、その子が手にしていた品が自分にまつわるものであることまでは知らされて いなかった為、自分に息子がいることを知らなかった。 そしてゼロも、保護された当時 「お父さんかお母さんは?」 「おかーしゃん、どこ?」 「他に、誰か一緒だったひとは?」 「うりいないの」 程度の受け答えと認識だった年から、まだ殆ど育ってはいなかった。 その事実を知らなかったアンヌは、抑制されていたストレスから暴走したウリー共々、レオに安全な星に 送り届けられた後も、ゼロとダンのことを考え、沈んでいることが少なくなかった。そんな彼女の姿を見て、 「自分の所為で悩んでいるんだ」 そう解釈したウリーは、ある夜 「コレ以上困らせちゃいけないから」 と、姿を消した。 そして、宇宙を放浪中にサロメ星人と出会った時には、幼児期から大人しいというよりぼんやりとしており、 色々あって感情の起伏が乏しく育った所為か、ロボットないしは人造の機体と間違われたが放置し、名を 告げることもしなかった。その後今度はベリアルに拾われた時には、面倒なので 「確か、”ダークロプス”でしたか」 とのダークゴーネの言葉を否定も肯定もしなかった所。そのまま呼ばれるようになり、再度量産型の原型に されたが、それすらどうでも良いと感じる程に、殆どの感情が欠如し口数も少なくなっていた。 その一方で、再びウリーを失ったことでゼロに合わせる顔が無くなったアンヌは、贖罪の祈りを奉げながら 今もウリーを探し続けており、ゼロは様々な事情による判断から、親について一切教えられず育った結果、 あの通りにひねくれてしまった。 それら全てのボタンの掛け違いが解消される日が来るのか。それはまだ誰にも解らない。2011.10.10