ある日の宵の口。宇宙警備隊の隊長ゾフィーが、研究室隠りっきりの友人ヒカリを「息抜き」と称して
飲みに付き合わせた居酒屋のカウンター席の端で、手酌で日本酒を傾けている知り合いを見付けた。
「おや、ゼノン。珍しいね」
「こんばんは、ゾフィー隊長。私だって、一人で飲みに来ること位ありますよ」
「それはそうだろうな」
「と言いますか、四六時中アノ馬鹿のお守りをしているなど、真っ平御免ですから」
声を掛けたゾフィー達に気付き軽く頭を下げたゼノンは、パッと見いつも通りで、そりゃたまには騒がしい
自称最強最速の部下とは離れて、静かに飲みたいこともあるよね。とゾフィー達は納得したが、ヒカリの
相槌に答えたゼノンの目は、何か据わっていた。
「……以前のマックスは、もう少しマトモと言いますか、そこまで真面目だった訳ではありませんが、可もなく
不可もなく、まぁ地球への出向を認められる程度の実力は一応ありましたが、それでも特別目立った所もない、
極平凡な隊員だった筈なのに、地球から帰って来たら、あの通り馬鹿で借りたものも返さないようになって
いたのですが、やはり地球に行くことを認めたのは間違いだったのでしょうか?」
穏やかな口調で、しかしボロクソに部下─マックス─をこき下ろし、一つ置いて隣に座ったゾフィーに絡んで
来たゼノンの手元周辺をよく見ると、壁際に先程から手酌で飲んでいるとおぼしき一升瓶が見え、その中身は
ほとんど空になりかけて来た上、試しにヒカリが店員に訊いてみたところ、アレは2本目だったらしい。
ということは、元々どの程度の強さで、酔うとどうなる性質かは知らないが、ほぼ間違いなく現在は相当な
酔っ払いな訳だな。と判断したヒカリは、絡まれるのはゾフィーに任せ、飲むものやツマミ─もちろん自分の
分のみ─を選び始めた。
「あー、うん。地球に行くと、何かガラッと変わって帰って来る子居るよねぇ。クソ真面目で堅物タイプの
目立たない隊員だと思っていたら、ある日いきなり任務の途中で失踪した挙句、帰還命令に逆らったり、
なーんかやけに体育会系要素プラスされちゃったり、『80がすごくちゃんと先生になっていて驚いたわ』
ってユリアンも言ってたし、アストラから『昔の兄さんは、あんな泥臭い熱血系じゃなかった!』なんて
愚痴を聞かされたこともあるって、セブンやゼロが言ってたしねぇ」
聞き流すかフォローするのかと思いきや、乗るのかよっ。と心の中だけでツッコミながらも、とりあえず注文を
しようとしたヒカリに、
「あ、私は、とりあえずビールとナスの揚げ浸しね」
とすかさず自分の注文を挟むと、ゼノンとの会話─というか例の羅列─に戻った。
「他にも、クールに見せ掛けて意外と激情型で喧嘩っ早かったのは元からだけど、しばらく失踪してる間に
熱血要素がちょっぴり入っただとか──」
「ちょっと待て。それはまさか俺か」
「うん。セリザワって、根っこはリュウと同タイプでしょ」
「……。やはり、同化した人間態の方や、周囲の方々の影響は少なからず受けるようですが、劣化して
帰って来たのはうちのマックス位ですかね」
ポツリと呟いたゼノンに、
「安心しろ。端から世間知らずで何処かずれていて、地球から戻ってからも多少成長していなくもないが
未だに大して変わっていない奴もいるし、反抗期がマシになったと思ったらチャラくなった。と父親を
嘆かせている奴や、余計な文化を覚えた奴もいるよな」
純粋培養なド天然のメビウス。ある意味素直な若造ゼロ。そして、オタクや腐女子化属性のついて
しまった2人をヒカリは挙げた。
「あー、うん。タロウやユリアンの趣味ね。それは確かに要らない属性だったかもねぇ。あとタロウは、
教え子兼弟が絡むとあんな風になるなんてビックリだったよね」
「お前がそれを言うか。兄馬鹿でサボり魔になり下がったコーヒー狂が」
しみじみと頷くゾフィーにヒカリが入れたツッコミに、
(ああ。今の隊長のダメな所は、殆どマンさんを地球に迎えに行って以降でしたっけ。とすると、
部下なだけまだマックスはマシなんでしょうか……)
ほんの少し酔いの醒めかけた頭でゼノンはそう思わなくも無かったが、それでもやっぱり劣化は劣化で、
出来ることなら使える部下の方がありがたいに決まってますよね。と、後から思い直したという。
余談だが、このオッサン達がグダグダ呑んでいた店には、たまたま他の隊員も飲みに来ており、
衝立を挟んだ席でやり取りが聞こえていたその隊員は、目の前に座る相棒(?)を見ながら
(コイツというかこの人もなぁ、地球に行って組むようになるまでは、尊敬していて憧れの人
レベルだったと言えなくも無いんだけど)
と密かに心の中で溜め息をついたが、
「何、ネオス? 僕の顔に何か付いてる??」
と何故かうきうき訊いてきた相手に
「別に何も。ていうか、ウザいからマジマジとこっち見るのやめてもらえるかな、21」
バッサリとそう切り捨て、
(まぁ、コイツの場合、ゾフィー隊長と同じように、本性やダメな所ががバレていなくて噂や
功績だけが一人歩きして、憧れられているタイプかもしれないしね)
と結論づけたのだった。
柳佳姉さんのサイト「旅籠 猫屋」4周年記念の貢物
地球に行ったらアホの子になって帰って来た後輩について酒の席で絡むゼノさんと乗っちゃう兄さんに、
「21もかな」思ってるネオスくん辺り希望でしたが、ゼノさんより兄さん+ヒカリちゃんばっかで
ネオスくんオマケ扱いになってしまいスンマセン。
2012.7.16
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